ロシアのデジタル地政学論文集『EURASIA2.0』

『EURASIA2.0 Russian geoplitics in the age of new media』を拾い読みしている。なにしろめちゃくちゃ分厚い上に、参加している各人が勝手に書いているのでまとまりがない。いや、正確にはおおまかな流れみたいなものを作ろうという意図はわかるのだけど、まあバラバラ。なので、いきおい関心のある章を拾い読みすることになる。

全体はパート1から5までの5つに分かれていて、さまざまな研究者が論文を寄稿している。本書の冒頭で各章で誰がなにを書いているかを概説しているので最初にそこを読むとよいだろう。本書が刊行されたのは2016年、つまりロシアのクリミア併合の2年後である。それに触れた論文も多い。

あまりお目にかかることのないクリミア併合の前後でベラルーシのSNSで起きていたことや、25歳でRTの編集長となった才媛シモニャンの軌跡からメディア状況を語るものや、ネット上で使用されている言葉を地理言語学で整理しウクライナを地政学的に分析するものや、ウクライナのSNSで「敵」が形作られていった過程を分析するものなど興味深い(主として私が関心を持ったものをあげた)ものも多かった。

全体を読むのはしんどいが、関心のおもむくままに1章ずつ読むなら、さほど大変でもない。正直、これはあくまでもロシアの研究者の論文集なので、学術的にも実用的にも微妙だったりする。しかし、思わぬ事実を見つけたり、予想外の視点に気づいたりすることはある。万人にはおすすめできないが、世の中をさまざまな角度で見てみたい人にはおすすめである。特に昨今のウクライナ情勢と関連づけて自分なりに考えることもできるかもしれない。

デジタル地政学の体系的な整理やフレームワークの提示などはないのです。各人のそれぞれの論文で完結していて全体像はありません。

ふつうにロシアのことを知りたい場合は、下記の2つがおすすめ。
『現代ロシアの軍事戦略』小泉悠
『近未来戦の核心サイバー戦-情報大国ロシアの全貌 』佐々木孝博

いくつか気になる発見もあったので、本書の紹介とは別記事でいつか取り上げたい。


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