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#33 ローリング・ストーンズは転がり続ける 〜『Hackney Diamonds』に寄せて〜

About The Rolling Stones

結成メンバー(左からミック、ブライアン、キース、ビル、チャーリー)
現メンバー(左からロン、キース、ミック)

 1962年結成。結成当初のメンバーはミック・ジャガー(Vo.)、キース・リチャーズ(Gt.)、ブライアン・ジョーンズ(Gt.)、ビル・ワイマン(Ba.)、チャーリー・ワッツ(Dr.)の5人。ブルース色の強いロックの先駆けであり、60年代にビートルズら英国勢と共に世界中で人気を博す。70年代以降もコンスタントにヒットを放ち不動の地位を築く。1969年のブライアンの死後、ミック・テイラー(Gt.)の加入と脱退を経てロン・ウッド(Gt.)が加入。1992年にビルが脱退、2021年にチャーリーが死去、現在はミック、キース、ロンの3人体制に。

チャーリー・ワッツの死、そしてストーンズが久しぶりのアルバムを出した

新作『Hackney Diamonds』

 去る2023年10月20日、ローリング・ストーンズが18年ぶりの新作、『Hackney Diamonds』をリリースした。
 2021年に創立メンバーのチャーリーが死去した時には、60年代から数々の事件を乗り越えてきたストーンズも終わりなんじゃないか、と悲観的にならざるを得なかった。かねてよりキースはチャーリーなしのストーンズはありえない、と発言もしていた。
 しかし彼らは歩みを止めなかった。チャーリーの遺したストーンズをやめないでほしいとの意思を彼らは無碍にしなかったのだ。また、アルバムには2曲、チャーリーのプレイをフィーチャーした楽曲が収録されている。かくして、チャーリーに最大の賛辞と哀悼を贈り、なお前に進まんとするストーンズの現在が映し出された素晴らしいアルバムに仕上がったのだろう。

ストーンズは健在ぶりを示した

 特筆すべきは衰えを感じさせない彼らの演奏である。
 ミック・ジャガーの歌声は今が全盛期と言っても良い。暴力性と甘美さを兼ね備えた特徴的な声はストーンズの楽曲を歌うためにこの世に産み落とされたとしか思えない。デヴィッド・ボウイも、ジョン・レノンも、フレディ・マーキュリーも亡き今、生ける伝説の一角として彼の溌剌とした歌声を聞けるのは嬉しい限りだ。
 またキースとロンのギターの絡みも至高の域に達している。パートとしてリード、リズムがはっきり分かれているのではなく、お互いを補完し合い、1つの音の塊となって押し寄せてくる。ロックギターの1つの完成形と見ることができるだろう。

特筆すべき楽曲

 ここですべての楽曲を紹介するのは冗長が過ぎるし他のメディアや記事でも既に言及されていることだろう。なので筆者の目線でこれは言及しなくては、と感じた楽曲をいくつか紹介したい。

 「Bite My Head Off」

 ポール・マッカートニーがベースで参加した楽曲。ビートルマニアであり、ストーンズファンの筆者からしてみればとんでもないコラボレーションである。しかしだからといって曲がダメならそんなものは聴くに値しない。だがストーンズはこのコラボレーションを見事にやってのけた。ポールの十八番とされるメロディックで甘いラヴ・ソングではなく、敢えてパンキッシュなロックナンバーを選んだのが功を奏した。ポールも楽しくベースを弾いているんだろうな、というのが目に浮かぶようである。ベース、ドラム、ギターがぐいぐいと引っ張っていくような演奏と、それに負けないエネルギッシュなミックの歌声が3分半にぎっしりと詰め込まれている。60年代から活躍してきた彼らの、「まだまだロックしてやるぜ!」という決意が伝わってくるようだ。

「Mess It Up」

 チャーリーのドラムがフィーチャーされた楽曲のうちの1つ。この曲のようなダンサブルなナンバーはストーンズの魅力の1つだ。一般に、割とルーズな楽曲がストーンズの魅力とされていると思うが、タイトなリズムと洗練された演奏もまた彼らの得意とするところなのである。特にチャーリーのドラムプレイは必聴で、ジャズ出身であり、世界一有名なロックバンドのドラマーであった彼のプレイがどれだけ多彩であったかを偲ばせる。何十年にも渡る活動の中で、ブルース、ジャズ、ロックンロール、ダンスミュージックといった多種多様なポップミュージックを吸収したストーンズを象徴するような楽曲であいる。

「Rolling Stone Blues」

 バンド名の由来となったマディ・ウォーターズの楽曲をミックとキースの2人だけでカバーしたもの。シンプルな構成だからこそ2人のプレイが際立つ。元々、幼馴染で同じ地域に育った2人が年老いた今、その友情の歴史を確かめるように音楽が進行する。ミックのブルースハープ(ハーモニカ)の響きの哀愁は若い頃には出せなかった味そのものではないだろうか。ブルースへの敬愛を示しつつ、これからも転がり(Rolling)続けるという意思を感じさせ、過去と未来を同時に見据えた素晴らしいカバーと言えるだろう。

さいごに

 ミックは2023年10月現在で80歳、キースが79歳、ロンは76歳とお世辞にも若いとは言えないが、彼らはその輝きを失わず、むしろその年月を経て成熟した今だからこその輝きを獲得しているように思う。昔からロックスターは短命というのは定石で、ジミ・ヘンドリックスも、ジョン・レノンも、カート・コバーンも早くに亡くなってしまった。その太くて短い人生こそロックンロールだ、とか言われることもあるけれど、ストーンズはそんな定石をもひっくり返そうとしているかのように見える。晩節を汚すだとかそういった言葉を跳ね返すエネルギーを彼らは今も持ち続けているのだ。そんな彼らの活動を同時代で見れるというのは我々ロックファンにとって幸せなことではないだろうか。

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