【短編】時の祭壇

「ねぇ、もっと一緒に遊んでいようよ。いいでしょう?」

奴は縋るように言った。

まるで夕方の公園に一人取り残された子供のような目で、俺を見る。

「いいや、もうお前とは一緒にいられない。俺たちは行かなくちゃならないんだ」

振り切るように言う。

奴との時間は、俺たちにとって辛い日々だった。

自然に襲われ、時代に虐げられ、何もかもが嫌になってしまった。

奴は悲しそうな顔をして俯く。

つい手を引いてやりたくなるが、それは誰にもできゃしない。

代わりに俺は言った。

「でも、絶対に忘れないから」

奴は数々の悲しみと絶望を生んだけれど、同じくらいの喜びを運んでくれた。

春には花を、夏には緑を、秋には実りを、冬には雪を、それぞれに「新しい時代」の彩りを添えながら。

置いて行くことしかできないけれど、同時に忘れることも決してないだろう。

すると奴ははじめて笑顔を見せ、「絶対だよ」と囁いて消えた。

それは幼い日の友人のようで、子を慈しむ母親のようで。

静かに静かに溶けていく。

「新しい時代」は、もうすぐそこで待っている。



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