あのころ、TOKYOで。 1

1.あのころ、TOKYOで。

「あのころ」はどんどん遠くなっていき、気が付くと20年たっていた。

あのころ、今とは違って東京は若者のあこがれの街だった。

今みたいに、どこにいても何でも買える時代じゃなかった。雑誌に載ってるあの服は、ドラマに出てきたあのスイーツは、東京じゃなきゃ手に入らなかった。

東京にいけば何か面白いことがある。東京にいけば素敵なことがある。私たちの中で東京は「東京」でもなく「トーキョー」でもなく「TOKYO」だった。

そう、「TOKYO」は、憧れをはらんだ場所だった。

そんな「TOKYO」への切符を手に入れたのは22歳の時。大学を卒業して、地元での就職を蹴って、何もかも初めての「TOKYO」へ!

アパートだけは友達が見つけてくれた。ルームシェアできる格安アパート。駅からは20分だけど、ウォーキングにもなる。

引っ越しの日、ルームメイトは不在。私は鍵を手に、教えられた道順でアパートへ。どんなアパートかな。これから東京での生活がはじまる。ドキドキ。嬉しい。楽しみ。そんなキラキラした感情を胸に、薄暗くなってきた練馬の街を歩いた。

おかしい。アパートはどこ。たしかこのへん、と見つけたアパート!新しくはないけど、小綺麗なアパートだ。

部屋番号を確かめて鍵をさ

鍵をさ、さ

ささらない…

どういうこと?鍵が間違ってる?いやちょっと待って。そういえばアパートの名前を確認してなかったわ。

看板を確認すると、メゾン○○、とある。

違う。ここじゃない。

そろそろ日が暮れる。暗くなってきた。全く見知らぬ土地で一人ぼっち。なんとも心細い。東京砂漠とはこのことか。初日でまさかの迷子。しかも東京のくせに全然人が歩いていない。ホント東京?来た道を戻り、ふと目をあげると、そろにどろけたような文字があった。

○○荘

こ、ここだわ。

それは築20年ほどのボロボロな木造アパートだった。

なぜかそこだけドアがゴージャスなお隣の部屋を通り過ぎ、一部ハゲた白いドアノブに鍵をさした。

カチャリ。

間違いなく、ここだ。

ここから私の「TOKYO」がはじまった。


作者後書き

いつか文章にしたいと思っていたあの頃の「TOKYO」。これから少しずつ書き起こして行きたいと思っています。よろしくお願いします。ちなみにドアがゴージャスなお隣さんはとても不思議なご家族で、この件もまたコラムにしたいと思っています。そして私が住んでいた○○荘。先日GoogleMapで探したところもう取り壊されたようで、なくなっておりました。そりゃそうよね、今残ってたら築40年だもの…

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