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パン屋日記 #34 おばあちゃんの金言

年下ママのめいちゃんは、
とにかく謝る。すぐ謝る。

「めいちゃん、そんなにたくさん『すみません』って言ってたら、辛くなってこない?」

と尋ねると

「うちのばあちゃんが、すみませんとありがとうは、わけわからんでええけん言っときんさい。その場が丸く収まるけんって言ってたんです」

と、めいちゃん。


それからもめいちゃんは事あるごとに

「うちのばあちゃんが言ってたんですけど」
という枕詞で、

いろんなことを教えてくれました。



パン屋の駐車場に、不審な人がいます。

駐車場に吸い殻を撒き散らしては
その輪の中で頭をかきむしっている、
高齢の男性。

しかしながら直接的な被害はなく

ただ「不審だ」という理由だけで
交番に電話する勇気が、なかなか出ません。

めいちゃんは言いました。

「iccaさん。
 うちのばあちゃんが言ってたんですけど、

 警察と救急車は、迷ったら呼べ。
 何事もなかったら、なんともなかったねって
 みんなで笑えばええんよって」


すぐに来てくれたお巡りさんは、
とてもいい人でした。

わたしたちの代わりに謎のおじいさんと
お話をしてくれて、

「また何かあったら、
 いつでも電話してくださいね」と言って

嫌な顔ひとつせず帰っていきました。



今までで一番好きだったおばあちゃんの金言は、歯に関するものです。

「何か歯が痛い気がするなあ、肩こりかなあ」
とわたしがぼやいていると、

「iccaさん。うちのばあちゃんが言ってたんですけど」

めいちゃんがすかさず口火を切りました。

「歯に自然治癒力はない。
 すぐ歯医者に行け、って」



母子家庭で育ち、お母さんよりも
おばあちゃんと過ごした時間の方が長いめいちゃん。

めいちゃんのおばあちゃんはきっと、
お星さまというよりは太陽になって

いつもめいちゃんを照らし、
その道を明るくしているかのようでした。

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