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マンガ感想日記② 

『自転車屋さんの高橋くん』 松虫あられ
の感想文の後半です。
パン子はいちおう前半にて終了。
今回は高橋くん(以後遼平くん、混ざると思います)

高橋くんに関しては、ほんとに甘いかもな。
こんな見た目いかついヤンキー男子でも、大事にしたい子をちゃんと優しく出来るんよ、のテキストにもなりそうだし、遼平くんが心の傷をちょっとずつ出して、弱っていく様も良い(笑)。
だけどキレたら怖いのは死ぬまで変わらない気がする。激昂したら即暴力に走って、一緒にいた友達に止めてもらえたけど、パン子の上司の腕をねじり上げた(3巻)。上司もまたそれなりに気の毒で、名字をもらってなかった(笑)。
だけど再三嫌がっているパン子にセクハラし続け、男性社員も誰も助けなかったし、同じく女性のキミちゃんだけが強く抗議の態度を示していた…のみの環境で、そういう会社からもっとも遠い存在であろう高橋くんが、新鮮な態度で上司を『ただのチカン』と見なし(自分の上司じゃないし)、彼女を助けるためにやっつけたのはほんとに胸がすく思いでした。
しかし、これもまた役割分担なんだろうな。

稀代のストーリーテラーの手腕は、ここでもまた発揮されていた。
こんなにスカッと、暴力ではあるけど嫌な上司をノしてくれた彼氏にパン子は『NO』を突きつけたのだった。意外なようで、社会人のリアリティとパン子のキャラ的にあるあるな反応がバランスよく混じりあって、唸らされた。 
この時の高橋くんのカオは、拗ねてて何だか子供っぽく、街灯だけがぽつんと立っているようなさみしい街の片隅で、でもとても綺麗な横顔をしていた(5巻ある中でたぶん一番綺麗、そんな大ゴマでないけど)。自分に感謝して抱きついてくれるどころか、真っ先に暴力を咎めたお姉さんらしいパン子(ここぐらいしかないと思う・年上っぽいの)に対して、本能的に嫌悪する顔だった。
このエピソードは5巻でのパン子が、未だに高圧的で家族の一員である犬たちを蔑ろにし、高橋くんをバカにする父親を殴り、後ろにいた高橋くんがじょうずに落ち着かせたのと対照だと思う。だからって初めからパン子がセクハラ上司を殴っていたら、あるいはキミちゃん張りにバキバキにモノ申せていたら…。きっと高橋くんはこんなにもパン子を愛さなかっただろうって気がするし、お互いいい友達で終わったんじゃないかなって思う。

ひとを好きになることに理由はいらない、というけど、
ほんとはあるんじゃないかなと思う。渦中にいると分からないだけで。
このマンガを読んでいると、とても自然に『補いあうため』って思えてくる。
──欠点があったっていいんだよ、その欠点がいつか君にとって大切な誰かや何かに出会わせてくれるよって、人生の奥義のようなもの、ほのかに感じさせてくれるのだ。

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