巨人打線のピースを埋めた中田翔

 元日ハム・中田翔が無償トレードで読売巨人軍に移籍後初の先発出場を果たし、横浜DeNAのエース左腕・今永昇太の内角ストレートを完璧に捉えたホームランで原監督に一発回答を示した。巨人ファンから見ればまさしく「中田、ようこそ巨人軍へ!」といったところだろう。

不在だった「5番打者」の存在

 処分がどうとか更生がどうとかはさておき、中田の加入によって読売巨人軍は打線の重要なピースが埋まったと考えられる。それは、岡本和真の後を打つ5番打者だ。

 強打者の後ろには良い打者を置かなくてはならない。それは何故か、答えは明確だ。強打者の後にそうでない打者を置くことはすなわち、相手バッテリーに逃げ道を作っているようなもので勝負を避けるという選択が容易に出来てしまうからだ。これは数字からも明らかで、アダム・ジョーンズなどが期待外れで打線の中で孤軍奮闘していたオリックス・吉田正尚は2021年最も敬遠されたし、2021年被敬遠ランキングに中日・ビシエドがランクインしていないのは後ろを打っていた高橋周平が高打率を残していて、塁を埋めて打率3割超えだった高橋と勝負というのも危険という考えが相手バッテリーによぎったからだろう。

 そうした意味ではここ最近、巨人は岡本の後ろを打つ打者の存在に苦労してきた。現役晩年の阿部慎之介は代打あるいは5番一塁での出場が多かったが、特に5番スタメン時の阿部はいい働きをしていたように思う。晩年とはいえ2000年代後半から2010年代前半にかけて最強打者の一人として君臨した阿部の打者としての「格」は素晴らしいものがあり、岡本との勝負を避けて阿部と勝負するという選択はほぼ不可能だっただろう。また岡本にとっても、「後ろに阿部さんがいる」といった安心感は計り知れないものがあったはずだ。こんなようなことは以前も書いた気がする。その記事も2年前なので内容ペラッペラなことはご容赦いただきたい。

 そしてその阿部の引退後は5番打者を決めきれずに苦心し続けた。2020年は長打力こそ突出してはいないがコンタクトに長け、ポイントゲッターとして期待がかかったヘラルド・パーラがまさかの大誤算。シーズン途中に故障の治療のため帰国し、そのまま退団の流れとなった。しかし、日本シリーズでソフトバンク投手陣のスラット・スプリットに手も足も出なかった教訓を生かし、コンタクトに長けミートポイントの幅が広い打者を獲得しようという補強の方向性としては間違っていなかったように感じる。

5番打者に必要な資質と中田翔の適性

 現原政権の強みは明らかに野手力であり、球界のスター坂本勇人を2番に据えた「サカマルオカ」の2~4番が象徴的である。この3人は全員が30本塁打を期待でき、原政権野手野球の屋台骨を担っている。その後ろを打つ5番打者に必要な要素は上記のような岡本との勝負を強いる打者としての「格」と前の3人が塁にいる状態をホームに返す得点生産力だ。この2点において、中田翔は申し分ない。

 まず打者としての「格」はもはや言うまでもないだろう。日本ハムの主砲として長らく君臨し、また日本代表の常連でもあった。長年世界を相手に戦ってきた中田を侮れる投手はそうはいないはずだ。

 そして得点生産力も十分な実績がある。これまでのキャリアで100試合以上に出場したのは10年で、その中で100打点以上を記録したのは5年を数え、3度の打点王を獲得している。特に昨年は短縮シーズンで108打点を挙げたのは驚異的だ。打率はお世辞にも高いとは言えず、8/21時点で通算打率は.250である。しかしながらここまでの打点を稼ぎ出しているのは中田のチャンスでの集中力、好機できっちり打席が回ってくるいわゆる「持っている」選手であるなど、データでは表れにくい中田の選手のしてよ魅力を表しているといっても過言ではない。

終わりに代えて~8/22のホームランを見て~

 中田の移籍後初ヒットは追撃のツーランホームランとなったわけだが、この試合は実際にテレビで見ていた。それまでの打席は今永に執拗にインコースを突かれており、それに対応しきれずにいたが、この打席は初球のインコースストレートを捌ききった完璧なホームランであり、相手の入りを読み切った完璧な読み勝ちだったといえる。また同じ攻めで何度もやられてたまるかといった中田の意地も感じられた。今永も降板後に「これまでインコースを攻めてきて待たれているような予感もした。失投ではなかったが迂闊な選択だった」といった旨のコメントをしている。

この試合は勝つことが出来なかったが、今回のような狙いすました打撃で更に打点を稼いでいくことが期待される。球界の盟主である読売巨人軍での中田の野球人生の再出発を楽しみに見ていきたい。

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