その通りなんだけど雑なグローバルサウス論議

「The World Beyond Ukraine The Survival of the West and the Demands of the Rest」(Foreign Affairs、2023年5/6月号、https://www.foreignaffairs.com/ukraine/world-beyond-ukraine-russia-west)を読んだ。

ウクライナを巡って起こっているグローバルノースとグローバルサウスの亀裂を具体的な認識のズレをあげながら解説している。内容としては1年以上前からあまり変わらないと言ってもいいだろう。

おおまかには下記のような内容だった。

2月17日にミュンヘンで開かれた安全保障会議でフランスのマクロン大統領が「我々がグローバルサウスからの信頼をどれほど失っていたかに驚かされた」と言ったそうだ。
世界人口の50%近くを占める約40カ国が、ロシア非難の決議を棄権したり、反対票を投じたりしている。2022年4月のロシアを国連人権理事会から除名する決議では、58カ国が棄権した。EIUによると、世界人口の3分の2は、中立またはロシアを支持している国に住んでいるそうだ。
その原因はウクライナに関することではなく、欧米各国への不信感だ。
難民問題でも難民の80%を受け入れているのはグローバルサウスの貧しい国々だ。中国を国連海洋法条約違反で非難するが、アメリカはその条約を批准していないし、ウクライナにおけるロシアの戦争犯罪をアメリカは非難するが、国際刑事裁判所を作ったローマ条約をアメリカは批准していない。露骨すぎる二枚舌だ。
長期にわたる欧米諸国の失敗でグローバルサウスは不信感を抱いており、よりよい協力関係の構築を行わなければ関係が悪化するのは目に見えている。皮肉なことにそれを熱心に勧めていたのは中国なのだ。

まったくごもっともで、ちょっと雑なグローバルサウス論議……お前が言うなという話なのだけど、ウクライナ侵攻に関連して出て来たグローバルサウスというくくりで世界の分断状況を整理する方法。私は他の人と違う点がひとつあって、おそらくそれが一番安全保障上の脅威なのだと思う。

グローバルノースあるいは民主主義を標榜する国の中にもグローバルサウスの国々と同様の反感を持つ人々がいるということだ。彼らは格差の底辺におり、政治、文化、経済から不可視化されている。ポピュリストたちは彼らを利用したおかげで、その存在がいい意味でも悪い意味でも認識されるようになってきた。おかげで彼を支持母体にしようという動きも広まっているようだ。
ほとんどのコミュニティから疎外された結果、陰謀論、白人至上主義者、反ワクチンなどのコミュニティに彼らはつどうようになり、SNSプラットフォームやアドネットワークからの収入と、ロシアや中国の後押しによって仲間を増やし、過激になってきた。自分たちをないがしろにしてきた社会への復讐心と、今の社会システムとエリート層への憎悪にまみれている。
グローバルサウスも同様にグローバルノース各国の二枚舌と一貫性のない対応に反感と不信感を募らせている。
この2つにむきあって支援してきたのはグローバルノースの市民団体や人権団体よりも、中国やロシアだった

しかし、いまだに国際関係においては、民主主義対権威主義というお題目でグローバルサウス諸国にあきれられ、国内においては過激派として排除されたり、無知で無教養とされてファクトチェックやリテラシーを押しつけられ、かと思えば票のために支持を求められたりする。相互理解や協調とはほど遠い状況だ
グローバルサウスの多くの人々と、グローバルノースの反主流派がよく利用するSNSでは彼ら独自のニュースと情報圏ができている。そことグローバルノース主流派が見ている世界は全く異なる。

先日、地政学の専門の方とお話しする機会があったのだが、アメリカのカントリーリスクが高まっているという話が出た。国内の分断のせいである。
まだしばらく問題の全貌が整理されることはなさそうだ。

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