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2011年から2021年の114件の影響力活動を調査したプリンストン大学Online Political Influence Efforts Dataset

プリンストン大学が定期的に行っているデジタル影響工作に関する今年の結果を書いていなかった。以前、noteに書いた「30カ国96件の影響力行使をまとめたプリンストン大学の「Trends in Online Influence Efforts」」(https://note.com/ichi_twnovel/n/n8af80f2de789)の今年版で2022年2月3日に公開されている。前回はV2で今回はV3となっている。

レポートは、Online Political Influence Efforts Dataset(https://esoc.princeton.edu/publications/trends-online-influence-efforts)でダウンロードできるが、なぜか刊行が2020年になっていた。おそらくV1の公開年だろう。
このプロジェクトはレポートというよりも、デジタル影響工作(このプロジェクトではOnline Political Influence Efforts)に関する公開資料を収集し、コード化してデータベースにしているものであって、レポートは収集したデータの要約となっている。このスタイルはV-Demなどのプロジェクトと同じく元データが公開されているので自分自身で解析することができる。

V3では1000以上のメディア報道と500以上の研究論文・報告をもとに、2011年から2021年までの間の56カ国に対する84の対外影響活動(FIE)と30の国内影響活動(DIE)を分析している。


●対外影響活動(FIE)と国内影響活動(DIE)の定義

このプロジェクトでは、影響力活動(IE)を対外影響活動(FIE)と国内影響活動(DIE)のふたつに分けている。FIEと国内影響活動DIEの定義をおさらいしておくと下記になる。

・対外影響活動(FIE)の定義

1.ある国家が別の国家の政治の1つ以上の特定の側面に影響を与えるために、2.ソーシャルメディアを含むメディアを通じて、3.ターゲット国家に固有のものに見えるように設計されたコンテ ンツを制作することによって協調的に行われる作戦。

・国内影響力活動(DIE)の定義

1.国内政治の1つまたは複数の特定の側面に影響を与えるための国家による作戦であり、2.ソーシャルメディアを含むメディアを通じて、3.通常のユーザーによって作成されたかのように見えるようにデザインされたコンテンツを利用する。

なお、この調査では国家、政府が行うことを前提にしており、そのためDIEであっても国家の資源を利用することを条件としている。たとえば野党が国家予算を利用せずに行った影響工作は含まれない。

●測定誤差

調査にあたって下記の誤差が生じている可能性を明らかにし、実際に発生したIEよりもかなり少ないデータになっているだろうと述べている。

・この調査は公開資料をもとにしているので、資料になっていないものは対象からはずれる。
・デジタル影響工作の資料を公開しているほとんどの機関は英語圏にあるため、欧米諸国をターゲットにした活動がより多く資料化されている可能性がある。
・フェイスブックとツイッターは他のSNSよりもデータを公開し、問題となる活動のテイクダウンを行い、公開している。そのため、他のSNSよりも多く資料などで取り上げられる傾向がある。
・影響力活動があったことは記録があっても、その内容があまり明らかになっていないためにデータとして採用されなかったものもある。

●調査結果

・2011年以降114件のIEは56カ国以上を対象としており、84件が対外影響活動(FIE)と30件が国内影響活動(DIE)だった。
・FIEのターゲットで多かったのは、アメリカ(22件、26%)、複数の国(19件、22%)、イギリス(6件、7%)、スペイン(3件、4%)だった。
・DIEが多かったのは、ロシア(2件)、中国(2件)で、その他の国では1件ずつだった。
・FIEの75%は、2015年から2018年の間に開始され、DIEの47%は2015年から2018年の間に始っている。
・FIEは平均4.7年続き、DIEは平均5.9年続く。
・ロシアがもっとも多くFIEを行っており、全体の62%を占めていた。
・レポートでは言及していないが、件数ではFIEの方が多いが、実施している国の数ではDIEの方が多い。
・IEを実行したアクターで多かったのは、民間企業(FIE53%、DIEで27% )、メディア(FIE39%、DIEで23%)、政府(FIEで32%、DIE67%)、情報機関または軍事機関(FIE25%、DIEで57%)だった。
・もっともよく使われる戦略は「説得」でFIE77%、DIE93%だった。次いで多いのは中傷でFIEの71%、DIEの97%だった。このふたつはセットで用いられることが多く、FIEの77%、DIEの93%が組み合わせて使用していた。*つまり、中傷と説得は常にセットで使われていたということ?
・FIEの63%、DIEの70%はコンテンツの拡散、作成、歪曲(distort)を行っていた。FIEの92%、DIEの93%が既存のコンテンツの拡散を行っていた。FIEとDIEの77%がコンテンツの歪曲を行っていた。
・FIEの82%、DIEの67%がトロールを使用していた。トロールとボットの併用はFIEとDIEともに86%と多かった。FIEの77%、DIEの93%が偽のアカウントを使用していた。
・もっともよく利用されているSNSはフェイスブックとツイッターだった。
・おまけ サウジアラビアから複数の国に対して行ったFIEで日本語のものがあったのでちょっと驚いた。

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Metaの四半期脅威レポート、プリンストン大学の情報戦統計は他ではあまりないかも。Metaは四半期毎なので数も多いです。 どちらも元は無償公開されているのでそちらを読んだ方がよいのは確かです。

Metaの四半期脅威レポート、プリンストン大学の情報戦統計、民主主義指数、V-Demなど定期的な資料の紹介記事。ご自分で記事を遡れば無料で…

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