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アメリカ、フランスをターゲットにしたロシアの大規模作戦CopyCop

Recorded FutureのInksiktグループは2024年5月9日、ロシアが行っているLLM=生成AIを利用した大規模な作戦CopyCopに関するレポート「Russia-Linked CopyCop Uses LLMs to Weaponize Influence Content at Scale」https://www.recordedfuture.com/russia-linked-copycop-uses-llms-to-weaponize-influence-content-at-scale )を公開した。

レポートによると、アメリカ、イギリス、ウクライナ、イスラエル、フランスに関する政治的なコンテンツを拡散する大規模なネットワークが存在する。AIを利用して大手メディア(ロイターなど欧米メディアと、ロシアのプロパガンダメディア)のコンテンツを盗み、英語とフランス語に翻訳し、編集し、特定の読者に向けた調整を行い、偏見をプラスする。その後、12のWEBサイトに自動で配信、公開される。

「Russia-Linked CopyCop Uses LLMs to Weaponize Influence Content at Scale」( https://www.recordedfuture.com/russia-linked-copycop-uses-llms-to-weaponize-influence-content-at-scale )

アメリカ国内のWEBサイトは、以前New York Timesが発見したものであり、今回のレポートはそれを含めたロシアの作戦の全貌を明らかにしたものになる。

Spate of Mock News Sites With Russian Ties Pop Up in U.S.
https://www.nytimes.com/2024/03/07/business/media/russia-us-news-sites.html

CopyCopはウクライナに関してはロシアのプロパガンダメディアのコンテンツを利用し、アメリカに関しては国内で意見が割れるテーマを取り上げている。
ISDはコンテンツなどを分析して、盗用元となった記事なども特定している。
多くの作業は自動化されており、コンテンツは共有するWEBサイトは同時に更新されていた。
西側のオープンソース(WordPress、Matome、Keitaroなど)を積極的に利用していることもわかった。

このネットワークは2016年にロシアに逃亡したアメリカ人John Mark Douganが運営するDCWeeklyに関係している。

さらにCopyCopのコンテンツは既知のロシアのネットワークであるDoppelgängerやPortal Kombathttps://note.com/ichi_twnovel/n/n639e4a0ad7bbでも拡散されていた。
Doppelgängerはたくさんの作戦で利用されており、たとえば下記。

ウクライナ国内に対するロシアの情報戦 「In Ukraine, Russia tries to discredit leaders and amplify internal divisions」 #DFRLab_U2nd
https://note.com/ichi_twnovel/n/n689b35630899
Metaの広告を利用したドッペルゲンガー作戦
https://note.com/ichi_twnovel/n/n3008ce2ddaf4

また、CopyCopはロシアの“Foundation to Battle Injustice”(FBR/FBI)やInfoRos(General Staff of the Armed Forces of the Russian Federation (GRU/GU) Unit 54777)とも関係していた。

●感想

ロシアは複数の大規模な作戦を連携させて実施しており、かなり広範囲にわたるネットワークの構築に成功しているように見える。
その一方で稚拙な作戦を実行して失敗もしている。

Why Russian Propaganda Isn’t as Sophisticated as You Think
https://www.themoscowtimes.com/2024/05/07/why-russian-propaganda-isnt-as-sophisticated-as-you-think-a85058

個人的にはデジタル影響工作はそのものに効果がなくても相手をロシアの予想通りに動かし、下記の成果を得ることができる可能性が高い。ロシアの狙いが相手国の国内の混乱と分断に焦点を当てていることからもパーセプション・ハッキングを狙っている可能性は高い。

・パーセプション・ハッキングによる国内の混乱と分断の促進、警戒主義の台頭
誤・偽情報、認知戦、デジタル影響工作の脅威の狙いは直接的な効果だけではない。仮に失敗したとしても、そのような干渉があったことが広く知られることで、相手国国内の過度な反応を引き起こして混乱させ分断させる効果があり、これをパーセプション・ハッキングと呼んでいる。警戒主義は政治家や報道で過剰に煽られた結果、必要以上に警戒するようになることを指す。

・派手で大規模な作戦に注目が集まっている裏での地味だが、効果のある作戦=データボイド脆弱性の利用(それ以外にもありそう)

これらに同時に対策するには、別記事( https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2024/05/post-56_3.php )で書いた2つの選択肢のどちらかを本格的に行う必要があるのだが、いまのところ議論は始まったばかりで結論はまだ先になりそうだ。
ただ、一部の記事やレポートで過剰な反応を抑制する表現が散見されるようになっのはよい傾向だ。たとえば、2024年5月1日のNBCの「Russia is trying to exploit America's divisions over the war in Gaza」https://www.nbcnews.com/news/investigations/russia-trying-exploit-americas-divisions-war-gaza-rcna149759 ) ではロシアの影響工作を解説しながらもDFRLabのシニアフェローからの、外国からの干渉の報道は慎重にしなければいけないという指摘を紹介している。
2024年5月7日のISDのレポート「Conspiracy theories matter, but not all are meaningful: A guide for analyzing risks to audiences」https://www.isdglobal.org/digital_dispatches/conspiracy-theories-matter-but-not-all-are-meaningful-a-guide-for-analyzing-risks-to-audiences/ )は陰謀論の文脈を正確に判断し、対応を決める必要性を訴えている。

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