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不満ばかりだったママが、感謝をするようになって子どもが元気になった。【交流分析for Teacher⑦】

Y子さんは夫と子どもと3人暮らしです。夫の通勤の都合でもともと都市圏で賃貸のお部屋に住んでいましたが、そのお部屋は3人で暮らすには狭く、Y子さんは「もっと広くて動きやすい家に住みたい」と思っていました。夫に話しても「そろそろ新築を考えようか」とは言うものの、なかなか現実的には考え始めてくれないような感じで何カ月も過ぎていました。お子さんはあと2年すると小学生になります。「この子が小学生になるまでになんとか…」とY子さんは日々考えていました。

建築士のN山さんのお話より

「交流分析 for Teacher」シリーズ記事では、学校現場の事例について交流分析を通した解釈を書いています。今回は学校の話ではありませんが、学校現場の参考にもなると考えて掲載しました。子どもや保護者と向き合うためのヒントにしていただけたら幸いです。

このお話は建築士のN山さんに伺いました。

個人が特定されないよう、設定は変えてあります。
その上で、お話をうかがった方に許可をいただいて掲載しています。

Y子さんの事例

N山さんは建築士で、住宅の設計のほかに家の立地や間取りにもとづいた家族カウンセリングも行っています。N山さんがY子さんと出会ったのは、N山さんの「土地と家オンライン講座」でのことでした。当時Y子さん宅はこれから土地を決め、建築会社を選んでいく段階で、現実的にはまだ何も進んでいない状況でした。
「家を建てる話を進めようとしても、夫がなかなか取り合ってくれないんです。何から手をつけるのが良いのでしょうか?」
Y子さんからこのような質問をされたのを覚えていました。

その講座から1年後、N山さんにY子さんからカウンセリングの予約が入りました。Y子さん一家は完成した新居にすでに住んでいました。しかし、家族関係がうまくいかず、Y子さんは悩んでいました。

「夫は笑顔も口数も減って、自室にこもる時間が増えてきました。子どもがまだ小さいので、夫にも協力してほしいことはたくさんあるのに、私が言うことは聞いてくれないんです」
「それは困りましたね。Y子さん宅のリビングは、どんな位置にありますか?」
N山さんはY子さんに質問してみました。Y子さん宅は玄関から入ってリビングを通らなくても個室に行ける構造になっているということでした。
「これでは家庭内別居のようですよね。せっかく家を建てたのに、『なんでしゃべってくれないの?』『何で笑顔もないの?』と私が言うと、夫はよけいに暗くなってしまって自分の部屋に逃げるような感じなんですよ」
「今から間取りを変えることはできないですし、困りましたね。お子さんはどんな様子ですか?」
「子どもは新居に移ってから元気がないです。きっと私たち夫婦がぎくしゃくしているせいですよね…」
「それもあるかもしれないですね。もしかしたらだんなさんの態度も、間取りが原因というより家族との関わり方が原因かもしれませんね」

N山さんは、Y子さんの「〇〇してくれない」という表現が気になっていました。1年前のオンライン講座の質問のときにもY子さんはそういう言い回しを使っていました。
「Y子さんは、ご兄弟はいらっしゃいますか?」
「私は一人っ子です。兄弟はいません」
「一人っ子なんですね。たとえばY子さんが何か欲しい物がある時、親御さんにはどうやってお願いしていましたか?」
「親はそんなに甘やかすほうではなかったですが、私がどうしても欲しかったものは、駄々をこねて要求するので結局親が折れて買ってくれたこともありました。」
「駄々をこねる、っていうのは、どんな風にですか?」
「…あまり覚えてないですけど、泣いたり、騒いだりして親を困らせてたと思います。小さい頃は甘えっこでわがままだったって親に言われたこともありますよ。」
「だんなさんに対してY子さんが要求すると、だんなさんはどんな感じになりますか?」
「何か、いっぱいいっぱいになっちゃって、言い返せないから自分の殻に閉じこもっちゃう感じですね。…私がたくさんのことを要求しすぎているからかも?」
N山さんの質問で、Y子さんは夫よりも自分のあり方に目を向けはじめたようでした。
「今住んでいるところは田舎で、近所付き合いもまだほとんどないです。前にいたところは街で、友達もいたし、買い物ができる場所も近くにいっぱいありました。新居に移って、自宅にこもりがちなことが増えたような気がします。それで私に不満が増えたのかな」
「そうかもしれませんね。引っ越したことで、だんなさんにも負担は増えたんじゃないですか?」
「そうだと思います。ローンを背負ったことに加えて、職場が遠くなって、通勤時間が倍以上になりました。都市圏よりは郊外で土地を買うほうが、もちろん安いですからね。それは無理もない流れだったけど、考えて見れば、よく決断してくれましたね。」
「そうですね。家を建てることでY子さんが喜んでくれるなら…って、きっと思ったんでしょうね。Y子さんは『どうして〇〇してくれないの?』ってだんなさんに言ってましたけど、不満はいったん置いておいて、『〇〇してくれたんだ』って感謝をされてみると良いかもしれませんね。」
「たしかにそうですね。夫は家族のことを大切に思って、家を建ててくれて、仕事にも行ってくれてるんですよね。そのことに感謝しないで、自分の不満ばかり言ってたかもしれません。」
「Y子さんは、今お仕事はされていないんですか?」
「今はしていません。子どもが幼稚園に入ったらパートに出ようと思っていましたが、家づくりのことがあって、それに時間を取られていたのでちょっと保留にしていました。」
「では今がそのタイミングかもしれませんね。自分のエネルギーを、不満によって人を動かすことに使うのではなく、周囲を幸せにすることに使うんです。人が動いてくれることに期待するのではなく、人に感謝して、自分が動いていくんですよ。Y子さんならきっとできると思います。」

Y子さんは夫に不満ではなく感謝の気持ちを伝えることが増えました。パートの仕事も見つけて、昼間は働きに出ています。
今では夫婦関係も良くなり、お子さんも以前より元気になったそうです。

建築士のN山さんのお話より

N山さんのカウンセリングで、Y子さんの何がどう変わったのでしょうか?交流分析の視点で解釈してみましょう。

「どうして○○してくれないの?」

Y子さんは、だんなさんに要求する時に「どうして○○してくれないの?」という言い回しをよく使っていました。やりとり分析で表してみると、下の図のようになります。

「子ども」の自我状態は、その人の子ども時代の行動や思考、感情の反復として現れることがあります。
Y子さんはおそらく子どものころ「どうして○○してくれないの?」という言い方で周囲の人を動かしてきたのではないでしょうか。「こういう言い回しをすると周囲の人が動いてくれる」という経験をしたので、不満がある時にこういう言い方をしてしまう「癖」のようなものが身についたのかもしれません。

だんなさんの素直な反応

だんなさんはY子さんとのやりとりで、初めのうちはたぶん平行な矢印で応じていたのだと思います。

お家を建てる話の時も、「なんで聞いてくれないの?」「なんで早く動いてくれないの?」などの要求があったのかもしれません。それに対してだんなさんも「じゃあ、してあげよう」と素直に応じてきたのかもしれません。

対等な夫婦のやりとりならば、「大人」の自我状態どうしのやりとりになるはずです。

妻「家がせまいし、子どもがもうすぐ小学校に上がるから、
そろそろ家を考えてもいいと思うけど、あなたはどう思う?」
夫「そうだね、そろそろ考えてもいい頃だね」
(やりとり例)

なんらかのやりとりが始まると、相手はその矢印と平行な矢印を返しがちです。もしY子さんが「大人」の自我状態から矢印を向けてきたら、だんなさんもそれと平行に「大人」の自我状態から反応したと思います。
しかしY子さんが「どうして○○してくれないの?」と「子ども」の自我状態でやりとりを始めたので、それに対してだんなさんがずっと「親」の自我状態から応じ続けてしまったのではないでしょうか。

夫婦なのに対等ではないやりとり

だんなさんは「このやりとりは変だ」と気づかず、「妻の不満は、家を建てたらおさまるかも…」と信じて行動し続けたのかもしれません。

交叉的交流(がっかりするようなやりとり)

しかし、実際に家が完成しても妻の不満がおさまるどころか「どうして○○してくれないの?」とずっと言われ続けて、だんなさんも疲れてしまったのかもしれません。「暗くなって自室にこもる」などの反応は「子ども」の自我状態の反応です。

矢印で表すと二本の矢印が交わる「交叉的交流」になってしまいます。期待した自我状態から矢印が返ってこず、Y子さんからするとがっかりするようなやりとりです。

「交叉的交流」について、詳しくは管理人の別アカウントの記事で解説しています。


A(大人)の自我状態の回復

だんなさんは家を建てたことでいろいろな負担が増え、その上Y子さんの不満が続いていたので、どうすれば良いか分からず、自信もなくなり、だんだんとA(大人)の自我状態のエネルギーが下がっていってしまったのだと考えられます。

だんなさんのAのエネルギー

A(大人)の自我状態は、「冷静さ・客観性」にもとづいて、次のようなアクションを起こせます。

事実の分析。計画する。考える。気づく。
アイデアを練る。選択する。判断する。決定する。

※「親」の自我状態と「大人」の自我状態は別のものです。

A(大人)の自我状態について、詳しくは管理人の別アカウントの記事で解説しています。

家を建てるまでは、だんなさんのA(大人)の自我状態はちゃんと働いていたと思います。そうでなければ「家を買う」などという大きな決断はできないでしょう。だからこのだんなさんは、本当は「頼りになる人」です。
でも、家を建てた後のY子さんとの関わりでA(大人)のエネルギーが減っていき、次第に「頼りになる部分」が埋もれて見えなくなってきてしまったのではないでしょうか。

プラスのストローク

このようにA(大人)の自我状態のエネルギーが低下してしまったときは、「ストローク」を受け取ることで回復することができます。
「ストローク」は「人の存在や価値を認める言動や働きかけ」のことです。「プラスのストローク」と「マイナスのストローク」があり、「感謝すること」は「プラスのストローク」にあたります。

プラスのストロークの例
ほめる。うなづく。あいづちをうつ。認める。尊重する。感謝する。
(興味を持って)尋ねる。励ます。共感する。尊敬する。信頼する。誘う。気にかける。微笑む。手を振る。あいさつする。相談する。

Y子さんが「感謝」という形でプラスのストロークを向けてくれたことで、だんなさんのA(大人)の自我状態がだんだんと回復してきたのだと考えられます。

「どうして○○してくれないの?」という言葉がけは、相手の価値を値引いているので「ディスカウント」です。

「人の存在や価値を否定する言動や働きかけ」

Y子さんにとっても、相手が何かを「してくれない」という所よりも、何かを「してくれている」という点に意識を向けられるようになったことがプラスに働いたのだと考えられます。

ストロークとディスカウントについて、詳しくは管理人の別アカウントの記事で解説しています。

まとめ

この事例は初めは住宅に関する相談からはじまりましたが、実は心の在り方や交流のしかたが関係していました。N山さんのように、建築関係でありながら心や人間関係についても相談できる人というのはとても頼りになる存在だと思います。

N山さんが言っているように、Y子さんはもともとたくさんのエネルギーを使える人であるようです。そのエネルギーを、不満ではなく感謝することに使うことで、家族全体が良い方向へ変化できたのだと思います。Y子さん夫婦の関係が良くなることで、お子さんも元気になって良かったですね。


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