見出し画像

青春と電子音

 もう大人になった方々向けに書きますね。もちろんこうして公開記事にする以上年齢制限はないです。

はじめに

 皆さんの青春に伴走していた音楽はありますか?どんなアーティストの、どんな曲でしたか?アイドル歌手、演歌歌手、クラシック、ジャズetc…ジャンルは様々でも、多くの人にはそういう音楽があるのではないかと思うのです。今でも大切かもしれないし、今は離れてしまったかもしれない、でも十代のころによく聴いたり、口ずさんだりしていた音楽。

 私が高校生だった頃、YouTubeでは「恋するフォーチュンクッキー」(AKB48)が再生数を伸ばしていたり、ユーチューバーという人々も世間に出てきていました。大体そんな頃、アニメが好きという共通点から喋るようになった一つ年下の友人が、好きな音楽を紹介してくれました。

 歌っているのは人間ではなく、当時もうすでに相当の盛り上がりを見せていた、人間の声をもとに作られた音声合成ソフト「VOCALOID」(以後カタカナで「ボーカロイド」と表記)。最も有名なのは初音ミクですが(「千本桜」(WhiteFlame(黒うさP))などが有名ですね。)、友人が紹介してくれたこの「六兆年と一夜物語」(KEMU VOXX)は、その当時リリースされて比較的日の浅いIAというボーカロイドが歌っていました。「ニコニコ動画」から盛り上がったボーカロイド自体の歴史から見れば、「youtube」の台頭の後に聴きだした、ましてやIA中心に聴き始めた私などは新参者ですが、しかしだからこそ、ボーカロイド楽曲が当たり前にある状態のところへ飛び込んだと言えるでしょう。そう、今回はボーカロイドの話を、そして私の青春の話をしたいと思います。
 一応ボーカロイド知らない、聴かない方も読めるように書いていきたいと思っていますので、ボカロ大好きな方々は悪しからず。そういう方はちょっとマイナーなおススメの曲を教えてくださいませ。ちなみにボーカロイドの歴史などを正確に語れるほどは詳しくないので、それについてはリンクからどうぞ。

私とボーカロイド

1.ボカロの世界への入り口

 はじめは、テレビなどのメディアに取り上げられていた初音ミクや、そのの格好をしたコスプレイヤーを見て、ふーん、くらいでそう興味もなかったのですが、友人が「六兆年と一夜物語」などを紹介してくれてからは、嵐やAKB48の楽曲には、それらにはまっている友人ほどは興味もなかった私が、一番聴きこんだものがボーカロイド曲だったかもしれません。中でも、シリーズになっていて、物語性があるものが好きでした。じん(自然の敵P)作の「カゲロウデイズ」をはじめとする「カゲロウプロジェクト」(カゲプロ)、mothy(悪ノP)作の「悪の召使」「悪ノ娘」などからなる「七つの大罪シリーズ」など。特に「カゲプロ」に属するじんの曲なら、カラオケに行って適当に曲を入れても多くの曲は今でも歌えるのでは?くらい聴いていました。
 ちなみにですが、ボカロというソフトを使って作曲をする人のことを「ボカロP」(ボーカロイドのプロデューサー)と言います。

中二病と「カゲロウデイズ」

 「バッと通ったトラックが君を轢きずって鳴き叫ぶ」
 少年が夢を見ていて、公園に一緒にいた女の子がトラックに轢き殺されてしまう。「嘘みたいな陽炎が「嘘じゃないぞ」って嗤ってる」そんな光景と蝉の声を最後に、少年は目を覚ますが、公園で今見ている光景が夢と同じだと気付く。少女に帰ろうと促したが、「落下してきた鉄柱」によって彼女はまた死んでしまう。少年はまた目を覚ます。また夢。そしてまた少女に会い、そのようなことを繰り返す。有体に言うと同じ状況をループしている少年は、曲の最後で、少女がトラックに轢かれる前に、彼女を押しのけてトラックに飛び込む。「カゲロウデイズ」はそんな曲だ。
 より詳しくは動画をどうぞ。

 ですます調に戻しましょう。私は思春期であるからこそ、この曲に惹かれたのでしょう。「中二病」なんて言ったりもしますが、反抗期でもあり、いわゆるちょっと「イタい」ものとか、「ダサい」ものが、最高に「カッコいい」と思えるなんとも素敵なあの時期。ない方もあるかもしれませんが、多かれ少なかれ多くの人にはあったのではないでしょうか。大人たちが一蹴するような理想論を堂々と振りかざして、正義感に溢れていたかもしれませんし、そんな友人を冷ややかに見つめていたかもしれません。そんな頃の私に、この動画は非常に興味深く映ったのです。

2.ボーカロイドだから歌える曲

 ボーカロイド楽曲には、ちょっと人間のアーティストの曲として発表するには過激だったり、闇が深すぎたり、歌詞が意味深長すぎたり、そもそも人間が歌えないくらい早口で息継ぎもないものなどがあります。一口に「ボカロ」と言っても、作曲者の得意とする音楽のジャンルは様々なので一概には言えないのですが、ボーカロイドだからこそ歌える曲の数々は、高校生の私を魅了しました。
 思春期に私はわりと暗い思考をすることが多かったタイプで、物語の主人公よりも、主人公が闇から救おうとする人物が好きでした。中二病だったので(今でも好きですけれど、少し目線が変わってきています)。そんな自分を鏡のようにそういった楽曲に映して見ることができたのかもしれません。私がわりと代表的で有名かな、と思う、ボカロだからこその楽曲をいくつか挙げてみましょう。
 「脳漿炸裂ガール」(れるりり)、「初音ミクの消失」(cosMo@暴走P)、「マトリョシカ」(ハチ)、「命に嫌われている」(カンザキイオリ)など。もちろんほかにもあれもこれもありますが、ボカロ好きな方がいくらでもネット上で紹介してくれているでしょうから割愛します。私はこれを書きながら現在につなげる糸口を探しているのです。

思春期はセンシティブ 「脳漿炸裂ガール」(れるりり)

 脳漿が炸裂というのですからえらいことです。身も蓋もないことを言いますが歌詞の一部に性的なことがほのめかされてきます。カラオケで歌ったりしましたっけ。。。早口なので歌えると達成感あるんですよね。真面目な親御さんなら娘に聴かせたくないかもしれませんね。でも敢えて誤解を恐れずに言うならば、不安定極まる若い少女を歌っていますから、共感しうる何かがあったのでしょう。

ボーカロイドという究極の生命 「初音ミクの消失」(cosMo@暴走P)

 テレビでも紹介するようなわかりやすく「ボーカロイド」の曲です。冒頭だけでもお分かりになるかと思いますが、普通は人間は歌えません。歌う猛者もいるにはいるようですが。思春期というのは何事も究極を突き詰めて考えたりしませんか?まあ人それぞれですが、何事も究極というのは人を魅了するところがあるからこそ、ギネス記録なんかがあると思うのです。

だって私はいつでもそう、”継ぎはぎ狂った” 「マトリョシカ」(ハチ)

 左上の動画主のアイコンに見覚えのある方がいるかもしれませんね。この曲はもう聴いても何が言いたいのか、ハチの考察班といえるコアなファンか、相当色んな知識のある方以外は初見では全くわからないと言っていいでしょう。でもなぜかそんなものに惹きつけられる青春時代を送っていました。さあ、現在につなげましょう。ハチとは、今ではJPOPを聴く方でご存じない方はいないでしょう、米津玄師と同一人物です。「そんなん知っとるわ!常識やん!」なんて思ったあなたはいまだに思春期かも。
 米津玄師もアルバム買うくらい好きです。「Lemon」が有名ですね。宮沢賢治という作家に親しんで育ったのもあり、「カムパネルラ」とか好きです。脱線しそうなので次に行きましょう。

どんな歌も、どんな思いも簡単に電波で流してしまえるけれど 「命に嫌われている」(カンザキイオリ)

 これは社会に出てから聴くようになった曲です。それも、職場のタイから来た技能実習生におすすめされて聴いた曲です。海外でも有名なようですね。ボカロ曲を紹介しているので、オリジナルであるカンザキイオリさんが初音ミクを使ったもののリンクを埋め込みましたが、youtubeで検索するとまふまふさんの【歌ってみた】が一番上に来ると思います。ボカロ曲には「歌い手」とよばれる方たちによる【歌ってみた】動画も多く作られる文化がありますが、それについて語っていると徹夜しないと書けなくなりそうなので、「はじめに」の章にリンクを貼った「初音ミクができるまで」という記事を読んでいただくか、「歌い手とは」と検索をかけてください。
 まふまふさんはこの曲でNHK紅白歌合戦に出場しています。
 
 ある程度恵まれていたとしても、多感な思春期にはいろんな現実や人間関係に対して、はじめて大人に近い感覚で臨むことになります。マージナルマン(境界人)、なんて言い方もありますね。精神的に傷ついて「死にたい」なんて思ってしまったり、実際に自傷行為に向かいたくなったり。誰にも言えないこともボーカロイドが歌ってくれていると、思春期の、いえ、人生の闇に溺れない助けになったりするものです。

3.今の私とボカロ

 今もボーカロイド曲をよく聴いています。むしろ思春期よりずっと広く深く掘り下げたくなっています。時間は思春期よりもないんですけどね。そして、今の日本の音楽シーンを、なんと多くのボカロP出身のアーティストが彩っていることか。綺羅星のごとく。ここが私の音楽の都ウィーンかな、くらいの気持ちです。ここでも有名どころを挙げましょう。今度は曲でなくアーティストに注目しましょう。

言わずと知れた米津玄師

 「あたしあなたに会えて本当に嬉しいのに 当たり前のようにそれらすべてが悲しいんだ 今痛いくらい幸せな思い出が いつか来るお別れを育てて歩く」という歌詞から始まる「アイネクライネ」を持ってきてみました。この歌詞、まだ高校生だった私には、どうして「悲しい」のか、恥ずかしながらよくわからなかったように記憶しています。でも、当時から大好きな曲です。そして歌詞の意味は、大人の皆さんにはよくよく知っておいでになるでしょうし、年を経るほど、大切な曲になっていく気がします。もっと年をとっても、「Lemon」も、是枝裕和監督のMVがついた「カナリヤ」も、いくつもの彼の曲が、何度でも胸に響くでしょう。

”辿り着いたぜアンタの背だけを追って” syudou

 当時高校生のAdoの曲で、議論も巻き起こした有名な「うっせぇわ」。こちらは作者ご本人がセルフカバーをしているものです。syudou楽曲は時にやけくそのようですが、心の叫びを歌で文字通り叫んでいる曲が多く、それがすごく気持ちがいいなと思っています。何度も敗退した賞レースで勝利をつかんだ芸人を歌った「爆笑」(芸人コンビ、マジカルラブリーのことだと公表されています)や、最近ではアニメ「チェンソーマン」エンディングテーマ「インザバックルーム」で、「辿り着いたぜアンタの背だけを追って」と歌っていますが、これは同じアニメのオープニングテーマを、syudou自身が憧れていると語る、米津玄師が担当していることが関係しているのでは、と、そこここでファンが語るのを目にします。

「夜に駆ける」はカラオケで録音したとか YOASOBIのayase

 YOASOBIも紅白歌合戦に出ていました。作曲を担当しているayaseは楽器もできず音楽理論などもわからないまま、音楽ソフトで自分の感覚だけを頼りに曲を作り始めたといいます。「ソフト」であることで、楽器ができなくても、理論が分からなくても、曲が作れて、ミクをはじめとする「ソフトとしての」自由な歌い手もいて、そこには音域の縛りも演奏可能かどうかの縛りもない、その中で新しいものが生まれ、それをまた完全に殺すことなく人の手で演奏、歌唱できるようにしていく流れも生まれる、そこもボーカロイドの魅力かなと思います。まあ私には感覚だけで音を当て曲を作るなんてそんな芸当できませんけれども。

4.世界は続くよどこまでも

 ボーカロイド曲に対してなんとなく偏見がある、そんな感覚がボカロ好きさんたちにはある気がします。私もそうです。あの電子音の「声」が、あまり好きでない方もいるでしょうし、なんとなく「オタク」のものだよね、なんてイメージがあるんじゃないかなとか。でも、それが私の青春にあって、もう欠かせないもので、これからもあってほしいもので、なにより、世界を広げてくれるものなのです。純粋なボカロだけの世界に閉じこもるのではなくて、ボカロから始まった人たちが、ヒットを飛ばして有名になったり、ボカロを聴いていいなと思った歌手や声優とつながり、新しいグループや沢山の曲が生まれたり。そうして世界がつながり広がっていくと、自ずと私のような一ファンの世界も広がっていくのです。

ササノマリイに出会う旅

 今ずっと聴いていられるナンバーワンかもしれないアーティストがいます。しかし彼をめぐっては、私の中で非常に楽しいことが起きました。ひとつお話をいたしましょう。

 あるところに、いえアマゾンプライムビデオに、「ヴァニタスの手記」というアニメがありました。

 おすすめに出てきたそのアニメが気になって、見ることにしました。19世紀フランスという設定で、ヴァンピール(吸血鬼)が出てきます。萩尾望都の「ポーの一族」(これも「ヴァンパネラ」が出てくる漫画)が大好きな私はたちまち魅了され、私は原作漫画を買いましたとさ。めでたしめでたし・・・とは終わらなかったのです。

 オープニングを担当しているのは、「ササノマリイ」という人でした。最初はあまりピンときませんでした。最初は。しかしこの作曲家は恐ろしい人でした。。。なんと、自身が「ヴァニタスの手記」のファンで、なんと作品をイメージした曲をたくさん作り、アルバムを出してしまったのです。「サブスク」という武器を頼りに、試しに私も「ヴァニタスの手記」をイメージしながらアルバムを聴くうち、私はいつの間にか、ササノマリイの世界に誘われていました。アニメ主題歌はこんな曲でした。

 さて、ササノマリイのことを知っていくとすぐ、彼が「ボカロP」のねこぼーろ、でもあると知りました。ボーカロイド曲は聴くけれど、ねこぼーろのことは、知りませんでした。

 「戯言スピーカー」「自傷無色」が大好きになりました。ええ、もうササノマリイが大好きな人になっていましたとも。「ニコニコ動画」に、「ねこぼーろ」が作った、初音ミクが歌う同じ曲を聴きにも行くのでした。もう彼の声も、彼の作るミクの声も、どっちも好きでした。

 たくさん傷ついていた頃のことを思いだして、でもいやな気持ちにはなりませんでした。ササノマリイはソフトで音をたくさん加工して曲を作る人でしたが、なぜか音がすべて、優しい気がしました。syudouみたいな尖った音も好きだけど、こっちも好きだなあ、と思いました。めでたし・・・では終わらなかったのです。

 「Dios」というバンドを知ってしまいました。これはササノマリイが、前から交流のあった、元「ぼくのりりっくのぼうよみ」、今は「たなか」と名乗っている歌手に声を掛けられ、超絶技巧のギタリスト「Ichika Nito」と一緒に結成したバンドでした。私のスマホのプレイリストに、一気に三つ、アーティストが増えました。これはたいへんだ、でも世界が広がった、たのしいなあと思いました。めでたしめでたし、と思いました。今度こそ。

 私はゲームは得意ではないのですが、「刀剣乱舞」と、ボーカロイド曲で遊べる「プロセカ」というゲームだけはちょっとだけやります。課金はしません。
 あれ?私は気づきました。プロセカのゲーム内で遊べる曲のなかに、Sasanomalyの、ササノマリイの曲が、あるじゃないか。だって彼はボカロP、ねこぼーろなのだもの。そしてササノマリイ自身、・・・プロセカが好きなのでした!

 プロセカってなんだよって話なので、ホームページがこちら。

 プロセカのササノマリイ書下ろし楽曲

 さあ、今度こそめでたしと思うでしょう?それが、中国発の「羅小黒戦記」という長編アニメーション映画がありまして、これが好きなんですが、

 このアニメと同じスタジオが製作した短編アニメ「万聖街」の日本語吹き替え版を楽しみにしていたら、

 そうしたら、ササノマリイが日本語版エンディングを担当するというのです。彼は私の行く先どこにでも出現するのか??という戸惑いすら生まれました。さあ、この先もどうなっていくのか、俄然楽しみになってきました。

何が言いたいのかというと

 世界が広がっていく体験が私は好きです。そして、私の青春の伴走者のひとつであるこのボーカロイドという電子音は、私の世界が広がるひとつのきっかけとなり、私は世界に一人ではなく、同じような負の感情や闇を(もちろん喜びや光も)誰かが持っていること、一見「ジャンル」とか「外見」は違っていても、それらは繋がり響きあうのだということを、そんな青春じみた綺麗ごとみたいなことを、大人になっていく私に証明し続けてくれています。ササノマリイはそれが顕著な例として。

 青春、学生時代には、みなさん好きな授業も嫌いな授業もあったと思います。嫌いな、苦手な授業が、教師、あるいは友人に恵まれて、あれ、おもしろいのでは?となった瞬間、世界が広がっていったことがあります。友人の車で普段聞かないレゲエミュージシャンの曲がかかっているとき、知らないなあで終わらせず、よく聴いてみるのは、ボーカロイドから世界が広がったからかもしれません。

 思春期の頃のあのイタい状態を中二病というのは、何かと偏りがちな時期だからでしょう。でももしかしたら、中二病のどん詰まりの偏ったものの先にこそ、世界を広げる突破口があるのかもしれませんね。それを忘れないでいたいな、と思います。

 それでは最後にもう一つ、思春期中二病真っ盛りの私が聴きえない、でも今一番聴かせてあげたい一曲をお送りして終わりたいと思います。それでは聴いてください。ピノキオピーで「ノンブレスオブリージュ」

 最後に、これを書いている今の私に一言、もう25時の30分前ですよ。


初音ミクさん

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?