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【映観】『ノマドランド』(2021)

『ノマドランド(Nomadland)』(2021)

監督・脚本:クロエ・ジャオ
原作:ジェシカ・ブルーダー「ノマド:漂流する高齢労働者たち」
出演・制作:フランシス・マクドーマンド

公開当時、映画館で観ました。
その年(2021年)は、新型コロナが世界を席巻し、緊急事態宣言が連発されてる最中でした。
僕はといえば自宅軟禁を楽しんでいて、外仕事は2年弱しないでNETでレコード販売を続けていた。
いま考えてもよくそんな生活ができたもんだと驚くが、世の中ぜんぶがそんな状況だと、案外目立たないものである。
それだからこそかなりこの映画が響いてしまって、もうそれからはノマドな生き方ばかり考えていた。

主演のF.マクドーマンドさんは、ジョエル・コーエン監督(いわゆるコーエン兄弟)と結婚している。
「ミシシッピー・バーニング(1988)」「ミラーズ・クロッシング(1990)」
そして何よりも印象深い「ファーゴ(1996)」では数々の賞に輝きましたが、
この作品も第93回アカデミー賞にノミネートされ、主演女優賞、監督賞(有色人種の女性として初めて)などを取っている。
返せばそれだけ辛辣な社会問題として、経済破綻(リーマン・ショックの余波)で住居を手放し路上生活者にならざる得ない人達が増えていたという事なのだろう。

"60年代ヒッピー世代が70歳オーバーにして路上へ戻ってくる話"
と囲うとカッコイイが全然違う、生きるという果てに辿り着く境地。
産業が消え、それに従事する人が去り、町として機能しなくなると郵便番号が抹消されゴーストタウンとなる。
主人公はそんな町から各地で働きながらキャンピングカーで全米を巡る。
車を住居として移動し生きる人たち、いわゆるノマド(nomad:遊牧民)ワーカーのセミ・ドキュメント映画。
Amazonや国立公園で働く様は原作だとかなり糞シゴト呼ばわりらしいが本作ではやんわりとしてる。
それにしてもだ、釈然としないものが残る。
つまりどんなにカッコつけても、それは社会から弾き出された社会不適応者じゃないのか、というコト。
本作の主人公は二度永住するチャンスがあったのに、敢えてそれを選択せずノマドに戻っていく。
搾取される側は死ぬまでそのシステム(ルール)に則り、ゲームを続けなければならない。
幸せの価値観は様々だろうが、どんなに自由を選んだとしても、
この世界では、末端で僅かばかりのお金を稼ぐ生活を続けていくしかないのが現実だ。
それを否定して荒野へ消えていった「イントゥ・ザ・ワイルド」の青年は僕と同じ歳だった。
この映画に出てくる高齢ヒッピー世代の答えには諦めを感じてしまうのだ。
突き詰めみれば、ぜんぶ生き方の問題なのだけど。
ノマドの生き方は、それを選択した先にあっただけに過ぎないのかも知れない。
何の制約もない路上の日没、マジックタイムは限りなく美しい、
けれどその自由や価値観は、諦めた先に付け足しのように得られた小さなご褒美じゃなかろうか。
(2021.04.28.)

これが映画を観た直後に書いた感想。
その後、原作本「ノマド:漂流する高齢労働者たち(2017)」も読みました。
原作は著者を巻き込み、季節毎の仕事を求めてアメリカ中を回る車中生活者の過酷な実態を描く。
もちろんそれも表裏があって、劣悪な環境での労働、低賃金さと引き換えに、限りない自由を会得するコトができる。
しかしその自由は、危険と隣り合わせのリスキーなものでもあった。
もし生活の拠点であるクルマが動かなくなったらば、事故にあったならば、仕事をクビになってしまったら、病気になってしまったら、その全部は誰にでも起こりうる事態ではあるが、身一つでギリギリの生活を続けている車上生活者(しかも高齢)は、それであっという間に命取りであった。
なんとも酷しい現実なのだけど、救いは夢を見続ける現代のノマド(nomad:遊牧民)を選択したという事実。
アメリカは広大で、そんな人たちも飲み込んで、そして優しく包み込むくらいの大らかさも有してるんじゃないのか。
そんなような気もしてしまいます。

ところでこの映画に影響された僕、日本では"ノマドワーカー"とか呼ばれる仕事などを模索し、
"リゾートバイト"(略してリゾバ) に辿り着くが、それって結局ただの派遣仕事だね、と気付くのでした。
確かにノマド的な生き方に近付けそうだけど、この島国では曲解され、何らかの形式に落とし込まれてしまうのだ。


ノマドランド #一骨画

ノマドは、ホームレスではなくて、ハウスレスなのです。

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