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白黒の追想ロケットペンダント

【旅する飾り屋の話 ―白黒の幸せな日々―】

秋の訪れを感じさせるようなひんやりとした風が吹き始めたその日。
飾り屋とトランクはとある国の大きな公園で昼食を済ませていた。
お昼食べて満腹になった飾り屋がうーんと伸びをしてちょっとお昼寝でもしようかと横になったその時、風に乗って何かが飾り屋の顔の上に落ちてきた。

『飾り屋、顔に何かついてるけど…何それ?』
トランクが聞いてきたので飾り屋もそれを手に取り良く見てみるとどうやら少し小さめでかなり古い白黒の写真のようだった。
写真には凛々しく立つ男性の姿、傍らには優しく微笑みながら座る女性の姿が写っている。
『また随分と古い写真だねえ。一体どこからやってきたんだろう?』
トランクが不思議そうな声を出していると遠くから息を切らして女性がやってきた。服装などは違っているがどうやら写真に写っている女性本人のようだった。
「あ、あのすみません!こちらに写真が飛んできませんでしたでしょうか?」
女性は必死そうな表情で飾り屋達に問いかけた。
飾り屋がこれのことでしょうか?と顔の上に落ちてきた写真を見せると女性は表情を和らげた。
「これです!ああ、よかった!風で飛ばされた時は本当にどうしようかと…。」
女性は飾り屋から写真を受け取るととても安堵した表情を浮かべた。
『大事な写真見つかってよかったね。でもずいぶんと古い写真だけど、これは旦那さんと撮られた記念写真かな?』
「ええ、これは……あの人と最後に撮った大事な写真なんです。」
最後?とトランクが不思議そうに聞くと女性は身の上の話を聞かせてくれた。


彼は同じ学校の同級生で学生の頃からの付き合いだったこと。
学校卒業とともに結婚し、慎ましやかに暮らしていたが国が隣国と戦をすることになり彼は出兵することになってしまったこと。
写真は出兵が決まった際に記念に、と撮った一枚だったこと。
その後戦は無事終わったが残念ながら彼は帰ってくることはなかったこと。
けれども彼が出兵してからすぐに生まれた子供と共に今は幸せに暮らしていることなど、彼女は過去に想いをはせながら話してくれた。


『そっか、お姉さんも大変だったんだね…なんか辛いこと聞いちゃってごめんね。』
トランクが申し訳なさそうな声で言うと女性は少しだけ寂しそうに、そして優しい笑顔でトランクをなでて言った。
「いいえ、この写真を見るだけであの人との楽しい記憶が沢山よみがえってきて若い頃に戻れるんですよ。なのでこちらこそ大事な写真を拾ってくれてありがとうございました。」
女性は写真を胸に当ててとても幸せそうだった。
「もう風に飛ばされたりしないようにしないといけないんですが、なるべく肌身離さず持っていたくて…何かいい方法があればいいですけど…。」
女性のその言葉を聞いて飾り屋とトランクはにこりと顔を見合わせた。


「まあ素敵なロケットペンダント!」
彼女の悩みを聞いた飾り屋はすぐさまトランクから部品を取り出し白と黒を基調にした上品なロケットペンダントを作り出した。
そして写真を一部切り抜いてロケットの内側にはめ込んで彼女に渡した。
『これでもう失くさないね、お姉さん!』
「ええ、ありがとうございます。飾り屋さん、トランクさん。」
飾り屋はお姉さんの嬉しそうな顔を見てこちらこそ喜んでいただけて何よりです、と答えた。
そして飾り屋とトランクは女性に見送られながら公園を離れた。


「母さん、探したよ!勝手に家から出たら危ないじゃないか!」
飾り屋達が公園を離れて少しした後、一人の青年が女性に声を掛けた。
「もう歳なんだし、心配だからあんまり遠くには――あれ、そんなペンダント持ってたっけ?」
青年が母と呼びかけたその老婆の首元には白黒のロケットペンダントが着けられていた。
「ああ…これはね、お父さんといつでも一緒にいられるようにって…いただいてね。
 ……これでいつでも、あの頃に戻れるね。」
そうゆっくりと語る皺の深く刻まれた女性の顔には若い頃と変わらない優しい笑顔があった。


そんな旅する飾り屋とトランクの話。


minne


Creema












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