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ドイツクーデター未遂事件続報 これから日常となる事件のパターンのひとつ

ドイツのクーデター未遂事件から1日経って新しい情報が公開されたので、追加するとともに、これまでに起きたこととの関連を整理します。
これまでの情報や今回関与のあったドイツのグループReichsbürgerについては昨日の記事を参照。
ドイツのクーデター未遂事件が暗示する新しい日常

●新情報

下記の新情報が公開されていた。ソースは末尾参照。

・QAnonとReichsbürgerの関連についてよりはっきりと伝える報道が増えた。

また、反ワクチン運動にもかかわっていた。ただし、アメリカのQAnonメンバーとコンタクトしていないようだ。
ドイツはアメリカに次いでQAnonチャンネル購読者が多い

・メンバーに関しての新情報

メンバーの元議員は、Birgit M.-W(58歳)。ベルリンの地方裁判所の現役裁判官で、極右政党AfDの元国会議員であるだという。Telegramで、QAnonのスローガン「Where we go one, we go all」を略した「WWG1WGA」を定期的に投稿していた。
逮捕されたロシア人はロシア当局との接触のために関係していた可能性がある。ただし、ロシア当局が応じた痕跡はない。
逮捕された軍人は、特別軍事司令部であるKSKに勤務する軍曹
イタリアで1人、オーストリアで1人でメンバーが逮捕された。
作戦の責任者は元空挺隊員Rüdiger v. P(逮捕済)だった。

・ドイツの状況

イスラム教のテロリスト対策に注力してきたドイツ当局は、極右過激派の対策も強化してきた。2019年の中道左派の地方政治家の殺害や、同年ドイツ東部ハレで起きたシナゴーグへの銃乱射事件などの事件が起きている。
ドイツ当局の間では、軍や治安機関のメンバーの過激化に対する懸念が高まっている。過激派グループと関係のある捜査で、数人の警察官と軍人が逮捕されたこともある。2020年には、極右過激派が浸透していた特殊部隊の一部を解散した。
コロナ禍では、さまざまな政治的背景を持つ相互に無関係なグループが、国家とその制度に対する拒否感から合体し、政治的暴力を過激化した。2020年8月、パンデミック規制に反対する一団が「Q」の横断幕を持ち、下院のあるビルに突入しようとして警察に阻まれた。
ドイツの情報機関は同国への最大の脅威は国内の極右過激派グループと考えている。情報機関によると、こうしたグループはイデオロギーや政治的なコアを持たず、現在の国家や秩序を拒否する点では一致しているが、その他では極右過激派、カルト、親ロシア派の扇動者、反ユダヤ人など多様である。また、2021年、Reichsbürgerには全国で約2万1000人が参加していると推定され、そのうち約10%が暴力的志向を持つ。
国境を越えてオンラインで活動する小グループで構成され、一部の小グループが急速に勢力を拡大していると警告している。
Reichsbürgerには評議会があり、そのメンバーが政権奪取後に入閣する予定だった。評議会には軍事部門もあり、クーデターに関与し、武器の調達を担当していたと思われる。この組織は軍や警察のメンバーを対象としてリクルーティングを行っていた。
今回のクーデター計画は、ドイツのカール・ラウターバッハ保健相の誘拐未遂で4月に逮捕された4人の捜査の過程で見つかった。

●これから日常となる事件のパターンのひとつ

今回の事件は、過去に世界で起きた反主流派事件のパターンを踏襲している。日本でも2021年1月6日のアメリカ連邦議事堂襲撃事件を記憶している方は多いだろう。

何度か書いたことがあるが、陰謀論や極右などの反主流派グループは”多頭の獣”である。
くわしくは下記および非国家アクターシリーズ記事を参照。
グローバルノースの多頭の獣 #非国家アクターメモ のまとめ 
制御できない非対称兵器としての非国家アクター #非国家アクターメモ 9 

・グローバルノース主流派を拒否することで一致しており、同様な主張をしているプーチンやトランプと親和性が高い。
・多くの場合、民族、人種、反移民、反LGBTQ+、反ワクチン、反中絶を主張している。
・思想や信条などの中心を持たない。
・過激化しているのはごく一部だが、莫大な数の見えない支持者がおり、アクセスやアクセス資金提供で活動を支えている。

・個人あるいは小グループがゆるいネットワークでつながっており、明確な指揮系統が存在しない。そのため実態が把握しにくい。いわばリアルの”個別の11人”だ。
・反主流派の主張はアクセスが多いため、グーグルやフェイスブックはこれらのグループを優遇し、広告出稿して多額の広告収入を与えている。

・インターネット上で寄付を募ったり、クラウドファンディングすることで多額の資金を調達している。
・プライベートメッセンジャーなどで連絡を取り合い、情報を共有している。
・近年、武装化を進めており、武器の調達や軍事訓練を行っている。
・ロシアは間接的に軍事訓練などの支援を行っている。
・こうした変化の背景にはグローバルノース主流派と反主流派の対立がある。

今後、世界各地で反主流派による事件が多発する。今回のドイツのクーデター未遂事件はそのひとつにすぎず、同じパターンで繰り返されることになる。現状のグローバルノース主流派主要国の対応では止めることはできない。そもそもアメリカなど主要国では政治を乗っ取られつつあるのだ。

出典
Germany Arrests Extremists in Plot to Overthrow Government、2022年12月7日、https://www.wsj.com/articles/germany-dismantles-suspected-qanon-inspired-terrorist-group-11670405579

German police arrest 25 over far-right plot to overthrow government、2022年12月7日、https://www.washingtonpost.com/world/2022/12/07/germany-coup-arrests-reichsbuerger-heinrich/

Germany Arrests 25 Suspected of Planning to Overthrow Government、2022年12月7日、https://www.nytimes.com/2022/12/07/world/europe/germany-coup-arrests.html

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