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give back to the Beast



『この世の人間の前世はすべて異形の獣であったとある学者が言う。

真偽はさて置くとして、これから君たちの目の前にあらわれる物語にはこの学者の一見暴論にも思える学説を現実にする力がある。

タイムトラベルなどによって歴史を遡るといったいわゆる科学的な手法ではなく、むしろ限りなく非科学的な、一種の心理的構造を利用したやり方で君たちを導くだろう』



「誰も知らない物語」はこんな書き出しから始まる。

一体何を目的とした何のための前書きなのか今はわからないだろうが、そんな些末なことはいずれわかることなのでここでは割愛する。

どうしても語られなければならないのは貴方が今手にしている書物の、その禍々しいまでの輝きを放つ紙の束の効能についての話だ。

少し長くなるかもしれないし、ともすれば半分も聞かないうちに貴方は無意識の中に眠りこけてしまうかもしれない。


だが心配には及ばない。


なぜなら「誰も知らない物語」の冒頭部分を貴方が灰色の脳髄に刻み付けた時点ですべての準備は整っている。

貴方が先ほどから視線を送っているこの右腕、これが何よりの証拠だ。

深い紺色にざらついた鱗肌はやはり物珍しいのだろうね。紛れもなく物語の効能がもたらした劇薬であり、運命を前世へ誘うひとつの導線だ。

はじめに言っただろう? 『この世の人間の前世はすべて異形の獣であった』と。

そしてこの物語が『一種の心理的構造を利用したやり方で君たちを導く』とも言った。

そら、貴方も裾をまくって膝の裏を触ってみると良い。ネコの舌のようなギリギリとした肌の感触が徐々に剥き出して、いや、これ以上はいらぬおせっかいというものだ。

なんにしてもほんの数時間のうちに貴方も「誰」に数えられる生物ではなくなるのだから。



さて、物語を続けるとしよう。


【続く】

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