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パン屋日記 #48 暗い気持ちに明かりを灯す

用務員の木村さんが、

会社の経費削減のため

週に1、2回しか
出勤できないことになってしまいました。

休憩室の蛍光灯が切れて、
もう数日たちます。

あんなに長い業務用の蛍光灯は、
どうやって替えていたのかしら。

釘の出た板は、どこに捨てたらいいんだろう。

木村さんに聞かないとわからないことが
たくさんあります。

自転車の空気くらいは
自分で入れられるだろうと思ったら

シュー、シューというばかりで、
一向にタイヤがふくらみません。



今日は厄日だったのか

朝から、サンドイッチ工場のおじちゃんと、
予約の電話で大ゲンカ。

どんよりと落ち込むわたしの隣に、
坂下先生がひょこひょことやってきました。

「iccaさん、今、例のご予約の件で
 サンドの田原さんに電話したら」

『はい』

「しょんぼりしておられました」

『はい……』

「なので、こちらも、
 iccaさんがしょんぼりしています、と
 言っておきました」



坂下先生は天才です。


それはわたしの心も、
サンドイッチ工場の田原さんの心も
やわらかくする一言でした。

もちろん、

「けんか相手がしょんぼりしていること」が

大事なのではありません。

2人ともしょんぼりしているということを、

2人ともが知ることが
大事なのです。



その日の夕方、久しぶりに
木村さんと遭遇することができました。

木村さんは、

「いくら休憩室といっても、
 点くべきところが点いてないと
 気持ちが暗くなるでしょう」

と言って

切れたままになっていた長い蛍光灯を、
すぐに取り替えてくれました。

ああ、今日は朝から疲れたなあと思って
店を出ると

自転車のタイヤには
しっかり空気が入っていて、

少しの力で、ぐんぐん家まで
連れて帰ってくれるのでした。


【パン屋いちばんの働き者・用務員の木村さんのお話】

https://note.com/icca333/n/n77ad6b99ee67

【愛し尊敬してやまない年下の先輩・坂下先生のお話】

https://note.com/icca333/n/n31f00b077c6c

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