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豊田章男会長 最後の議長メッセージにみる「株主との対話の効用」
先月のトヨタの総会を締め括った豊田会長の挨拶。
感動的な名スピーチなので、まずはじっくりと聴いてみて頂きたい。
さて、ここで取り上げたいのは、株主との対話という点でこのスピーチが示唆するものである。
14年間で変わった豊田会長の総会への向き合い方
初めて総会で議長を務めた2010年、豊田会長にとって「総会は一年で一番苦手な日」だったという。
思い起こすと、初めてこの議長席に立ちました2010年6月、私にとって、株主総会は「一年のうちで一番苦手な日」だったかもしれません。
しかし、総会を重ね、株主からの質問に答える中で、自分たちの価値観や目指すべき方向など多くの気づきを得た、と。 そして、今や総会は「自分たちの姿を鏡に映し出す大切な機会」と思うようになったという。
しかし、議長を務めた14回に及ぶ総会で、株主の皆様からのご質問にお答えする中で、私たちは、これまでの自分たちが大切にしてきた価値観や、これから目指すべき方向など、改めて、多くのことに気づくことができました。
私は今、「株主総会は1年に一度、自分たちの姿を鏡に映し出す大切な機会だ」と思っております。
会長が14年かけて取り組んだのは「クルマ屋」としてのトヨタらしさの回復だった。
私にとっての敵は、「トヨタらしさ」を忘れてしまった企業風土であり、守ろうとしたものは、「モノづくりの現場」と「トヨタの未来」だったと思います。
そして、「しんがり社長」の私が遺せたものがあるとすれば、それは、未来を担う「人」だと思います。
「あなたは何屋さんですか?」そう聞かれたときに「クルマ屋です」と胸を張って言える「人」だと思います。
そして、自らの取組みを「逆行することが多かった」と回顧する。
社内外で様々な批判や抵抗があったのだろう。
これまで私がしてきた決断は、時代の潮流にも、トヨタの保守本流にも、逆行することが多かったと思います。
それでも前に進むことが出来たのは、議決権行使書にかかれた応援のメッセージや総会での拍手など、支え続けてくれる株主達がいたからだ。
会長は声を詰まらせ、涙ながらに語った。
私が、大きな流れに逆らいながらも、なんとか前に進むことができましたのは、中長期的な視点に立ち、ずっとトヨタを応援し、ずっと私を支えて下さった株主の皆様のおかげでございます。
「トヨタがんばれ」「モリゾウがんばれ」。議決権行使書に書かれた温かいメッセージ、声には出されなくても、総会で見せてくださる皆様の表情や大きな拍手に背中を押していただき、何とかここまで来ることができました。
「経営者は孤独」とよく言われる。
批判も浴びながら自らの道を進もうとする孤独な豊田会長に、株主が陰に陽に力と勇気を与え続けたが故の涙だろう。
スピーチに見る「株主との対話」の二つの効用
会長のスピーチには、株主との対話の二つの効用が表れている。
ひとつはビジョンや長期目標のブラッシュアップと浸透だ。
「人に説明することが一番の勉強になる」と言われるが、株主との対話の中で繰り返し言語化し、説明することで、価値観や目標が自身の中でより明確になり、定着する。
日々の経営判断や戦略の検討も、こうして刷り込まれたビジョンを常に軸にしながら行う習慣が、組織含め浸透していくのだ。
ふたつめは経営陣の規律とモチベーションだ。
会長が「鏡」と表現するように、株主価値に資さない経営は容赦なき批判に晒される。株主との対話を念頭に置くことで、常に緊張感ある経営を迫られる。
一方、成果や前進には惜しみない賛辞が与えられる。人間誰しも褒められれば嬉しいものだ。
批判の多い施策であっても、株主の理解と支持をモチベーションに、前に進めることができる。
いまだに株主との対話に後向きな経営トップも多い。 豊田会長がそうだったように、株主と向き合うことは、初めは憂鬱でしかないだろう。
しかし、自社や自分のことを想ってくれている人は案外多い。
そうでなければ、好き好んで大切な資金をその会社に投下しようとは思わない筈だ。
豊田会長のスピーチを聴いて、自分も一歩踏み出してみよう。
そう思う経営トップがひとりでも増えることを願っている。
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