16才とまの話10。精神神経科

  十三日目
 
 病院の中庭は、地と空を隔てる物もなく、鳩の住居である木々が生い茂る、唯一解放的な空間なんだ。
 そこに、今日もお馴染みの顔があった。その禿げた外人のおじさんは、鳩の群がる車椅子の上で包帯の巻かれた右脚を伸ばして座っていたよ。僕がカフェの窓から彼の様子をちらと窺うと、目が合っちゃた。優しい目だった。次に見た時、彼はサンドイッチを貪り食ってた。その食べっぷりが、丸々とした体躯に実にあらわれていたね。
 彼は日がな一日、ああしているつもりなんだろう。彼は詩人に違いない、そう思わないか?

   十四日目

もう二週間経ったのか。恐ろしい速さだな。せっかく電話してもらってなんだけど、本当に言うことがないや。桜が咲いた事くらいかな。退屈すぎて勉強をやったよ。三ヶ月ぶりにね。なぜ僕が重い腰を上げる気になったのかは知る由もない。様々な小さい感化がいつのまにか積み上がっていたんだろう。

   十五日目

 こないだ話した三十代くらいの女性、ミイさんっていうんだけど、さっき食事を取りにナースステーションの前まで歩いてたら、彼女と目が合ったのね。そしたらミイさん、「いないいないばあ」するみたく返してきた。精神病棟でこんな馬鹿げたことをするなんてね。可笑しくて笑っちゃうよ、ほんと。場違いすぎるよ。
 だけど、その後、ミイさんが僕の五倍くらいの量の薬を飲んでいるのを見て、彼女との間に壁ができたような、そんな気がしたんだ。

   十六日目

 最早、僕は家に帰りたくない。病室には僕を除いて三人の人がいて、だから一人でいる時間はなく、毎日誰かが僕に話しかけ、死と向き合う孤独な世界に覆いをかけてくれるからだ。だがあと数日でそれも終りとなるんだ。帰りたくないよ、レイン。


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