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日之下あかめ『河畔の街のセリーヌ』:パリの街を歩き、人々の営みを見つめる少女の旅

日之下あかめの漫画『河畔の街のセリーヌ』がMAGCOMIで2022年1月から連載されています。舞台は都市改造が進んだ1870年代のパリ、主人公はルーアン近郊の村からやってきた少女「セリーヌ・フランソワ」です。「職業探訪」というテーマで、パリに住む人々の生活や思いが描かれます。

セリーヌは偶然知り合った紳士「ルネ・フォンティーヌ」に雇われます。彼女に与えられた仕事は、さまざまな職に就く人々の仕事を手伝い、その体験を彼に伝えることです。セリーヌが見た街や住人の姿は、時として彼女の記憶や思考と絡み合い、価値観を揺さぶります。そうした場面を印象的に描いているのが、第3話で「マリアンヌ・バロワン」と百貨店内を巡りながら交わした会話です。概してセリーヌの感情表現は豊かとはいえませんが、だからこそというべきか、わずかな表情の変化が心の動きを雄弁に語ります。

多様な仕事を介して人々の営みに触れ、パリの街を見る――そんなセリーヌの姿は、どこか旅のように思えました。前作『エーゲ海を渡る花たち』のような、海を渡り新たな街を目指すダイナミックな旅とは異なります。けれども、セリーヌが未知の世界を次々と体験する様子は、やはり旅という言葉が似合うのではないでしょうか。

ちなみに、英語の “travel”(旅)と仏語の “travail”(仕事、働く)は語源を同じくします。本作と関係するわけではありませんが、僕のなかでセリーヌの物語を一際豊かにしてくれた、密かなミッシング・リンクです。


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