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「The Great Economic Rivalry: China vs the U.S.」が示す「時間は中国を有利にする」

「The Great Economic Rivalry: China vs the U.S.」(ハーバード大学ベルファーセンター、2022年3月23日、https://www.belfercenter.org/publication/great-economic-rivalry-china-vs-us)は、現在のアメリカと中国の経済の比較をするのに便利な資料である。GDP、貿易、ビジネス・投資、金融の4つの柱について、それぞれ分析を行っている。

●要約

まず、冒頭に要約がある。おおまか下記のような内容だった。

・中国のGDPは10年以内に米国を追い抜く。
CIAとIMFが国家間の経済比較の指標にしている購買力平価(PPP)では、中国はすでに米国を抜いて世界最大の経済大国となっている。
・中国は米国を追い越して世界の製造工場となった。
・中国は米国を抜いて世界のほとんどの国の貿易相手国となった。
中国は、世界の重要なグローバルサプライチェーンにおけるもっとも重要なポジションに位置している。
・中国は米国に代わって世界経済成長の原動力となった
2008年の金融危機以降、世界のGDP成長の3分の1は中国によるものだ。
・2020年、中国はフォーチュン誌の「グローバル500」の企業数で米国を追い抜いた
中国は、海外投資誘致でトップであり、研究開発総投資額で米国に肉薄している。
アメリカが優位を保っているのは、ドルが世界の基軸通貨のポジションを維持していること、ベンチャー投資額、世界から優秀な人材が集まってくることである。

●注目したい箇所

個人的に注目したい箇所をピックアップした。
・現在の世界(主としてグローバルノース)の秩序は、第二次世界大戦後の10年間にアメリカがその経済力を背景に構築したものである。IMF、世界銀行、ブレトンウッズ通貨体制、GATT、NATO、CENTO、SEATOなど。第二次世界大戦後のアメリカのGDPは世界の半分、現在は6分の1まで下がった
・アメリカの同盟国や友好国は、「アメリカと中国のどちらかを選ばせるようなことはしないでほしい」と考えている。
・自国を世界のサプライチェーンの中心に位置づけることは中国が意図的に行ってきたことだった。
・多くの企業がサプライチェーンと市場の両面で中国に依存するようになっている。
・中国は他国で代替するのが難しい資源などを保有しており、これがサプライチェーンでのポジションを強固にしている。世界のソーラーパネルの80%、風力タービンの40%、電気自動車に必要な化学リチウムの50%、金属リチウム60%、ポリシリコンの70%、レアアースの70%、コバルトの80%を占め、レアアースの90%の精製を行っている。
・今後、元がドルやユーロに並ぶ基軸通貨になる可能性がある。ただし、時間はかかる。一方、デジタル元が急速に普及する可能性もある。
・中国は、 世界銀行、IMF、OECD 加盟国の債権国の合計を上回る世界第一位の債権国となっている。
・中国の今後について、ネガティブな要素はあるが、いずれについてもこのレポートでは、それに対する反論を紹介している。たとえば過去30年間、中国が崩壊するという指摘は識者から繰り返し行われてきた。いまもそう主張する識者はいるが、課題を克服する可能性もあり、実際過去30年間はずっと克服してきた。
デカップリングと言われ続けてきたが、その間ずっと中国への依存は進んでいた。
などなど

●アメリカ経済の相対的衰退は必至

このレポートを見る限りでは、現状のままではアメリカの相対的な経済的な弱体化はまぬがれない。
効果のある経済制裁はまず無理だし、自陣営の被害も甚大になる。いまのところデカップリングも絵空事で、最近日本が言い出した経済安保も実体がともないそうにもない。
対中国でよく話題に出るインドやベトナムがアメリカ陣営にどっぷり加担するとは考えにくい。
ここにさらに、以前紹介したアメリカ内戦の可能性などを加味すると、時間が経てば経つほど中国に有利になる状況だ。
特にこれからの10年はその傾向が強くなる。

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