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【霞ヶ関を知る本の紹介)まるでプロジェクトXの世界!伝説の役人の自叙伝
夜遅くまで、霞ヶ関の中の人たちはいったいどんな仕事をしているんだろう?と皆さん不思議に思っているのではないですか。
今はネット社会になったので、twitterやブログで個人の見解を書く人もちらほらいるので、少し垣間見ることはできているかと思いますが、守秘義務もあって仕事の詳しい内容をお話しするのはなかなか難しいです。
そんな中、実は昔の霞ヶ関の官僚で、自らの人生を捧げた仕事について、赤裸々に個人名もあげて超具体的に書かれた本があるのです!
その本の名前は
「私史 環境行政」 橋本道夫作
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タイトルからして、ちょっと面白くなさそう・・・と引いてしまうかと思いますが、
内容はまるで「半沢直樹」や「官僚たちの夏」級のドラマティックなお仕事自叙伝!
これはプロジェクトXとか、ドラマになるんじゃないかと思います。
とっても分厚い本で、専門用語も多いので、正直読むのに時間はかかりますが、役人希望の人は必須のお仕事バイブルですし、役人の喜怒哀楽を感じてみたい人にもオススメです!
少し本の内容を解説したいと思います。
著者の橋本道夫さんという方は、「伝説の医系技官」や「ミスター公害」と呼ばれ、戦前生まれの医師の資格を持った方です。終戦頃に大阪大学医学部を卒業後、10年ほど大阪府の保健所などに公衆衛生の医師として勤められた後、厚生労働省に医者である官僚、いわゆる「医系技官」として入省されました。
橋本さんが厚生労働省で入省したときには、日本は高度経済成長期。
第二次産業が花開いた反面、工場などから出る大気汚染や水質汚染などにより、人々の健康が害されているのではないか?と言われ出したところでした。しかし、当時は「公害」という言葉もなく、目がチカチカし、息もするのが大変な大気汚染に対しても何の規制もありませんでした。
経済成長が一番の国の方針だったときで、国も企業もイケイケです。
それを規制するような方向で動く人は誰も居ませんでした。
そんな中、橋本さんは厚生労働省に中堅の平役人として着任し、人生をかけて様々な「公害」の規制と被害者の救済措置に関する法律を作っていきます。さらに、「公害」対策をする省庁として「環境庁」が設立されることに貢献し、そこの局長になり、さらに環境庁退職後は環境と健康についての研究者として世界に情報を発信されました。
この本のすごいところは、当時橋本さんが仕事を通じて感じたこと、失敗したこと、反省していること、こうすべきだと思うこと、悔しかったこと、葛藤したこと、すべて赤裸々に書かれているところだと思います。
決しておごらず、「自分はこんな凄いことやったんや」みたいな自慢話は一切ありません。
自分だけがやったみたいな手柄話もありません。
仕事仲間を尊重し、素晴らしいと思った人たちに対しては個人名を出して褒め、逆に不誠実な対応や裏切りに対してもはっきりと名前を出して書かれています。しかも恨み辛みを書くのではなく、そのまんま、それにだまされた自分への自戒も含めて書かれているのです。
これを読めば、官僚がどんな思いで、日々の仕事に真剣に向き合っているか、そしてどんな苦労や超えるべき壁があるのか、結果的に大々的で画期的な法案を作ることが、いかに歳月がかかり、様々な科学的知見と、ステークホルダーとの駆け引きと調整と行政判断がいるのかわかります。
また、橋本道夫さんの「医師」という科学者の一人であるというアイデンティティと、「行政マン」としての政策判断をする役割との葛藤もわかります。
日本が今、都会でもまずまずのきれいな空気を吸って健康に生きていけている背景に、このような人たちの努力があったのだと、正直素直に感動しました。
機会があって、公害の訴訟をしていた原告団の長をしていた方と話をしたことがあります。
その時に、ある意味で敵対関係になるような相手である橋本道夫さんに対して、
「あの人は誠実な人で信じられる。何度も局長室で話をした。できることはちゃんと対応してくれ、できないことはできないとはっきりと言う人だった。自分は立場上、できないと言われるとヤジを飛ばさないといけなかったが、内心はあの人が出来ないというならそうなんだろうな、と思っていた」と話され、
公害の大気汚染のある物質の基準が緩くなり、原告団としては怒るような案件に対しても、「自分がその立場だったらそうしたと思う」
と話されていました。
利害関係者にそこまで言ってもらえる人間力を持つ役人は、どれくらいいるのか。
それはわかりませんが、この本を読むと自分を律する気持ちになります。
役所の仕事はチームワークで、誰が手柄をとったと言うのも本来ナンセンスだと思います。(手柄話を自慢げにする人にこの本を読ませたいです)
ぜひこの本をドキュメンタリーかドラマにしてほしいな!と熱望します!
もうお亡くなりになられた橋本道夫さんですが、この本を役人やお仕事をする人皆さんに読んでいただいて、少しでも多くの人に橋本さんの熱い気持ちや信念を引き継いでほしいです。
【参考】
ニュース記事 橋本道夫氏が死去/霞が関の「ミスター公害」
http://www.shikoku-np.co.jp/national/science_environmental/20080430000174
大阪大医学部を卒業、米国ハーバード大公衆衛生学部大学院を修了し、1957年に厚生省に入省。64年に新設された公害課の初代課長を6年間務め、公害対策基本法、大気汚染防止法、騒音規制法の制定に中心的役割を果たした。また、イタイイタイ病とカドミウム、水俣病と有機水銀の因果関係をそれぞれ認める「厚生省見解」を執筆し、被害者補償への契機をつくった。
環境庁発足に伴い、72年に同庁損害賠償保障制度準備室長として公害被害者の救済制度を確立し、環境保健部長、大気保全局長を歴任し退官。
追悼対談 橋本道夫さんについて語る記事