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[短編小説] わたしの世界(2)

いつもの電車をホームで待っていると後ろで学生らしき2人が喋っている。

「昨日昼間にこの線で事故があったの知ってる?」
「えっ?事故?」

「踏切に人が入り込んで急停車した時に網棚の荷物が女の子を直撃したんだって。衝突事故は回避したけど車内で事故ったわけだよ」
「ケガしたの?」

「背中直撃で気失って救急車来たらしい」
「詳しいね」

「誰かがネットにあげてたよ。どこに災難があるかわからないよな」
「しばらく電車に乗りたくないだろうな」

まあ、気の毒に、と思いながら少し網棚を気にしつつ電車に揺られ、普段通り会社に着く。

いつものようにパソコンを立ち上げ、作業を始める。時間になればパソコンを閉じ家に帰る。時間があればスーパーに寄り、晩御飯の買い物をする。この生活がもう何年も続いている。息子のフミヤは高校2年生。朝は身支度をしながら簡単な弁当を作り、起こして一緒に朝ご飯を食べ、同じ時間に家を出てそれぞれ学校と職場へ向かう。

晩御飯はたいてい一緒に食べる。フミヤは携帯をいじったり、たまに学校であった事などを教えてくれたりして、適当なところで風呂や部屋に消えていく。大学受験を見据えて塾通いはしているが、今の成績だとまあどこかには決まりそうだ。幼い頃から手のかからない子で、反抗期らしいものもなく、1人親になってからも変わらず穏やかで、親子2人、平凡ではあるが平和な毎日を送っていた。

その日の朝もいつものようにフミヤと一緒に家を出て、私は仕事に向かった。普段と変わらぬ作業を始めてしばらくすると携帯電話が振動した。番号に見覚えがなく検索をかけるとフミヤの高校の番号だった。急に気持ちがザワザワして慌てて電話をかけ直し、担任を呼んでもらった。

「フミヤ君が学校に来ていないのですが..」
「えっ」
思わず声をあげた。 

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