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パン屋日記 #37 ガラス越しの世界

パン屋の向かいにある
「おおもり精肉店」のおとうさんが、
横断歩道を渡っています。

おとうさんがニット帽をかぶっているのを見ると
外は寒いんだろうなあ、と思います。



当店は古いバス通り沿いにあり

道ゆくお客さまから焼きたてのパンが見えるよう
通りに面した壁がガラス張りになっています。

「おおもり」のおとうさんはいつも
店前のベンチに腰かけていて、

おとうさんの隣にも必ず、
誰かしらが座っています。

みんな本当は、
お肉を買いに来てるんじゃなくて

おとうさんの隣に座るために来てるんじゃないかと、パン屋はにらんでいます。



こんどは「魔女のお姉さん」が、
2匹の犬を散歩させています。

1匹はリードがついていて、
もう1匹はリードなしのフリー・ラン。

いつも決まった方の犬がフリー・ランです。

このお姉さんは魔女のように髪が長く、
魔女のように爪が長い。

そしていつも、
背中が大きく開いたロングドレスか
黒地にゴールドのラインが入った
ジャージを着ています。

人当たりが強いので
従業員はみんな怖がっていますが、

わたしはお姉さんが、たまに彼氏らしき男性と
「自転車2人乗りデート」をしているのを
知っています。

横座りで、長い脚をそろえて
自転車の荷台に乗るお姉さん。

パン屋の前を、
つーっと通り過ぎていきます。

そのときはいつも、
やわらかい表情をしていました。



5人の男子中学生が、
小さいおばあちゃんを取り囲んでいます。

おばあちゃんのご家族らしきお姉さんが、
それに気がついてすっ飛んできました。

お姉さん、その男子中学生たちは

車道と歩道の間にある段差に
押し車をとられて転んだおばあちゃんを

助け起こそうとして、取り囲んだのです。

どうか誤解されませんように、と祈りながら

今日もガラスのこちら側でレジを打つ、
パン屋なのでした。


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