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日之下あかめ『河畔の街のセリーヌ』:パリの片隅で重なる縁、混淆する少女の記憶と体験

さまざまな職業の人々と出会い、仕事を手伝うひとりの少女。新たな出会いが生んだ心の動きは、やがて自らの言葉を綴るための糧となります。

日之下あかめの漫画『河畔の街のセリーヌ』の第2巻が刊行されました。1870年代のフランスを生きるセリーヌ・フランソワという少女の物語です。ルーアン近郊の村から出てきたセリーヌは、1850年代に始まった大改造によって近代的な都市に生まれ変わったパリで、数々の仕事を体験する日々を送ります。

あまり動かない表情の下で、セリーヌはいくつもの言葉を紡ぎ、体験を記憶に残します。人々の仕事を通して見たもの、聴いたもの、触れたもの。人々の営みに接して感じたこと、考えたこと、言葉にできなかったこと。新たな出会いに心を揺さぶられ、時には影響を与える側となり、少しずつ表情を変化させるセリーヌの姿が描かれます。

第2巻には第6話から第10話までが収録されています。どのエピソードも印象的ですが、特に好きなのは第9話です。パリで知り合ったエミリーたち(第1話に登場)と休日を過ごすセリーヌは、立ち寄った公園でマリアンヌ(第3話に登場)と再会し、彼女の実家に皆で遊びに行きます。都会の喧噪から離れた自然のなかで感じたのは、吹き抜ける風、土の感触、川の水の冷たさ。多様で複雑な人間模様を次々と目の当たりにして失いそうになった感覚を引き寄せながら、パリでの日常に戻ります。

そして物語は続きます。パリで得た縁は別の縁と重なり、次の世界のドアを開けます。書店でセリーヌが驚きと戸惑いの表情を見せた第10話。見たことのない光景と体験したことのない感情に出会う次回への橋渡しとなって、セリーヌの背中を押します。


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