民主主義の現在 全世界で後退する民主主義の現状と原因を解明 Democratic regression in comparative perspective: scope, methods, and causes

Democratic regression in comparative perspective: scope, methods, and causes(スタンフォード大学フーヴァー研究所、2020年7月31日)
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13510347.2020.1807517

政治学者ラリー・ダイアモンドによる民主主義の世界的な後退に関するレポート。参考になります。結論には同意しにくいけど。
1974年から2005年にかけて世界の主流となった民主主義が、その後後退した。目次がないので、後から読む方の参考に目次を掲載しておく。

Introduction
The global democratic recession
Explaining the democratic recession
 Political norms and institutions
 Political craft
 International context
 Global socio-economic trends
 Russian rage and Chinese ambition
Conclusion

●民主主義の後退にいたる経緯
序章では民主主義が世界の主流になるにいたった経緯を解説している。大きく3つのポイントをあげている。
 ・1980年代半ばまで世界の多数が民主主義になるとは誰も予想していなかった。
 ・世界のパワーバランスと大国の外交政策が大きく影響していた(具体的にはアメリカとソ連)。
 ・所得、教育、民間セクターの成長、中間層の増加、民主主義価値観を欠いている地域にまで広がった。

「The global democratic recession」で民主主義の後退を実例をもとに紹介し、さらに3つの民主主義指標を比較、分析している。包括的に世界的傾向を整理した資料としてはこの記事執筆時点(2020年12月24日)では最新だと思う。
 ・Freedom Houseの指数
 ・V-Demの自由民主指数と選挙民主指数
 ・イギリスエコノミスト誌のIntelligence Unitの民主主義指数

それぞれの指数で差異は見られたものの、実際の政権の状況、指数のスコア、民主主義国の数など総合的に検討した結果、民主主義の後退は起きているとしている。
 ・2006年に民主主義のピークを迎えた。
 ・2006年以降、民主主義の後退が始まった。
 ・民主主義の後退は加速している。

ここまでの整理はかなり細かくいろんな角度からされているので一読をおすすめします。

●民主主義後退の原因
そして民主主義後退の原因として下記をあげて整理している。
 ・政治規範と制度 Political norms and institutions
  民主主義と相性のよい国民性や文化。政治制度、メディア、法の支配。
 ・権威主義的権力の技術 Political craft
  エリートや部外者(移民、特定の人種、国など)への恐怖と敵意を煽り、感情的に反応させる。民衆と直接関係を結ぶ。カリスマ性など。
 ・国際環境の変化 International context
  アメリカとヨーロッパによる民主主義の振興が民主主義拡大のおおきな要因だった。特に唯一の超大国となったアメリカの影響は大きかった。アメリカが民主主義の振興に積極的でなくなったこと後退のおおきな要因のひとつ。
 ・国際的な社会経済的変化 Global socio-economic trends
  21世紀に入ってから4つの相互に関連するおおきな変化があった。
  1.インターネット、SNS、デジタル技術の発展、普及は市民活動にはあまり益せず、フェイクニュースを蔓延させ、政治的分断を引き起す、ポピュリストのツールとなった。
  2.生産から金融へと産業の中心が移り、情報と知識が冨の源となった。これにより、冨の不平等が大きくなった。
  3.グローバリゼーションが進み、社会経済的不安定さや不満が大きくなった。
  4.自由市場を尊重する規制緩和の新自由主義的経済政策は他の要因と相まって金融のリスクを高め、2008年の金融危機を引き起こした。
 これらは長期的に民主主義への信頼を揺るがす要因となった。民主主義を先導していたアメリカとEUへの信頼低下は深刻だ。

 ・ロシアと中国の台頭 Russian rage and Chinese ambition
  ロシアと中国はいずれもシャープ・パワーを使って世界への影響力を拡大している。中国はその経済規模と成長を武器に一帯一路など勢力を広げている。コロナのパンデミックも影響力を拡大する要因となった。

●まとめ
民主主義の後退を食い止め、世界を立て直すためには民主主義を支えるアメリカをまず建て直す必要がある、と結論している。

こちらもどうぞ 民主主義を知るための本 https://note.com/ichi_twnovel/n/n6651178d7522 

本noteではサポートを受け付けております。よろしくお願いいたします。