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山間の静かな宗教都市、身延に行った。

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沿線で一番の富士山のビュースポットを過ぎると、身延線の線路は富士川に沿って再び北に進路をとる。かつての繁栄ぶりが窺える広い構内を持つ芝川でさらに乗客は減り、稲子という小駅を過ぎてトンネルを2つ抜けると十島(とおしま)に着く。ここから山梨県だ。

十島〜井出間の車窓。富士川の向こうには大きな工場や道の駅もある福士(ふくし)の街が広がる。

身延線の線路は富士川の左岸に敷かれているが、車窓からは対岸の集落のほうが明らかに栄えているように見える。案の定、地元には鉄道忌避伝説(蒸気機関車が家や田畑の近くを走るのを嫌って地元住民が反対したせいで鉄道路線がやってこなかったのだ、という伝承のこと。大抵は事実無根)がある。

なぜ左岸に線路があるのか、本当の理由を考えてみる。人口が少ないところに線路を敷くほうが用地取得が容易だから。甲府も富士宮も富士も富士川の左岸にある都市なのでこちら側を通したほうが鉄道橋をかける回数が少なくなり建設費を圧縮できるから。しばらく考えてみたけれど、これくらいしか思い浮かばない。

南部町(なんぶちょう)の中心駅・内船(うつぶな)ではだれも下りず、おばあさんが1人乗ってきて、長らく減るだけだった乗客が初めて増えた。

たかやまさんがコンクリートでできた無機質な内船駅舎を見つめている。ゆるキャンの主要登場人物のひとり、なでしこちゃんの自宅の最寄り駅がこの駅なのだ。たかやまさんがゆるキャンのアニメも漫画も見せてくれたので、すっかり内容は頭に入っている。

甲斐大島の手前で建設中の中部横断自動車道が静岡側から富士川を渡ってきて、身延線を跨いで山の中に突っこんでいく。

若干頼りなく見える橋脚で富士川を渡ってくる中部横断道

高速道路も富士川の左岸側を走りたいらしい。こちら側を走るほうが観光地の下部温泉を経由できて、本栖湖や河口湖のほうへ抜ける道路とも接続できるという具合にいろいろとメリットがあるのだろう。

身延には10時31分に着いた。ここは身延線内で数少ない有人駅だ。駅員さんがラッチの中に入ってきっぷを回収する。下車したのはわたしたちとほかに3人だけだった。

JR各社の駅名標で一番フォントに楽しさがあるのはJR東海だと思う。「の」がまんまるでかわいい

駅前のロータリーから10時45分発の身延山行きのバスに乗る。なんとこのバスの乗客はわたしたちだけだ。連絡する列車がわたしたちの乗ってきた普通列車だけなのでしかたないのかもしれない。特急列車がやってきたときはもう少し需要があると信じたい。

バスは駅前の真新しい商店街を走って富士川を渡り、梅平(うめだいら)の集落を走る。ここは身延町(みのぶちょう)の中心集落だ。途中「身延町役場身延支所入口」という妙な名前のバス停を通過する。

これは身延町がほかの町と合併した際、新しい町名として「身延」を維持した代償に、町役場をほかの地域に奪われてしまったことを意味している。つまらない。どう考えても、身延町役場は身延にあるほうが自然でわかりやすい。それでもわたしとしては「身延という町名を守ってくれてよかった」と喜ぶべきなのかもしれないけれど。

「次は総門、総門」とアナウンスがある。バスは木造の門をくぐって、身延川の渓流沿いに発達した窮屈な門内商店街をゆっくりと走る。

たかやまさん
「こんな山の中に商店街があるの、おもしろい」

ささづかまとめ
「たしかに言われてみるとちょっと変ですね、ここ」

たかやまさんは静かにうなずいてバスの窓ガラスに張りつき、流れる景色を眺めている。身延山には10時57分に着いた。

バスは身延山に着くと地元のお客さんを数人乗せて折り返していく

バスを下りて、人気(ひとけ)の少ない商店街の坂道を上る。

参道沿いの商店街。お正月や桜のシーズン、団体参拝のある時期は活気を見せるが、わたしたちの行ったタイミングでは静かだった

薬局や雑貨店に加えて、喫茶店や旅館、土産物店、さらには仏具や線香を扱う店が複数あったりして、普通の商店街にはない独特な雰囲気が漂っている。

商店街の突き当たりに階段があって、その向こうに巨大な三門が見えた。

右奥が三門。三門の先に有名な長大階段「菩提梯」が控えている

三門の手前には観光案内所があって、パンフレットや割引券の類を一通りいただく。

観光案内所の軒下に置かれたゆるキャンの主人公・リンちゃんのスタンディをふたりで眺めていると、ライダースーツを着た中年の男の人に
「あの、もしよかったら手伝ってくれませんか?」
と声をかけられた。

山梨では高校生の女の子が原付免許を取得して通学するのは珍しくないが、ひとりでキャンプするのが趣味という高校生の女の子にわたしは出会ったことがない

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