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眩しさと喪失の歌集―「水上バス浅草行き/岡本真帆」感想—

岡本真帆さんの「水上バス浅草行き」すごく好きです!

Yeah!めっちゃポリデントって送ろうと入れ歯の絵文字探してた ない

P70

みたいな思わず笑っちゃう短歌もあれば、

死にたいとそっと吐き出すため息の軽さで少し進む笹舟

P67

みたいにぐっとくる短歌もあって。
そしてもう戻らないあの頃を思い出すような短歌や大切な人を喪失した短歌もあって心が揺さぶられます。これについては後で書きます。

先に好きな短歌で過去に感想をツイッターにも書いたものを加筆修正しつつここにも書いておきますね。


ザネリにもいつか安眠できる日は来るのだろうか 虹の匂いだ

P161

初見で胸を打たれました。すごく好き。ザネリは宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の登場人物で、ジョバンニをいじめる存在でありカムパネルラに命を助けられる人物。この歌のザネリには「安眠できていない」というところから「後悔」や「苦しみ」があることが感じられる。主体はそんなザネリのことを思っている。雨の匂いとか川の匂いとかじゃなくて「虹の匂い」としているところに希望を感じたい。この歌は救いの歌だと思う。もしかしたら主体はザネリに似ているのかもしれないなと思った。人を傷つけて後悔があるとかで。自分をザネリと重ねているのかもしれない。虹の匂いは雨上がりの匂い、虹の気配なんじゃないかと思う。虹を見ることができればいいな。安眠できるといいな。ザネリも、主体も。


もうきみに伝えることが残ってない いますぐここで虹を出したい

P0

最初読んだときは恋愛の歌だと思った。言葉では伝えきれない愛情の歌かと。でも時間が経って読んだら落ち込んでいる相手を何とかして励ましたいという歌に聞こえた。慰めの言葉が響かなくてでも何とかして笑顔にしたいって。優しい歌だなと思ってなんだか救われました。


夢じゃないよねってうれしくなって聞く きみは夢でもうそがへただね

P162

一見絶望の歌に聞こえるんだけど私はこの短歌からとてつもなく大きな愛情を感じてわんわん泣きたくなってしまう。
以下妄想解釈。夢の中できみと会えたことがうれしかった。現実ではきみとはもう会えないから。きみはもうこの世にいないのかなと思った。夢の中のきみは「夢じゃないよ」と言ってくれる。でもそれがうそだと分かってしまう。ずっとそばにいたからうそかうそじゃないかはすぐに分かる。すぐバレるものだけど私のためにうそついてくれてありがとう。それを素直に言うのは恥ずかしいからうそがへただねって泣きそうな顔で笑いながら言う。夢なのが悲しい。でも夢だとしても会えて良かった。会えてうれしい。現実でもう会えなくても私はきみが好きだから。優しいうそをついてくれたきみの愛を感じられたから。
そんなストーリーが浮かびました。きみは恋人でも友達でも家族でもいい、とにかくとても大切な人。大切な人とはたとえ夢でも会えたらうれしいですよね。


さて、ではもう戻らないあの頃を思い出すような短歌を引用します。

ありえないくらい眩しく笑うから好きのかわりに夏だと言った

P34

深すぎた午睡の果ては水底の音楽室のような静けさ

P115

学生時代を思い出します。ありえないくらい眩しく笑う人がいたな。音楽室の静けさをなぜだか覚えてるな。彼女は音楽が好きだったな。吹奏楽をやっていたけれどきっと歌うほうが好きだった。

そして、喪失の短歌。

もう会うことはないだろうきみ 冬空の一等星は光り続ける

P88

ひとしきり笑って告げる「ゆめだね」で雪があなたをとじこめてゆく

P140

紫陽花がぜんぶ白くてもう君に会えないことを知る夢のなか

P147

私はこの歌集を読んだときに眩しさと喪失を強く感じました。私の中で眩しさと喪失は繋がっている。私は過去に本当に大切な人と永久の別れをしていて、その人が本当に太陽のような眩しい人だったから。彼女のことが大好きだった。
歌集を読んで彼女との記憶が蘇った。たくさんの楽しい記憶。そしてもう会えない現実に打ちのめされた。もう会えない。けれど、けれど。私は静かに準備をはじめた。遠くにある彼女のお墓参りに行く準備だ。約3年ぶりだった。前回が初めてのお墓参りで彼女がこの世を去ってから10年近い年月が経とうとしている頃だった。受け入れるのに時間がかかった。それから約3年ぶり、2回目。
結果としては行けて良かった。きっかけをくれたこの歌集には感謝している。ありがとうございます。

銀杏をくさいくさいと言い合って歩いたきみはいない 半月

P155

半月のままで生きていきます。なつかしいな、小学校の通学路に大きな銀杏の木があったな。風情なんて感じてなくてただ銀杏がくさくて踏まないように気をつけて歩いてた。


……なんかちょっとしんみりしてしまった。いや、あの、明るい短歌や希望の短歌がたくさんある優しい歌集なんです!私がそれらと喪失の短歌を結びつけてしまってるだけで……。冒頭に引用した「Yeah!めっちゃポリデント」の歌初見で噴き出したし、

当社比で顔がいい日だ当社比で顔がいい日に限って豪雨

P78

とか、わ゛か゛る゛……ってなった。あんまりむくんでなかったりメイク上手くいったりヘアセット上手くいったりでなんか今日私作画良くない!?って日に限って雨なのなんでですかね……。綺麗にセットした前髪が秒で崩れる、うねる……。これだから雨は嫌だよ……。

えー、とりとめのない文章になってしまいましたがここら辺で終わりにさせていただきたいと思います。
「水上バス浅草行き」とても素敵な歌集です。装丁もかわいいし中にもイラストがあってかわいいです。そこからもう始まるんだ!?っていうデザインも楽しい。みなさんもぜひ読んでみてください。


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