『100年の難問はなぜ解けたのか』ポアンカレ予想とペレリマン
数学ドキュメンタリーの良書。元々はNHKで放送された映像作品です。
世紀の難問ポアンカレ予想。宇宙の形を特定するための鍵でもあるこの難題が、2006年に証明されました。
しかし証明を達成したロシア人数学者ペレリマンは、フィールズ賞の受賞を拒否し表舞台から姿を消してしまう。彼はいったい何者なのか?
この分野(トポロジーやポアンカレ予想)に入門するのにうってつけの本。僕はこのあと、ペレリマンの伝記『完全なる証明』(文春文庫)→ドナル・オシア『ポアンカレ予想』(新潮文庫)と読み進めていく予定です。
ポアンカレ予想とは何か?
日常的な言葉で表現すると、「長いロープをもって宇宙一周旅行に出かけ、やがて元の場所に戻ってくる。ロープを手繰り寄せたとき、そのロープはちゃんと回収できるか?それともどこかに引っかかってしまうか?もしロープを回収できるのなら、宇宙の形は丸いといえる」、というもの。
トポロジーと呼ばれる分野を代表する難問だったのですが、ペレリマンはこれを、微分幾何学や熱力学といった多方面の知識を動員することで解き明かします。
印象的だったところをピックアップ。
・ポアンカレは直感派だった。論理は着想を秩序立てる道具にすぎず、むしろ論理によって自由な着想が妨げられることもあると考えていた。このため、数学を論理学の一部へと回収しようとこころみたラッセルやフレーゲと対立した。
・従来の幾何学は固い鉄でできている。トポロジーは伸び縮みするゴムでできている。
・素粒子物理学の超ひも理論は。ホモトピー代数と呼ばれるトポロジーの概念を取り入れて発展した。
・スティーブン・スメールは高次元の宇宙にポアンカレ予想を適用した。そこでなら問題が解ける。そこから次元を降ろしていって、われわれの宇宙のポアンカレ予想を解こうというアプローチ。
数学者のいう高次元というのは、単に数式をいじっているだけです。別にわれわれと異なる直観をもち、高次元を見ているわけではない。本書の著者はそこを勘違いしています。
・ウィリアム・サーストンの幾何化予想。宇宙がどんな形であっても、それは最大で8種類の断片から成り立っている。
ペレリマンはポアンカレ予想を解くのと同時に、このサーストンの予想も証明しています。
・数学者はアイデア提起型と問題解決型の2種類にわけられる。両方を兼ねる数学者は少ない。ポアンカレは前者。
・ブルース・クライナーによると、ペレリマンは「棒高跳びと100メートル競争、走り幅跳びと砲丸投げ、それらすべての種目で金メダルを取れる陸上選手のようなもの」
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