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UC Berkeley Business Schoolからの手紙⑨(パフォーマンスマネジメントの原則)

No rating」という言葉をどこかで聞いたことはありますでしょうか?2017年頃よりシリコンバレーの多くのIT企業が新しい評価制度の考え方として打ち出している考え方です。

その背景にはいくつかあるといわれていますが、

・48%の経営者は、自社の評価プロセスは人材育成及び業績向上の点で不十分と感じている(Deloitte調査より)
・66%の従業員は、評価プロセスは自身の生産性向上につながっておらず煩わしいと感じている(CEB調査より)
・71%の組織は、評価プロセスは改善、さらには改革が必要であると感じている(Brandon Hall調査より)


との課題感から、「相対評価によるモチベーションの低下、業務と目標の整合性の向上」を目的に絶対評価で成果に対して評価していきましょう、というものです。この考え方は、いわゆるパフォーマンスマネジメントの一つで、OKRのような目標管理制度とともに、評価・報酬制度も時代とともに変化しています。

HRとして組織や人のパフォーマンスを良くしていくために、どんな仕組みや仕掛けが必要か。

今回は、パフォーマンスマネジメントについて書いていきたいと思います。

1. パフォーマンス評価とパフォーマンスマネジメントの違い

(1) パフォーマンス評価(Performance Assessment)
信頼でき妥当である評価ツールを用いて、従業員の業績を評価するプロセス

(2) パフォーマンスマネジメント(Performance Management)
従業員の業績に関して収集された情報を使用して業績の改善方法を決定し、業績向上計画を実行するプロセス

上記から、パフォーマンス評価とは言葉の通り“評価場面”にフォーカスした取り組みであり、パフォーマンスマネジメントとは“評価を通じて業績を改善・向上させていく全体的なプロセス”を指しています。従って、パフォーマンスマネジメントの方がテーマとしては大きく、難易度も高いという事をご理解いただければと思います。

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2. 効果的なパフォーマンスマネジメントの原則

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効果的なパフォーマンスマネジメントには、正確なパフォーマンス測定が不可欠である
正確なパフォーマンスの測定は、評価者の「能力」と「意志」に依存する。フォーマット、データ、文化、報酬、人々など、適切な評価を”不適切”にしてしまう要因がいくつかあることを理解しておく。
「測定したもの」が「得られた情報」であり、それ以上の評価要素は得られない(情報収集しなければ評価はできない、という意味)
測定していないことを望むことはできない(結果が良すぎると、粗探しをする、または結果が悪すぎると良い点を探す。人は何かで置き換えようとする心理が働く
 従業員は正確な測定と有益なパフォーマンスマネジメントを欲している(これは情緒的な反応ではなく、長期的な振り返りがされたときに気づくかも)
 意味のあるプロセスだからこそ、効果的なパフォーマンス評価とマネジメントを実現するためには「時間と労力」を要する(意味のある仕組み=何か意味を失う仕組み)
 正確なパフォーマンス評価は、評価者と従業員の間に「合意」をもたらす
「合意」は評価の「受諾(納得感)」につながる
評価を受け入れる(受諾する)ことで、適切な業績向上の道が開かれる
(A:「できないこと」、B:「やらないこと」を区別できる)

如何でしょうか。評価者と被評価者間での「合意」が「受諾(納得感)」につながり、被評価者のパフォーマンス改善につながるという一連の流れは、どのようなシステム・制度を導入するにせよ大事な考え方だと思います。当然ながら、全社員が良い評価を得るわけではありません。ただし、採用市場が競争的になった場合は、評価を通じてDemotivateされる社員を減らし、リテンションを強化していく必要があります

だからこそ、従来の仕組みである「10人の中で最も高い評価を得る社員は最大2名」というような相対評価(従来の評価方法)ではなく、「10名の中、10名のパフォーマンスが素晴らしく良かった場合は、全員最高評価を得る(No Rating)」というような絶対評価の仕組みが注目されているのだと思います。

3. パフォーマンスマネジメントのゴール

それでは、パフォーマンスマネジメントを通じて目指すべき具体的なゴールについて触れていきましょう。

 マネージャーと従業員の間で評価されたパフォーマンスの高低に対して、その結果と基準に相互的な理解を持っていること(なぜAと評価したのか、評価されたのか、が理解できる)
 マネージャーと従業員の間で個々人がどのように活動していたかに対して、相互的な理解を持っていること(被評価者はXXを行っていた、という事を伝えており、評価者はそれを知っている)
 パフォーマンス差別要因とその違いが、成果に対してどのように効果的に働いているかを知る事(AAという行動が成果に紐づいており、BBは成果に紐づいていない)
 時間の経過とともに個々人の進捗を知る事(1カ月目ではXXで、3カ月目ではYYだったことを理解している)
 パフォーマンス改善に対して表彰し、強化促進する事(●期間でXXという改善は素晴らしい。今の取り組みを続けてください)

如何でしょうか。上記の状態を実現できていれば「合意」、「受諾(納得)」、「パフォーマンス改善」が見えてくるはずです。MBO型、KPI型、OKR型など、様々な組織がありますが上記の原則を実現するという事を目指す、というのが大事なポイントです。

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4. 正しいパフォーマンスマネジメントできているか、のチェックリスト

「パフォーマンスとは何か」を定義している(ハイパフォーマーとローパフォーマーを区別・比較し、●が100点をハイパフォーマー、●が50点をローパフォーマーとしている)※●は具体的かつ行動ベースで、観察可能なものである
パフォーマンス評価プロセスへ戦略的な目標を導入している(一貫性がある)
明確かつ曖昧でないパフォーマンスレベル基準を設定している -(レベル1は...、レベル2は...)
期初に従業員と業績基準(何を評価するか、どのように評価するか)を共有している
定期的にパフォーマンスデータをサンプリングしている
複数の方法および複数のソースからのパフォーマンスデータの収集している(360度評価、顧客からの直接的な評価、複数人の評価など)
 パフォーマンスをきちんと測れるパフォーマンス評価プロセスと仕組みを構築している
パフォーマンスデータの信頼性、有効性、公平性を検証している(評価エラーを回避する)

上記のチェックリストを使いながら自社の評価・報酬制度を振り返り、改善アクションの参考材料として使って頂ければ幸いです。

5. 評価者トレーニングが必要な理由

正当な評価を行うために2つのハードル、「能力」と「意志」が存在します。だからこそ、評価者に対してはきちんとした訓練が必要であり、内製化をするにしても以下の2点を注意してフォローしていただく必要があるのです。」が存在します。だからこそ、評価者に対してはきちんとした訓練が必要であり、内製化をするにしても以下の2点を注意してフォローしていただく必要があるのです。

能力(Ability)の問題(評価者に多くのバイアスが存在し、好き・嫌いなどが評価に影響している)
意志(Willingness)の問題(紛争を避けたい e.g, 中間評価をつけたい)

能力的な側面では、社内に社員から高い満足度を得ている専門家(管理職)を探し、その方からどんなマインドでどんなプロセスでどんなことに注意しながら評価をつけているのかをヒアリングしましょう。

そして、意志の側面では、評価者は断固たる決意を持つ必要があります。Up or Outなどの文化で知られるアメリカでも、人を解雇することは本当につらい、と多くの起業家が言っていました。人事としては、そういった意味で評価者に強い気持ちを持ってもらうことを支援できたらいいのではないでしょうか。

最後まで読んで頂きありがとうございました!

私は誰?

著者:松澤 勝充

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神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。企業向けの採用支援・組織開発支援、総合商社で2年半採用経験を経て、2017年より、執行役員として組織ソリューション本部、広報マーケティンググループ、自社採用責任者を兼務。2018年8月より休職し、Haas School of Business, UC Berkeleyがプログラム提供するBerkeley Hass Global Access ProgramにJoinし2019年5月修了。同年、MIT Online Executive Course “AI: Implications for Business Strategies”修了。卒業後、シリコンバレーのIT企業でAIプロジェクトへ従事。2019年12月(株)トライアンフへ帰任し執行役員を務め、2020年4月1日に株式会社Everyを創業。

保有資格:DiSC認定トレーナー、ピープル・アナリティクス(authorized by the University of Pennsylvania)、ポジティブ・サイコロジー・ワークショップ(Japan Positive Psychology Institute)、他

お問い合わせ先:contact@every-co.com

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