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Foreingn Affairsの記事の裏側のビッグテックの思惑

Foreingn Affairsに「Big Tech Goes to War」(2022年10月19日、https://www.foreignaffairs.com/ukraine/big-tech-goes-war)と題する記事が掲載された。リードに「To Help Ukraine, Washington and Silicon Valley Must Work Together」と書かれているように、ビッグテックとアメリカ政府の協力関係の維持が今後のウクライナにとって重要であることを解説した記事である。
いまさらという感じもするが、最近イーロン・マスクがウクライナへのスターリンクの提供継続について不透明な発言をしたことがきっかけで、記事でもその点を多く取り上げている。

●ウクライナ侵攻におけるアメリカ政府とビッグテックの協力の裏側

記事では、ウクライナ侵攻に当たってビッグテックが果たした役割を紹介し、アメリカ政府と協調したこれらの行動が非常に重要だったことを指摘している。不思議に思うのは、アメリカ政府もビッグテックのいくつかは侵攻以前から協力を開始しており、アメリカ政府からビッグテックへの協力要請があったと考えられるからだ。しかし、記事ではそのことには触れていない。
少なくともロシアへのサービスの停止を決めたグーグルにアメリカ政府からの要請があったことは拙著『ウクライナ侵攻と情報戦』(https://amzn.to/3FdL8tj)で紹介した通りだ。スターリンクの迅速な提供の裏に政府の関与があった可能性は否めない。

記事でもこうした協力を行うビッグテックは政府との重要な契約があるか、締結する可能性があったと指摘している。記事には書いていなかったが、多くのアメリカ企業にとって中国もアメリカ並みに重要だ。たとえば、イーロン・マスクのテスラは半分近くを中国で生産し、中国市場で販売しており、今年は販売台数記録を更新した。そして、台湾の問題は平和的に解決されるべきと言いだし、香港のように一国二制度にすればいいと発言して中国から礼賛され、台湾から猛烈な抗議を受けた
「アメリカの同盟国や友好国は、”アメリカと中国のどちらかを選ばせるようなことはしないでほしい”と考えている」と以前の記事に書いたが、同盟国や友好国だけでなく、アメリカ企業の多くもそう考えているのだ。

「The Great Economic Rivalry: China vs the U.S.」が示す「時間は中国を有利にする」(https://note.com/ichi_twnovel/n/n12f3a641ff07)

●中国の存在

アメリカ政府への協力がそれなりの見返りをもたらすなら協力するが、そうでなければ協力しないというのが、本音だろう。イーロン・マスクにとって中国との関係を捨てることは甚大な損失を生むことになるので、中国政府が圧力をかけてきた場合、よほどの見返りがアメリカ政府からないと中国政府の要求に応じるしかないだろう。

アメリカ自身も中国との貿易を完全に絶つことは不可能だ。ついこの間、アメリカ政府が中国のマイクロチップ関連企業で働いているアメリカ人はアメリカ国籍を捨てるか、仕事を辞めるかを選ばなければならなくなったというデマツイートが散見されたが、そのようなドラスティックな制裁はできないし、やれば中国だけでなく、アメリカ国内からも猛反発が来る。「どちらかを選ばせる」ようなことはできないのだ。
ちなみにこのデマはすでにファクトチェックされている。国籍を剥奪なんて措置が公表されたらもっとお騒ぎになるでしょ。このデマは中国語>英語>日本語と拡散しているので、最初の中国語での発信が意図的に行われた可能性もありそう。

デマツイートの例 https://twitter.com/jordanschnyc/status/1580889341265469440 https://togetter.com/li/1959266
ファクトチェックの例 https://factcheck.afp.com/doc.afp.com.32LK6L7

このデマツイートを日本語で拡散したツイートには、「アメリカが本気を出した」と書いてあったが、ウクライナへのビッグテックの協力は中国政府がどこまで本気の圧力をかけるかにかかっている。皮肉なことに、アメリカ政府とアメリカ企業の協力体制の維持は中国の出方次第なのだ。
軍事面でのレッドラインに比べると、経済制裁でのレッドラインは読みにくく、効果はさらに読みにくい。だから慎重にならざるを得ない。

関連書籍
『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)
『フェイクニュース 戦略的戦争兵器』(角川新書)


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