土方定一『日本の近代美術』

美術批評の第一線で筆を執り、美術館行政にも多方面で関わった土方定一。本書は絵画や彫刻を自分の眼で確かめ〈経験としての美術〉の態度を貫いた。西欧の遠近法や明暗の摂取を江戸期に探り、日本画と洋画の抗争を戦後まで辿る。日本美術を世界美術の中に位置づける史観と解釈が鮮やかな名著。図版多数。(解説=酒井忠康)

“日本美術を世界美術の中に位置づける史観と解釈が鮮やかな名著”との惹句がまさにその通り、の名著。いやぁ、面白かった。

江戸中期に日本画が西洋近代画の科学的手法と出逢うところから物語は始まり、第二次世界大戦後までの150余年の歴史のうねりを見事に跡付ける。

読みやすく明晰な文章の流れは著者の知性の高さを感じさせて、鮮やかな手つきで日本近代絵画の歴史の輪郭を描いて見せて、読ませる。

歴史の流れの大きな見取り図があり、その各所に、具体的な画家や作品が召喚される。手堅い歴史叙述。

その裏表として、個々の画家一人ひとりの内面は捨象されてしまうので、どうしても大味な印象も残るのだけれども、歴史を描くということはどうしてもそうなる。

もちろん個々の画家たちについての簡にして要を得た記述は、批評的に活き活きと各画家の個性と時代的役割を伝えて、やはり読み手がある。

しかし本書の眼目はやはり日本近代絵画そのものであり、日本画が近代という時間の中でどのように変様したかがテーマ。

とりわけ本書の前半、江戸期に日本画が西洋と出逢ってから明治期に至るころまでの期間がとても面白い。

時代が下るにつれて、絵画史そのものが幾筋もの流れに分かれ、それぞれに重要な画家がいるので、画家についての記述の背後に歴史そのものが押しやられた感もあるのだけれど、その多様さ百花繚乱ぶりそのものが、日本近代絵画の辿った足跡そのものなのだろう。単純な太い道筋は分かりやすく面白いけれど、歴史に誠実であろうとすればそれだけ、単純さから遠ざかる。それでも、著者の揺るぎない歴史観の上に描かれた本書は、ぶれることなく日本近代絵画史を見据え続ける。

しかし、本書の面白さと、本書で取り上げられた画家たちの作品を楽しめるかはまた別の話で…知的興奮と美的感動は必ずしも足を揃えるものではない。

正直日本の近代洋画は何処が良いのかさっぱり分からない。本書を読んだ上で見直すと、感じ方も変わるだろうか。

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