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Some words for someone

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言葉にフォーカスしたnoteや印象的な言葉を含むnoteをまとめます。
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記事一覧

𠮷岡桂子『鉄道と愛国』:歴史の結節点をつなぎ、人々の思惑を運ぶレールウェイ

離れた土地をつなぎ、人や物を運ぶ鉄道。否応なしに人々の生活と深い関わりを持ち、歴史的にも随所で重要な役割を演じてきました。線路の敷設や鉄道輸送が意味するものは、過去も現在も、そして未来にとっても決して小さくありません。 撮り鉄でも乗り鉄でもない自分が鉄道に興味を抱いたきっかけは、朝日新聞記者の𠮷岡桂子が著した『鉄道と愛国 中国・アジア3万キロを列車で旅して考えた』です。本書の前半は、中国における高速鉄道建設の流れをまとめています。日本が目論んだ新幹線の輸出、フランス、ドイツ

Ina Yalof『FOOD and the CITY』:食べることを支える人々が語ること、思い出すもの

アイナ・イエロフ(Ina Yalof) という調査報道ジャーナリストでありノンフィクション作家の著書『NYの「食べる」を支える人々』(訳:石原薫、原題:FOOD and the CITY: New York’s Professional Chefs, Restaurateurs, Line Cooks, Street Vendors, and Purveyors Talk About What They Do and Why They Do It.)には、食に関する仕事に就く

木村俊介『物語論』で綴られた言葉に触発され、伊坂幸太郎『重力ピエロ』のページを再び繰る

作家が何を考えて物語を生み出しているか、その一端に触れるのは読者の楽しみのひとつです。自分の仕事について作家が語る内容は、その世界を知らない人間からすれば、それだけでも充分に魅力的です。しかし、新刊を紹介するインタビュー記事は宣伝の色が強いものです。作品を届けるために必要な工程だということは理解できますが、果たして肉声と呼べるのか、作家の奥底に秘められたものを引き出しているのか。 そうした文章からは距離をおいた、物語を生み出すプロセス、物語が生まれる機構にフォーカスしたイン

Andrew Tarlow:「食べること」を軸にして、人々の生活に漂う点と点を丁寧に結ぶ

Andrew Tarlow(アンドリュー・ターロウ)という実業家のインタビューがPERISCOPEのWeb版に掲載されました(サイトは閉鎖)。Andrewはブルックリンでレストラン「DINER」を開き、さらに食料品店やベーカリーなどの経営も手がけています。「食べること」を軸にして、店を訪れる客とともに、それぞれの生活に漂う点を丁寧に結びます。 インタビューのリードでは、彼のスタイルを「食を通じて、食材がどこからやってきて、どう使われるべきか、自分のビジネスを通じて提案してい

高野 雀 – あたらしいひふ

高野雀さんの「あたらしいひふ」は、2013年頃に同人誌に掲載された漫画です。2015年に『さよならガールフレンド』の特設サイトで「あたらしいひふ」が全編公開され、僕はそこで読みました。現在は半分ほどが同じサイトで公開されています。 この度、「あたらしいひふ」を表題作とし、同じように同人誌で発表されていた作品を集めた単行本が刊行されました。「あたらしいひふ」を含めてほとんどの作品で絵が描きなおされ、台詞も一部修正されています。単行本として改めて読んでみて、そして2年前に書いた

TM NETWORK「TIMEMACHINE」:三人の音楽と物語を記録し、人々の記憶をつなぐ

1984年のデビュー前にTM NETWORKが制作した「TIMEMACHINE」は、ライブ盤やビデオには演奏が残っているものの、シングルにもアルバムにも収録されなかった珍しい曲です。しかし歴史は変わります。2023年に「TIMEMACHINE」のスタジオ録音が実現し、アルバム『DEVOTION』に収められました。 音が際立たせるのはメロディか、言葉か、歌か。「TIMEMACHINE」は、木根さんのメロディに小室さんが詞をのせ、ウツが歌うバラードです。木根さんらしい優しさのあ

TM NETWORK「COME ON LET’S DANCE」:FUNKのサウンドとPUNKの精神性を掲げ、FANSを誘い導くダンス・ミュージック

1986年のTM NETWORKはファンキーなサウンドを掲げて、従来のスタイルとは異なる音楽表現を目指しました。このときに考案されたキーワードがFANKSです。FUNK、PUNK、FANSをミックスさせた造語であり、元来は音楽的なコンセプトを示す言葉でした。いつからかTM NETWORKのファンを表わす言葉となり、その呼称は現在でも使われています。 FANKSを体現した曲のなかで、おそらく最も多くその要素が注入された曲が「COME ON LET’S DANCE」です。スピー

TM NETWORK『TM NETWORK TOUR 2022 “FANKS intelligence Days” at PIA ARENA MM』:2021の再起動をアップデート、2022の記憶を収集したintelligence Days

TM NETWORKは2021年の〈TM NETWORK How Do You Crash It?〉で再起動すると、2022年に次のプログラムを起動させます。それは新曲「Please Heal The World」の公開と〈TM NETWORK TOUR 2022 FANKS intelligence Days〉の実施です。そして2022年の総括として、ツアーの最終公演を収録した『TM NETWORK TOUR 2022 “FANKS intelligence Days” a

TM NETWORK「HUMAN SYSTEM」:重なるメロディが人々のつながりを象徴する

TM NETWORKの「HUMAN SYSTEM」はメロディの美しさが際立つミディアム・テンポの曲であり、1987年にリリースされたアルバム『humansystem』の表題曲です。ウツの歌声が届ける歌メロも、ピアノやギターが奏でるメロディも心に残ります。小室さんは「歌のうしろにいくつものメロディが独立して動いていて、それが最後に一緒に出てくる仕掛け」(『キーボード・ランド』1987年12月号)と解説しました。多彩なメロディが重なって層を作り、心地よい空気で僕らを包んでくれます

小室哲哉はソフト・シンセの中に冨田勲の偉大さを見る(朝日新聞デジタル 小室哲哉インタビュー)

音楽家の冨田勲が亡くなったのは2016年5月5日。その後、小室哲哉のインタビューが朝日新聞デジタルで配信されました。冨田さんとの対談で交わした会話を含め、その音楽に思いを馳せています。媒体が新聞だからか、音楽誌やTM NETWORKの企画とは趣の異なるインタビューです。 小室さんの言葉がピュアに、そしてストレートに響きます。小室さんは冨田さんを「先生」と呼んでいますが、2014年の対談では、二人の関係はまさに教師と生徒を思わせました。あまり多くを教えない、けれども尊敬される

木根尚登『進・電気じかけの予言者たち』:2013年の出来事を物語る「結成30年目にして、僕らは初めて3人だけの握手を交わした」という言葉

『電気じかけの予言者たち』とは、主にTM NETWORKについて木根さんが書くエッセイのシリーズです。TMNが終了した1994年に始まり、最初は、1983年の結成から1984年のデビュー前夜に至る出来事を綴りました。以来、TM NETWORKの活動再開に合わせて続編が刊行されました。『進・電気じかけの予言者たち』では、2013~2014年におけるTM NETWORKの活動について書かれています。 TM NETWORKは2012年3月に活動を再開し、2015年3月で区切りをつ

Black Coffee「10 Missed Calls [feat. Pharrell Williams and Jozzy]」:身体に染み込むサウンド、心に絡みつくエレガントな歌声

Black Coffee(南アフリカ出身のDJ/producer)の音楽を聴いて浮かぶのは「音が身体に染み込む」というイメージです。血液の流れに乗って酸素が身体の隅々まで届けられるように、音が自分のなかに浸透します。 僕が初めて聴いたBlack Coffeeの曲は、David Guettaと共作した「Drive」です。静かに響くエレクトロニック・サウンドに惹かれました。分厚くヘビーな音が渦巻くEDMシーンにおいて、静謐さを感じるBlack Coffeeのハウス・ミュージック

TM NETWORK「Please Heal The World」:バトンは宇宙から世界に投げ込まれ、人々の間を巡って新たな謎と鍵を届ける

看板にNFTという文字が光る店で、バトンと引き換えに少女が受け取ったのは三つのチェスの駒――。TM NETWORKのBlu-ray『TM NETWORK How Do You Crash It?』の最後に流れたシーンで、三つのピースは何を意味するのかという謎が提示されました。ところが、リリースのわずか一週間後、新しい曲の存在を示していたことが明かされます。「Please Heal The World」と題した新曲がLINE NFTで販売されました。 物憂げなピアノの響きで始

TM NETWORK『TM NETWORK How Do You Crash It?』:再起動した音楽と映像のエンターテインメント、次の物語を示唆するバトンと三つのピース

TM NETWORKの配信ライブ「How Do You Crash It?」シリーズを一枚のBlu-rayにまとめた『TM NETWORK How Do You Crash It?』がリリースされました。再起動にあたって制作された新曲、TM NETWORKのライブに欠かせない曲、久々に演奏された曲がセット・リストに名を連ねます。曲の間には、ひとりの少女とTM NETWORKの三人が登場するドラマ風の映像が挿入され、いくつかの興味深いヒントやキーワードが提示されました。 「H