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“City Light”の話

FLOW DHU Product011 City Light が公開されてかなりの時間が経ってしまいました。毎回きちんと自分の意見をまとめて公開するようにしているのに自分としてはとんだ失態です。
デジタルハリウッド株式会社のほうから出していただいたプレスリリースに自分でコメントを出していたので、それで満足してしまっていました。

データを使った作品を作ってみたいという話は、FLOW DHUが出てすぐのころからクマガイさんとお話をしていました。それと同時に自分の中で数ある作業用BGMの動画に作業をしている人が描かれていることに疑問を持つようになりました。ChatGPTや画像生成AIなどが身近になるにつれヒトガタではないパートナーが身近になり、ヒトが登場しない作品を作ってみたいと思い相談したのが制作のきっかけです。

チームメンバー全員で役職関係なく議論を重ね、利用するAPIはデジタルハリウッドに縁がある場所やその場所にあるライブカメラの視聴者数などを用いて映像に変化が起きる作品となっています。FLOW DHUのほかの作品の視聴者数も動画に反映されるので他の動画も含めて作業のお供にお楽しみいただければと思います。

▽プレスリリース

ということでコメントは出させていただいたのですが、この作品の制作に至った経緯と、最近考えていることなどをつらつらと書いていきます。

制作のきっかけ

誰かの存在は何をもって感じるのか

FLOW DHUには最初の作品で楽曲の選定をさせていただいたところから参加させていただいており、チャンネルアートも弊社で制作させていただきました。様々な企画を池谷さんや茂出木さんが形にして、いろいろなクリエイターさんと作品作りをしてくださっている中で、「作業のお供」という言い回しがなされるようになったわけですが、では「お供」をしてくれる存在ってなんなんだろう?と考えたのが作品を作りたいと思ったきっかけです。

SFプロトタイピングという言葉があるように創作物の中では実現しうる未来の姿を想像した世界が展開されていますが、AIがパートナーになった未来では「相棒」としての形があるものはヒトガタをしていることが多く、「助手」としての形は無形の場合も見られました。

ヒトガタじゃなきゃだめ??

DHGS(デジタルハリウッド大学大学院)の藤井先生や草原先生の講義で人工生命という存在を知った私は、人工生命が人間をどうとらえるのかということに興味があり、受講していたころに公開されたトイストーリー4を見ながら考え込んでいました。

人工生命側は、人に作られたものだから、人のことをパートーナーとは思わないかもしれない

なんでトイストーリー4なんだよって話ですが、フォーキーの存在がでかいです。ネタバレにならない、公式サイトにあるような範囲で言うと、おもちゃが動く世界で、ごみから作られたフォーキーは自分のことはごみであると認識しているためおもちゃではないと主張する。という設定があり、それを見た私が、人工生命は自分を「生命」としてはとらえない可能性があるとかんがえていたからです。形や生まれ方は考え方に大きく影響を与えるものであり、人間はヒトガタのものにだと共感しやすいのかもしれないなと、人工生命について考える時に頭に浮かんでいました。

話は作品に戻りますが、多くの作業用BGM配信がLofi Girlを踏襲した「誰かが作業している様子」を放送しています。FLOW DHUも例にもれずその形式ではじまりました。アニメーション、実写と試してみて、確かに誰かがそばにいると感じる感覚がありました。でも私の中には人の影ではないものから誰かの存在を感じることができないか、そんな表現をしてみたいという気持ちがあり、池谷さんにデータを用いた作品を制作するにあたり、人が画面内に描写されていないけど何かの存在を感じる作品を作りたいと提案したことが制作開始のきっかけでした。

制作中の企画骨子の変化

誰かの存在を感じさせる人以外の何かについての議論

人を出さないで、誰かの存在を感じさせたい!とかいうめちゃめちゃな企画に、おもろそうと乗っかってくれた素晴らしいアーティストのみなさまと一緒に議論をはじめて、それぞれがそれぞれの見解を述べて…「光」というのは表現としてあるんじゃないかという話になっていって…
アートディレクターをつとめてくれた松本くんが「ビルの光」というワードをくれて、そこからどんどん話が膨らんでいって…
残業中に他のビルの明かりを見ると「あそこにも深夜族がいる」となった記憶あるよね!あれは誰かを感じさせるよね!と
制作メンバーはデジタルハリウッド大学に縁のある人で構成されていて、夜のソラシティを出たときのまばらなオフィスの光を目にした記憶のある人たちでした。コロナ以前は会社に残って残業することも多かったクリエイティブ業界ですが、リモートワークが可能になってからはそれぞれが家で孤独に深夜作業をしていることもしばしば。そんな時に思い出せる「ほかのビルに誰かが居る空気」を表現するのが良いと、満場一致で決まりました

さらっとまとめましたが、クリエイティブディレクターもテクニカルアーティストも全員で企画の根っこについて話す尊い時間だったと思います。
役職も年齢も先輩後輩も、何も関係なくただ「良いものを作りたい」と話し合う時間が私は大好きで、だからハリウッドスタイルの働き方が肌に合っていると感じるんだなと…再確認させていただきました。

技術も実はすごい

実写の動画のディレクションや制作全体のクリエイティブディレクションが得意分野なので、中身の制作はアートチームとテックチームがなんとかしてくれました。
アートチームがどんなものを中に置くか、3DCGを用いて調整してくれて、テックチームはAPIから取得したデータを元にビルの光が変わるシステムを開発してくれました。Unreal EngineとTouch Designerを使っています。
開発環境から配信環境への移行が大変でしたが、タケさんと茂出木さんが実装までもっていってくれました。開発の中心は今井くん、中身の動画におむらいちゃんが参加してくれており、みんなの力で完成したと思っています。
本当にありがとうございました。

表現したかったコト

「一人だけど独りじゃない世界で暮らしたい」

最近の私のキーワードになってきている気がします。
場所にとらわれずに働ける世界で、一人暮らしをしているとどうしても直接誰とも話さない日というのが生まれてしまうから、孤独を感じてしまう若い世代も多いです。そんな世界で、長期間会わなくても、いつか会うかもしれない人とSNSで「いいね」だけの交流をしたり、ちょっとしたことをシェアしあったり、仲間の存在を感じることとかそういったオンライン上のあたたかみを意識していけたらいいなと思っています。
今回の作品は、いろんな場所の「人」にまつわるデータから窓の光が変わるようになっています。画面の前で頑張る人に誰かの存在が届きますように、独りじゃないと伝わりますように。

とまあ、そんな尊いクリエイティブ、すでに公開されてるのでぜひ作業のお供にお使いください。


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