あり得る未来をいくつか想定して、どの未来が来ても大丈夫なように判断・準備・行動することで 《未来を織り込む》 (大変な状況のなかでの暮らしのヒント)

未来を織り込む

今日紹介するのは、《未来を織り込む》です。

現在の新型コロナウィルスの感染拡大の状況は、いつまで続くのか、先行きが不透明です。

治療法やワクチンが開発されるのに1年から1年半かかるという予想もあり、いつ収束するのかは誰にもわからない状況です。

そんななか、外出自粛(海外ではロックダウンも含む)や在宅勤務・休校で、人の動きの流れが大きく変わり、飲食店や会社は、経営上の大きな打撃を受けているところは少なくありません。

数週間の一時的な変化であればなんとか凌げるとしても、1、2年持ち堪えられるかどうかは別次元の話になります。

特に日本では対策が小刻みなので、「短距離走」のような気持ちで臨んでいた人も多いかもしれません。

しかし、時間が経つにつれて、実際は「長距離走」だったんだということを、ますます痛感するようになっているのではないでしょうか。

マラソンには、マラソンなりの長距離におけるやり方、ペース配分、心持ちがあります。

今をなんとかやり過ごすとともに、先も見据えた意思決定や行動も必要になってくるのです。

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そこで、これから数年の間にどのような変化があり得るのか、そのあり得るシナリオをイメージし、そのどれが起きても乗り切れるような方針・やり方を考えるようにします。

「未来」というものは、「未だ来ていない」ので、確かなことはわかりません。

特に今は、先行きが不透明で予想がつかないという実感が強いでしょう。

だからといって、今、未来について考えるのをやめてしまうと後で大変な事態に陥ってしまう可能性があります。

どうしたらよいのでしょうか?

このとき、参考になるのが、「シナリオ・プランニング」という方法です。

これは組織経営のための方法なのですが、1970年代にロイヤル・ダッチ・シェルという石油会社が、オイルショックが起きる前から事前に対処できていたということで、有名になったものです。

シナリオ・プランニングの方法を用いて、オイルショックのような事態が起きる可能性を織り込んで経営をしていたのです。

未来について考えるとき、人はたいてい、予測し、それを当てようとします。

そして、実施にそれが当たったのかどうかを気にします。

でも、シナリオ・プランニングはちょっと違います

いくつかのありそうな複数の未来(シナリオ)を想定して、それらを踏まえた現在の意思決定について考えます

当てにいく一つの予測をつくるのではないのです。

しかも、自分がどうするかではなく、自分に関係のある極めて影響が大きい環境要因について考えます。

「自分に関係のある」ということから、組織ごとに(あるいは人ごとに)違うのですが、ここでは、新型コロナの状況で、家族(あるいは個人)にとって関係のある社会環境ということで考えてみましょう。

まず、私たちの生活に大きく影響するのは、この感染の状況が長期化することです。

そこで、シナリオのひとつの軸は、感染状況が長期化するか/しないか、ということにしましょう。

もうひとつの軸は、経済が大幅に悪化するか/しないか、ということにします。

経済が大幅に悪化すると、店・会社の経営が破綻し、仕事が成り立たなくなったり、解雇されたり、会社が潰れたりする可能性が高まります。

これは、収入がなくなってしまうことから、家族・個人の生活にとって相当にクリティカルです。

すでにいくつものお店や会社が経営破綻をして(あるいはその見通しで)、畳む・解散することを余儀なくされたというニュースを耳にします。

それらの多くは、人の動き・流れに大きな影響を受けた to Cのもので、ここから、さらに B to B の職種にも波及して、ますます苦しい状況になるでしょう。

ここでは、以上の2軸で考えてみることにしましょう(別の軸を考えた人は、あとで、以下の手順で同じように考えてみてください)。

以上の2軸をもとに、次のような図を描くことができます。

未来シナリオ例

横軸感染状況で、「比較的早く収束」と「長期化」となっています。

縦軸経済状況で、「大幅に悪化」と「持ち堪(こた)え」です。

この2×2でざくっと考えると、4つの未来が想定されます。

そこで、この4つのそれぞれの未来シナリオを考えてみます。

それぞれの未来の内容を踏まえ、各シナリオに対して、次のように命名してみました。

シナリオA:「経済的焼き野原からの出発」
新型コロナの感染状況が比較的早く収束したにも関わらず、経済的に大打撃を受けた場合の未来シナリオです。突発的な大打撃で破壊された経済を、感染が収束した状況下で、立て直していくという未来になります。
シナリオB:「社会的大変動のなかのライフシフト」
新型コロナの感染状況が長期化し、行動が大きく制限されるなかで、経済も大幅に悪化した場合の未来シナリオです。経済・産業のあり方が変わらざるを得ず、職種・仕事の再編が起き、暮らしや生き方の変革が求められる未来です。誰もがいままでと同じような生活を送ることは困難で、新しい人生・社会を生きるようになります。
シナリオC:「短期的やり過ごし」
新型コロナの感染状況が比較的早く収束し、経済も持ち堪(こた)え、もとの日常に近い世界に戻るという未来シナリオです。3月の段階では多くの人はがこのシナリオを想定していたのではないでしょうか。最も理想的ではありますが、奇跡的な何かが起きないと、この未来は来そうにはないことを、今私たちは感じています。
シナリオD :「各持ち場からの協力社会」
新型コロナの感染状況が長期化しますが、経済がなんとか持ち堪えるという未来シナリオです。それぞれの人がそれぞれの立場・仕事からできることをして、協力しあって、この難局を乗り越えようとしています。多くの人にとって、今の状況に近いと言えるかもしれません。


以上、今回僕がシナリオ・プランニングで考えた、4つの未来シナリオの案を書いてみました。

ここで強調したいのは、このどの未来が来るのかを一つ選ぶのではないということです。

どれが当たるかという話ではなく、また、どれが確率が高いかを数値化しようという話でもありません。

そうではなく、どの未来シナリオもあり得ることと想定して《未来を織り込む》のです。

どの未来が来ても大丈夫なように、政策・戦略・方針・企画をつくるということが、ここでは求められています。

感染状況も、経済状態も、自分ではコントロールできない環境要因です。

それであるからこそ、その環境の状態がどう転んでも、自分が適応していけるように準備しよう、ということです。

改めて、4つのシナリオの図を載せておきますね。

未来シナリオ例


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最近、フランスでは、農業で働くことを推進しているようです。

これは、シナリオBのような想定も踏まえた方針だと言えます。

もちろん、実際には、シナリオBの未来ではなく、AやCやDが来たとしても、農業人口の増加は、食と職の確保の面でおおいに意味があることです。


各自の仕事においても、これら4つのシナリオの未来に備えることが重要になります。

僕が昨年住んでいたアメリカのオレゴン州ポートランドで知り合った日本人シェフは、3月にロックダウンが宣言される前に、愛着をもって育ててきたレストランを閉め食品加工に大きく舵を切る決断をしました。

その素早い適切な判断が実に素晴らしいと、僕は感動しました。

短期的な事情だけでなく、長期的な見通しも踏まえた《未来を織り込む》判断だと感じたからです。

彼女はシナリオ・プランニングの方法で考えたわけではないのですが、おそらく、同じような思考を直観的にして決めたのだと思います。


学校のオンライン授業化についても同様です。

「短期的なやり過ごし」ではなく、長期的な視野での新しい教育スタイルの構築だと思って取り組むべきでしょう。

新型コロナの件が収束したあとでも意味があるように、オンライン授業を開発・実験・洗練させていく。

思えば、僕らはもっと早くから始めてもよかったのです。当時の現状に引っ張られて、思いのほか遅れて始めることになったに過ぎないのです。

だから、リアルに教室で集まれる状況になった後でもオンラインを選択したくなるような、そういうオンライン授業を生み出すべきときなのです。

それは、きっと、シナリオA「経済的焼き野原からの出発」やシナリオB「社会的大変動の中のライフシフト」のような未来においても、大人の学び直しのための不可欠な仕組みにもなるでしょう。


このように、あり得る未来をいくつか想定して、どの未来が来ても大丈夫なように判断・準備・行動することで 《未来を織り込む》のです。

未来を織り込む

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今回紹介した《未来を織り込む》は、『プロジェクト・デザイン・パターン:企画・プロデュース・新規事業に携わる人のための 企画のコツ32』に収録されている企画のコツのひとつです。

ビジネスなどで企画をするときには、今の市況だけをみて設計していると、最初はよくても、後に必要とされないものになってしまう恐れがあります。

また、追随する競合相手が現れたり、社会の状況も刻々と変わっていきます。

そのため、需要や供給の変化を予測し、それを見込んだ企画になるようにつくり込むというのが、企画づくりにおける《未来を織り込む》というコツでした。

この《未来を織り込む》ということは、今の私たちの状況に不可欠だと思います。

先行きが不透明だからと先のことを考えないと、長距離のマラソンを走り抜くことはできません

この後、どんな道が来ても対応できるように、体勢を整え、備えるべきです。

そのために、「シナリオ・プランニング」の考え方が役立つと思い、今回それも併せて紹介しました。

シナリオ・プランニングについては、日本語でも書籍がいくつか出ていますので、興味がある人はチェックしてみてください(キース・ヴァン・デル・ハイデンの『シナリオ・プランニング』『入門 シナリオ・プランニング』など)。


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