分裂自己との対話⑦〜愛情〜

①メイン
②死神→父性
③正論オバケ
キッズちゃん→子供
⑤ママ

ママ:目の前にいる相手を見ているようで実は過去の亡霊を見ている、というのは面白い視点ね。

メイン:でもその過去の亡霊が何なのか、どうしてもモヤっとしているような。
具体的にこの人とかあの出来事とかそういうのがあるわけでもないというか。

正論オバケ:そうだ、必ずしも過去の亡霊が具体的とは限らない。
個体や液体というよりは気体に近いものだと解釈すると分かりやすいかもしれない。
たとえば空気というものは目に見えるものではないだろう?
でも確実に私たちは空気に左右されている。
私たちは酸素がなければ生きられないのと同じで確実に私たちに影響を与えているものだ。
過去の亡霊に囚われる状態というのは目に見えない悪い空気のようなものが常に漂っているような状態とも言える。
そしてそれがたとえば霧のように明らかに前が見えなくなるような存在であれば分かりやすいのだが、そうとは限らない。

ママ:私もそういえばそれに近い事を心理学の本か何かで聞いた事がある。
音や景色やニオイや特定のシチュエーションなんかが過去のトラウマを想起させてそれで心理的に苦しくなる場合があるって。
そしてそれは必ずしも具体的に何を思い出しているのかが分かるわけではなくて、結果として本当の原因は過去にあるのに目の前にあるものに原因があるんだって判断してしまう事があるって。

メイン:もしかしたら思い当たる節があるかも。
よく分からないけど怖いとか苦しいとか悲しいとか。
結局は辛くなってその状況から離れる以外なくて、でも周りの人たちからしたら突然離れるわけだから「どうして?」という疑問を持たれる。
最終的には周りの人間を悪者にしてでも逃げるしかなくなるというか。
周りの人間が極悪人だって思わないと自分が逃げる事に後ろめたくなってしまうから。

正論オバケ:その話はおそらく重要なヒントになる。
今お前に求められている他者に対しての受容や尊重の精神、強く本当の意味で優しい母親のような精神というものを手に入れるにはその問題と向き合う事は避けられないだろう。
ただそれらを全て解決しないと母親になれないというわけでもない。
しかしそういう問題があると認識する事だけは必要になってくるだろう。
"気付く"という事がとにかくスタートだ。

メイン:私の中には過去の亡霊がいる、そしてそれが目の前にあるものを正しく認識できなくさせている。
うん、すごく腑に落ちるような気がするわ。
今までの私って相手にこう認識してほしいっていう理想を押し付けていたところがあるかもしれない。
誰かからすごい人だって思われないと自分に価値がない気がしていつも褒められたかった。
でも相手が自分の思うように褒めてくれなくてなんとなく不満に思って、それでいてその不満は恥ずかしいから抑圧して。
気が付いたらそういうモヤモヤした感情が常に自分の中にあって余裕がなくなってしまう。
その状態で目の前が見えるはずもないという事よね?

正論オバケ:ああ、その気付きが今の時点でできた事は100点満点と言ってもいい。
どうだ、少し気持ちに変化が出てきただろう?

メイン:ええ、なんだか目の前の景色が鮮明に見えるようなそんな感覚がある。
遮っているものを自分の意思で避けられるようになったというか。
今までは遮っているものも含めてそれが今現在の景色であると思っていたけど違ったのね。
今の私の視界には確かに現在の景色でないものも時々入り込むけれど、それが現在の景色ではないものだということが分かる。
だから自分の意思でそれを取り除いたり、過去を振り返ったりする事もできる。

ママ:それはもしかしたらとてもすごい事なのかもしれないわ。
私はあなたの一部だからその変化を今強く感じられる。
今まで私はあなたの気持ちはある程度分かっていたけれど、あなたが私の気持ちを分かっているという感覚があまりなかった。
確かに私の言葉に対してちゃんと理解を示して学びにしてくれてはいたけれど、どこか他人事のような感じが少しあった。
それがこうして話しているうちに段々となくなってきたように思うわ。

正論オバケ:たとえば頭では理解しているが、身体が追いつかないみたいな経験があるだろう?
それはどこか自分事として受け取れない、自分というものにモヤがかかっているような時に生じる事だ。
つまり今のメインはそれだけ実体のある存在になってきているという事だ。
そして他人の事も感じられる器になってきたという事だ。
自分を他人事にする人というのは他人の事を自分の代替的存在として扱う場合があるが、それも他者の本当の心を見ようとしない愚かな行為だ。
相手を見るだけの自己がいない、そのくせいかに自分が相手を思いやっているかを強調して周りに印象付ける。
自分は愛のない人間だという事が認められずに、擬似愛に依存するクズだ。

メイン:私、分かったかもしれない。
私が心の中に「ママ」を作った本当の理由。
初めはただ子供の頃の傷ついた私を癒してほしいという気持ちが生んだものだと思っていたわ。
でもそれだけではなかった。
私はずっと誰かを愛したかったのかもしれない。
キッズちゃんと話した時のあの温かい気持ち、あの時キッズちゃんが私と話す事で気持ちが安らいでいくのが分かった。
でもそれ以上に私の心がとても満たされた。
あれが愛なのかなって。
相手の幸せに自分が幸せを感じられる感覚。
自分の中に誰かを愛したいという気持ちが眠っていたのかもしれないなって。
私の憧れだった。

ママ:あなたの口から「愛されたい」という言葉ではなくて「愛したい」という言葉が出てきたのは初めてだと思うわ。
愛は能動であるなんて言ったりするけど、本当にそうで愛するという意欲が湧いてくるのであればそれはあなたが主体を取り戻した証拠よ。
自分が愛される為に愛したいのではなくて、心の底から相手を愛する気持ち、それは明確な自己を持った人間にしかできない事よ。
本当にこれまでよく頑張ったわね。
私は今とても幸せな気持ちよ。
あなたがここまで成長してくれて。

メイン:愛するという気持ちが分かると今まで愛してくれた人たちの気持ちが分かるような気がするわ。
ママはずっと私を気にかけてくれた。
私の成長を温かく見守ってくれていた。
私はそれに甘えて依存しようとする気持ちが強かったと思うけど、今はそれよりも恩返しをしたり私の素直な気持ちを伝えて意思疎通をしたりそういう事がしたい。
対等な存在として心を通わせたいなってそう思う。

ママ:対等な存在になるというのはとても居心地の良いものよ。
お互いが負うべき責任を負って、自分をしっかり持つ事、そしてテリトリーをちゃんと守る事。
自分と相手に適切に境界線を引いて一体化しない事、自分と相手は違う人間であると認識する事、そしてその違いを楽しむ事、それが対等かつ良好なお付き合いだと思うわ。
私はあなたとならそういうお付き合いができるようなそんな気がするわ。
今のあなたならきっとあなたの一部である私ではなくても、誰かとそういう素敵な関係を持つ事もできるはずだわ。
それくらいあなたは成長した。

メイン:今まで優しく見守ってくれてありがとう。
私を見限らずに根気強く支えてくれてありがとう。
あなたがいなければ私はここまで来られなかったと思う。
私はあなたから受け取ったものを自分の糧にしてあなたと共に生きていきたい。

ママ:もちろんよ、いつでもあなたの力になるわ。
だって私は元々はあなただもの。
どんな時であっても自分は自分の味方でないと。
本当に立派になったわね。
私とあなたはきっともうこうやって別の存在として関わる事はできなくなるわけだけど、でも全く寂しくないわ。
むしろワクワクしている。

メイン:私もよ。
あなたと私ならきっと大丈夫だって自信を持って言える。
強く優しい人間になれる、人をちゃんと愛する事のできる人間になれる、そういう確信があるわ。
これからもよろしくね。

ママ:ええ。
これでお別れね。
さようなら!

①メイン
②死神→父性
③正論オバケ
キッズちゃん→子供
ママ→母性

続く



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