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【映画観覧記】『裸の島』(1960)


『裸の島』 #一骨画

『裸の島』(1960)
監督・脚本: 新藤兼人
出演者: 乙羽信子、殿山泰司

経営危機にあった近代映画協会の解散記念作品として、キャスト4人・スタッフ11人で瀬戸内海にある宿禰島でロケを敢行。
撮影期間1か月、500万円の低予算で製作された。
作品はモスクワ国際映画祭グランプリを始め、数々の国際映画祭で受賞、世界60カ国以上で上映された。
興行的にも成功し、近代映画協会は解散を免れた。
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約20年ほど前、下北沢でBARをやっっていた頃、お客さんだったA氏が持ち込んできたDVD。
彼は映像の音響屋さん、渥美清「泣いてたまるか」がDVD化される際、権利上、音を差し替えなければならず、請け負っていたりもする。勿論、オリジナルが使えればそれにこしたコトないだろうに、そんなところで無駄に権利を主張してお金をせしめようとする黒い力が働いて、僕らの知らずうちに音を差し替えられていたりするのですよ、ったく。

そのA氏が師匠と呼ぶ先輩から、黙ってこれを見ろ、と渡された映画。
この頃あまりにも場末過ぎてお客も少ない我がBARでは、夜な夜な深夜の上映会でお茶を濁していたのだった。
そしてこの映画、僕が新藤兼人にハマった最初の作品となる。
お客さんは5名くらいだったろうか、モノクロ、悠長に始まるこの映画、
黙々と水を桶で運ぶ夫婦、ひたすらそれが繰り返されるループ映像、音は音響さんがつけた効果音だけだ。
波風、水のバシャ、人の吐息、地面を踏む足音、もの凄い緊密で濃厚な空気の音が聞こえる。
気が付けば店内はその映像の一挙手一投足に釘付け、なんでもない日常ひとコマに、僕らは声を殺し固唾を呑んだ。
あっ、という驚き、
それに戸惑い、
もう僕らはその島で一緒になって枯れた土に水を運ぶ。
そう、そういった類いの映画である。
余りの長回しでトリップ感が増し、とりあえず笑う。
今までにない映画で少し恐怖を感じるのか笑って誤魔化しているが、これは辛辣だと気付く。
枯れた小さな島で家族4人自給自足、小舟で子供を本島にある学校へ送り、水桶を担ぎ戻って育てている稲に水をかけるという日常が延々と続く。
その滑稽さに、やはり笑う。
笑っているうちに、一番起こってはいけないコトがさらりと起こり、そして過ぎ去る。
自然が嵐を連れてきて、それから根こそぎ壊して去っていくように、暮らしは繰り返しループする。

乙羽信子(1994年70歳没)、殿山泰司(1989年73歳没)、新藤組では常連。
監督は100歳まで作品を作り続け、2012年に亡くなった。


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