見出し画像

TM NETWORK「TIMEMACHINE」:三人の音楽と物語を記録し、人々の記憶をつなぐ

1984年のデビュー前にTM NETWORKが制作した「TIMEMACHINE」は、ライブ盤やビデオには演奏が残っているものの、シングルにもアルバムにも収録されなかった珍しい曲です。しかし歴史は変わります。2023年に「TIMEMACHINE」のスタジオ録音が実現し、アルバム『DEVOTION』に収められました。

音が際立たせるのはメロディか、言葉か、歌か。「TIMEMACHINE」は、木根さんのメロディに小室さんが詞をのせ、ウツが歌うバラードです。木根さんらしい優しさのあふれるメロディ、小室さんが綴る叙情的なストーリー、それらを表現するウツの歌声。三人が描くトライアングルを感じ、その音楽世界を楽しめる曲です。

A quote from the interview with Tetsuya Komuro

厳選された音が、曲の持つ優しさを聴き手に届けます。木根さんがアコースティック・ギターを弾き、小室さんがシンセサイザーを重ねたバックトラックは、過去のライブで披露されたどの演奏とも異なるサウンドを生み出しました。レコーディングにあたり、この曲が持つ1980年代の雰囲気と今の曲とのバランスをとるのに苦労したものの、Moog Minimoog Model Dを弾いてみたところ、うまく馴染んだとのことです [1]。確かに40年前の曲を聴いているとは思えません。

小室さんはRobert A. Heinleinの小説『The Door into Summer』(邦題:夏への扉)に影響されて詞を書いたそうです [1]。その内容は「過去と未来を往き来している状態を現在の視点から捉えようとしている」もので、♪僕らだけは 目隠しさせておくれ♪という言葉に「現在から想像できる未来は未来じゃなくて現実だから、その現実を知ると夢を持つことができなくなるから、想像できる未来を隠してくれ」という意味を込めたと2001年に語りました [2]。

A quote from the interview with Tetsuya Komuro

多くの人の記憶に残るのが、1994年の〈TMN 4001 DAYS GROOVE〉です。観客は「TIMEMACHINE」の演奏風景を三人に関する最後の記憶として刻んだのではないでしょうか。当時としてはグループの活動にピリオドを打つライブでした。人によっては今もその記憶が絡みつきますが、小室さんが「僕ら3人としては、すごく意識しているという曲ではない」と語るように [1]、我々も過剰に縛られる必要はないのでしょう。

TMN終了に結びつく曲のひとつですが、届けるのは別れだけではありません。1999年の再始動後も三人は「TIMEMACHINE」を演奏します。曲名の通り時を旅して、今に続くTM NETWORKストーリーの各所に姿を見せてきました。タイムマシンは記録を続け、人々の記憶をつなぎます。

出典
[1]『Sound & Recording Magazine』2023年8月号(リットーミュージック)
[2]『TM NETWORK TOUR Major Turn-Round SECOND IMPRESSION』(Rojam Entertainment Limited)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?