不思議な世界観に浸る歌集 ―『幸せな日々/多賀盛剛』感想—
多賀盛剛さんの『幸せな日々』、すごく好きな歌集です。世界観がすごい。読後感がすごい。読み終わって不思議な感覚でした。私は誰の(かみさまの?大昔の人物の?未来の人物の?)何を(記憶を?日常を?事実を?)読んだのだろう、と。
多賀盛剛さんは今年の1月にNHKでやっていた「つなげ言葉のバトン ~テレビ連歌会~」を見て知りました。短歌が全部ひらがなということや機械翻訳を使って作歌をしているということで興味を持って調べたら「第2回 ナナロク社 あたらしい歌集選考会」で岡野大嗣さんが選んだ方で歌集が出る、と知ってとても楽しみにしていました。
このツイートの多賀さんの歌を読んで不思議な感覚になり、岡野さんの評を読んで納得したりしました。
こんなこと言われたらめちゃくちゃ読みたくなるに決まってるじゃん?
ということで発売されてすぐに買って読みました。ほんとすごかったなぁ……満足感がすごかったなぁ……。デザインもすごく素敵なんですよ。最初は表紙だけ見て、ナナロク社の本にしてはシンプルだな?と思ったら中身がすごかった。洗 練 。そう、洗練されている。センスが良い、とかよりも洗練されている、と言いたい。この歌集の世界観を邪魔してなくてむしろ最大限に高めてるデザインなんですよね。さすナナロク社。繰り返し出てくる目次のデザイン好きぃ……。110、111ページはこのまま印刷して壁に貼りたいくらい好き。
いくつか好きな短歌の感想を書かせていただきたい。
言われてみればそうだ。この歌集の短歌は言われてみればそう、と思うものがたくさんある。星が見えるのは自分と星との間に障害物がないから。そう思うと自分と星は近いものに思えてくるし、同時に「ぽかんてしてて、」のぽかんの部分に果てしない空白、果てしない距離を感じて星は遠くにも思えてくる。不思議だ。
これは誰から、何から見た歌なのだろうか。「にんげんは」と言っているのでにんげんの外にいる誰かから見たようにも思える。その誰かはなんまんねんもまえもなんまんねんもあとも知っている。時間の超越。こういう不思議さがたまらなくいい。そしてなんでこんなに切なくなるんだろうな。ひらがなの表記の効果も大きい気がする。この歌集の短歌はすべてひらがなで書かれていてそれがまた不思議な世界観を作っている。
おとしたんだ……?何者かが、ひとを。たまにぞっとする歌もあってそれがまたいい。初読で私は読むのにすこしの緊張感を持っていた。淡々と世界が描写されていく中で残酷なことがさらっと起こってしまうんじゃないかと恐れたのだ。私がそういうのかなり苦手っていうのもあるんだけどね……。ドキドキしながら読んでいて、それもなんだか新しくて良かったなと思う。
「twice」という連作の歌。私はこの「twice」が好き。この歌集ではめずらしく今生きてる人間の視点の歌たちって感じがして。私はなんとなくこの「あなうんさあ」がすごく優しい人で、優しいからにゅうすに心痛めて泣いたんじゃないかって気がしてる。そんなことがあったって覚えている主体もいい。この歌集は関西弁の歌が多いのだけれど、この関西弁が本当に絶妙にいいよね。
胸がぎゅっと締め付けられる歌。初読でここでこういう歌が来るんだ……!と思った。すごく、すごく切ない。この歌集は本当に切ない。儚くて切ない。すごく好きだ。
この記事を書くにあたって『幸せな日々』を読み返して思ったのはやっぱり流れで読んでもらいたいということだ。……引用しといてアレだけど……(ごめん)。流れで読んだ方が歌の魅力が伝わると思う。そしてやっぱりこの世界観にどっぷりと浸ってほしいと思う。また歌同士の繋がりを考えるのも楽しい。私もこの歌とこの歌は繋がってるのかなとか思ったり思わなかったりしながら何度も読んでいる。
あとがきまで完璧なのよな……。あとがき、すごく「まくら」の話をしてて、お、おう……ってなったりするし、なんの話だ……?ってなったりもするけどこれも作品なんですよね。何度も言うようですけどほんと読み終わったあとに「すごいもの読んだ……」ってなる歌集だと思いますので、未読の方はぜひ読んでみてください!すごい読書体験ですよー!おすすめです!
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