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経済紙の記者をやっておりました http://pata.air-nifty.com/

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最近の記事

『風土記』橋本雅之編、角川ソフィア文庫

 今年は、平安朝の日記を角川ソフィア文庫のビギナーズ・クラシックスのシリーズで読むことが多かったのですが、まさか『風土記』にまで手を出すことになるとは、自分でも驚きでした。しかし、なんというか新鮮。読んで良かったです。  まとも読んでいないので素人感想も過ぎますが、常陸国が抜群に面白かったです。記紀の東国は伊勢だったりするけど、ヤマト王権が関東まで進出していくのをライブで読ませてもらった感じ。  また《渡来系の神や氏族に関する伝説の背景には、土地の占有をめぐって在地の人々

    • 『国家はなぜ存在するのか ヘーゲル「法哲学」入門』

      『国家はなぜ存在するのか ヘーゲル「法哲学」入門』大河内泰樹、NHK  ヘーゲルは1831年にコレラに罹ってあっけなく死ぬのですが、同時期にプロイセンはポーランド、ロシアとの戦争でクラウゼヴィッツ、グナイゼナウの2将軍もコレラで失っている、というあたりからの書きだしは「掴みはOK」という感じ。こんなところから医療ポリツァイについて説明し、ヘーゲルの法哲学と国家論に向かいます。  長谷川宏訳『法哲学講義』でも[C.社会政策と職能集団] Polizei(社会政策、警察)という

      • 『国家はなぜ存在するのか』の感想を書く前に『ヘーゲル 法哲学講義』を復習してみた

         『国家はなぜ存在するのか』大河内泰樹、NHKブックスは面白かったのですが、その感想を書く前に長谷川宏訳の『ヘーゲル 法哲学講義』作品社を復習してみました。  長谷川訳『法哲学講義』は609頁以降に収められている『法哲学要綱』の当該§を読み、だいたいの流れを掴んでから、『講義』部分を読むという感じで読み進めました。構成は序論、第一部「抽象的な正義(法)」、第二部「道徳」、第三部「共同体の倫理」の三部。第二部の最後に《最初に自由が対象となりました。つぎに、自由が形をとったもの

        • 「私を構成する100枚」を選ぶ準備

          いまもやっているBlogにSong Bookというのをつくり、ボーッとしているときに口ずさんだ曲をとり上げていたんですが、55曲ぐらいあったので、ポピュラー系はその曲の入っているアルバムから選んで、後はズージャとクラシックから選んでいこうかな、とか …………追加………………. Surge, illuminare Palestrina The Tallis Scholars : Live in Roma レコードからCDに音楽の媒体が移行して、一番、恩恵を受けたのはポリ

        『風土記』橋本雅之編、角川ソフィア文庫

        • 『国家はなぜ存在するのか ヘーゲル「法哲学」入門』

        • 『国家はなぜ存在するのか』の感想を書く前に『ヘーゲル 法哲学講義』を復習してみた

        • 「私を構成する100枚」を選ぶ準備

          「上田久美子の The 舞台の哲学──すべては宝塚からはじまった? 」

          昨日、ゲンロンカフェで行われた「上田久美子 聞き手=上田洋子 上田久美子の The 舞台の哲学──すべては宝塚からはじまった? 」最高でした。こんな感じのことをお話されていたと思います。 フリーの演出家になって、なんで皆さんやっていけるんだろうと思っていたが、実家が太いのが演劇界だと分かった。そういえば、昔の文学者も高等遊民みたいな人ばかり。 実家は奈良の柿農家(星逢の「せん」かよw) 京大出て東京でサラリーマン生活。配属されたのは人事部で、能力主義に基づく考課をやらされて

          「上田久美子の The 舞台の哲学──すべては宝塚からはじまった? 」

          『吾妻鏡 鎌倉幕府「正史」の虚実』薮本勝治

          『吾妻鏡 鎌倉幕府「正史」の虚実』薮本勝治、中公新書 著者が高校教師、しかも国語を教えているということに驚きました。 しかし、だからこそ、日本中世史研究から自由な立場を維持でき、原始『平家物語』などの資料の想定から、『吾妻鏡』は編年体という正史的な装いの中で軍記物的叙述を加えることによって、頼朝〜泰時〜時頼という正当性を印象付けた物語なのだという主張は本当に目からウロコ。 『吾妻鏡』と『平家物語』は類書にない共通の虚構や構造を持ち(以仁王の令旨など)、独特の表現も共有して

          『吾妻鏡 鎌倉幕府「正史」の虚実』薮本勝治

          『昭和16年夏の敗戦』猪瀬直樹

           朝テレビを付けたら、NHKのドラマでチラッと出ていたのは猪瀬直樹『昭和16年夏の敗戦』の話し?  猪瀬直樹は政治に近づきすぎたけど、ぼくは橋川文三の弟子だと思ってます。  読書ノートをパソコン通信やインターネットなどに上げる習慣をつける前に読んだ本なので、ドッグイヤーぐらいしか物理的な読書の爪痕は残っていないのが残念ですが、本の趣旨とは関係ないけど、こんなところも印象に残っています。これだけでも1冊書けそうなエピソードを、エピローグ 的に惜しげもなく投入する若き猪瀬直樹

          『昭和16年夏の敗戦』猪瀬直樹

          『13歳からの地政学カイゾクとの地球儀航海』田中孝幸

          『13歳からの地政学カイゾクとの地球儀航海』田中孝幸、東洋経済新報社  「地政学」は重要性が指摘されているにも関わらず、学術的な研究分野だとみなされていません。書籍でも学者が執筆したものは、非常に少なく、本書の著者もジャーナリスト。国際分野で活躍する新聞記者は地理学、政治学、国際政治学などを分野横断的に取り入れているために、向いているのかもしれません。ということで厳密な学問ではないかもしれませんが、頭の片隅に入れておけば、視点を増やすことができるわけで、ビジネス書グランプリ

          『13歳からの地政学カイゾクとの地球儀航海』田中孝幸

          『権記』藤原行成、倉本一宏(編)

          『権記』藤原行成、倉本一宏(編)角川ソフィア文庫ビギナーズ・クラシックス日本の古典  7/21放送の『光る君へ』でも出家した定子に対する貴族の反発については、なんでそこまで嫌うの?と思うほど描かれていましたが、剃髪して出家したら、神事を行えないという問題があったのか、と改めて理解できました。  行成は『権記』でも《中宮は正妃であるとはいっても、すでに出家されている。したがって神事を勤めない》(k.2579、kはkindle番号)と記しています。  また、同じく道長が『御

          『権記』藤原行成、倉本一宏(編)

          『小右記』藤原実資

          『小右記』藤原実資、倉本一宏(編)、角川ソフィア文庫 『御堂関白記」『紫式部日記』に続き、『小右記』も読めました。ほんと、この時代の日記が読めるって素晴らしい!ぼくみたいな勉強の足りない人間にも読んだ気にさせてもらえる角川ソフィア文庫のビギナーズ・クラシック、感謝です!ということで『権記』も読み始めているのですが、今の世も、当時も変わらないんだな、と思って安心できます。実資には友達になりたくなかったかもしれないけど、いや、マジで良かったです。  驚いたのは二点。  道長

          『小右記』藤原実資

          『時間はどこから来て、なぜ流れるのか?』

          『時間はどこから来て、なぜ流れるのか? 最新物理学が解く時空・宇宙・意識の「謎」』吉田伸夫、ブルーバックス  「時間は宇宙全域で一様に流れていない」ことは物理的にあきらかなのに、なぜ人間には過去から未来へと流れているように感じるのか?という問いかけに対して、それは宇宙全体のエントロピーがビッグバンから遠ざかる方向に増大している結果であり、人間の意識に由来するものだから、と説明してくれます。  時間も空間のように拡がりを持ち、宇宙は三次元空間に時間を加えた四次元時空という概

          『時間はどこから来て、なぜ流れるのか?』

          『一片冰心 谷垣禎一回顧録』

          『一片冰心 谷垣禎一回顧録』谷垣禎一、[聞き手]水内 茂幸、豊田 真由美(産経新聞、扶桑社BOOKS  印象的だったのは宏池会の先輩、加藤紘一に教えられた話しでしょうか。「いいか、谷垣。首相になるような大先輩に憧れるのもいいが、自分より少し当選回数が上の、立派だなと尊敬できる先輩を探すことも大事だ。政界では海千山千が出会って厳しいことも起こる。さあ、どう行動しようかと 迷ったときに、その少し上の先輩がどう行動するのか、 よく見ておくんだ。そういうのはすごく役に立つんだぞ」と

          『一片冰心 谷垣禎一回顧録』

          『紫式部日記』紫式部、角川ソフィア文庫

           『御堂関白日記』に続き、角川のビギナーズ・クラシックス(日本の古典)で読みました。  全2巻で1巻は記録的内容。2巻は手紙と女房たちへの批評を中心とした記録的内容の「消息文」と言われる内容となっています(文末には「ございます」にあたる「侍り」を多用)。このため、後半は日記部分が筆写される中で、書簡などがまぎれこんだのではないかという説もあるようで、なるほどな、と。  道長の要請で書かれたというのが定説のようで、あまり納得もいかないというか、よくわからないのですが、無知な

          『紫式部日記』紫式部、角川ソフィア文庫

          『御堂関白記 藤原道長の日記』繁田信一編、角川ソフィア文庫

           まさか『御堂関白記』をダイジェストにせよ読むことになろうとは思いませんでしたが、面白かったです。  書き始めの頃、道長しか宮中に参内せず、アタマ来て日記を半年も休んでしまう道長とか、犬が食った死体が内裏や寺社の軒下に転がり、そういった穢れにヤんになる道長とか、いきなり抱きしめてあげたくなる感じ。  正妻倫子の子である頼通を可愛がる道長も分かりやすいし*1、一条天皇の中宮となった彰子の無事出産を祈願するための金峰山詣は往復十数日をかけてしっかり歩いて完遂するのですが、お礼

          『御堂関白記 藤原道長の日記』繁田信一編、角川ソフィア文庫

          『源氏物語を読む』高木和子

          『源氏物語を読む』高木和子、岩波新書  『源氏物語』は与謝野晶子訳で桐壺と若紫、若菜ぐらいしかまともに読んだこともないので、全体の流れみたいなのを知るためにAudible版で「聴いて」みました。  厳密にはどうかわからいのですが、なんかレヴィ=ストロースの交叉いとこ婚のような関係性の中で不義が繰り返される構造、光源氏の皇統が続かない仕掛け、サイドストーリーの玉鬘十帖とエピローグである宇治十帖の役割、コメディリリーフのような末摘花、夕顔、六条御息所など怨霊の通奏低音などがよ

          『源氏物語を読む』高木和子

          追悼、ポール・オースター

          あまり小説は読まない方なんですが、ポール・オースターは結構、読みました。数年前に蔵書を1/3にした時も整理できませんでしたね。 「アメリカ文学史上初めて現れたエレガントな前衛」というのが日経の追悼記事に載っていましたが、なるほどな、と。朝日に載った柴田元幸さんの追悼文の中では「老いを喪失でなく新たな可能性模索の機と捉える姿勢」という言葉も印象的でした。 オースターの中で好きな作品を、多くの方と多分違う方向から選ぶとすれば『トゥルー・ストーリーズ』と『ナショナル・ストーリー

          追悼、ポール・オースター