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少しだけ背伸びをする人生

中学生か高校生くらいの時にぼんやりと思い描いていた夢は、ハイヒールを履いて颯爽と歩く女性になることだった。成し遂げたいことや、なりたい職業なんてなかったのに、なぜかそんな女性の姿だけが憧れとして頭の中にあった。

それが理由かは分からないけど、いつも少しだけ背伸びをする人生を歩んでいる気がする。

受験の時の志望校は自分の実力より少し頑張らないといけないレベルにしたし、ファッションやメイクはその時の自分にフィットするものよりも、少しだけ先の未来に「こういう自分でありたい」という憧れで選んでいた。

友人たちからすると、そんな私の姿は格好つけているように見えるらしく、「いつも頑張ってて疲れそう」と冷ややかに言われることもあった。

だけど、少し背伸びした先に見える世界は、きっと今の自分よりキラキラしているはずで、背伸びをして手を伸ばして、そのキラキラを掴みたい!という気持ちはどうしても止まらず、気付けばいつも少しだけ背伸びをしているのだった。


背伸びアイテムとして象徴的なのがハイヒール。履いた姿はまさに背伸びで、いつかハイヒールを履いて仕事をする準備をするがごとく、中学生のころから学校に行かない時は、5㎝以上のヒールを好んで履いていた。つま先は痛くなるし、長時間履くと足はむくむし、おまけによく足を挫いた。もともとあった内股の癖も、不安定なハイヒールのせいでひどくなった気がする。だけど、漠然とした、でも確固たる憧れの姿のために、ネガティブなことを一切気にせずハイヒールを履き続けた。

ハイヒールのつま先と踵と地面が作り出す三角形の中に、きっと私の努力の結晶が詰まっていて、そこからキラキラしたものが生まれて、私のことを今よりもっと輝かせてくれるはずだと思っていた。


そんな憧れから数年がたち、私は社会人になった。リクルートスーツを着る期間が終わったら、早速憧れのピンヒールを履いて営業活動に勤しんでいたものの、最寄駅から会社まで15分歩かなければいかない環境のせいで、ピンヒールどころか、踵が高い靴を嫌悪するようになってしまった。最近はスニーカーで通勤することも厭わなくなっている。

足は痛くならないし、足首を痛めることもないし長時間歩いても疲れにくいから、ダイエットを兼ねて1駅分歩いたりなんかして、スニーカー生活は非常に快適だ。

だけど今、ふと思った。私は最近背伸びをしただろうか。

仕事にも、職場の人間関係にも慣れて、自分らしく働くスキルは身に着いた気がする。数多の失敗を乗り越えたことで、年を重ねるにつれて、少しずつ自分のことを許容できるようにもなってきた。けれど、「今よりもっといい自分になりたい」という非常に抽象的な憧れを目指して、何かを必死に追いかけたこと、最近あっただろうか。


来月、私は30歳になる。30代、その先の40代、どんな自分になっていたいか、まだ目標を立てられていない。そろそろハイヒールを履いて、少し背伸びをしなくてはいけない時期なのかもしれない。

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