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King Gnu井口理はバンドマンである

『井口理のオールナイトニッポンZERO』が今期で放送終了する。
2月27日の放送で発表された。

今や国民的人気を博したロックバンド・King Gnuのボーカル・キーボードを担当する井口理さんがパーソナリティを務めるニッポン放送の深夜番組。
終了に際しての井口さんの今の心境や本心を聞いて、それらの言葉が純粋に刺さった。
本人から聞けて良かった、と思った。
同時に、番組が終わってしまう前に、2020年が過ぎて行く前に、King Gnuがメジャーデビューした2019年に感じていたことを書き残しておきたくなった。


私がKing Gnuを知ったのは2017年のアルバム『Tokyo Rendez-Vous』がリリースされた後。Apple Musicでたまたまピックアップされているのを見かけたのがきっかけ。
初めて聴いた時、「ああ、すごい人たちを見つけた」と思った。
アンダーグラウンドな印象を受ける歪んだサウンドに、どこか歌謡曲的な親しみやすさのあるメロディと歌詞が重なり、月並みだがとにかく新鮮な音楽。

本能的に、良い!!!と思える音楽に巡り合えた時の、脳汁がドバドバ出る感覚は癖になる。
それからしばらくは、狂ったようにKing Gnuを聴きまくった。

いてもたってもいられなくなり、2018年にはLIQUIDROOMでのライブに2回行った。
音源を聴きながら妄想していた以上にライブは良かった。彼らの佇まい、荒削りだけど熱量の高い演奏に魅了された。
既に音楽好きの間では相当注目されていたので、King Gnu目当の客が一番多かったように思う。

彼らはきっと近いうちにブレイクする!
そう確信して、大学生の弟にも「もうじきKing Gnuが来る」と興奮気味に教えたのを今でも覚えている。


そして2019年1月のメジャーデビュー以降、堰を切ったように彼らは国民的人気ミュージシャンの座へと上り詰めていった。
タイアップに次ぐタイアップ。異常なまでのメディア露出で、どんどんフォロワーが増えていった。
著名な芸能人らも彼らをプッシュし、「King Gnuキテるぞ」という風潮があっという間に作り上げられた。
もちろん大前提として実力あってのブレイクだけど、短期間でここまで名を馳せられたのは、サブスクサービスの普及や音楽的なトレンドといった外的要因が、全て上手く噛み合ったタイミングだったからこそだろう。


私はただただ呆然とその様子を見ていた。
こないだまでLIQUIDROOMでライブをしていたのに、気づけばZepp級のハコですらチケットが全然当たらない。
チケットが当たらないことにはライブに行きようがない。2019年にKing Gnuを拝めたのは、知人のそのまた知人のコネで偶然チケットを押さえてもらうことができた時のたった1回きりだった。

好きなバンドが売れるのはもちろん嬉しい。
バンドの存続には、ファンを増やし露出を増やしフリークエンシーを高め、ライブではグッズを買ってもらってお金を稼ぐことが不可欠だ。

ただKing Gnuに関しては、ブレイクの勢いが他の比ではなかったうえ、あまりのタイアップの多さと、それに伴い楽曲から感じられる「大衆向け感」に、なんとも複雑な感情を抱いていた。
いやそれは逆で、タイアップであちこちで耳にするからこそ「大衆向けである」と感じられるのかも知れない。
いずれにせよ、『Tokyo Rendez-Vous』の楽曲群みたいなアナーキーで毒っけの強い音楽性に惚れた私は、どうしてももやもやしていた。

懐古厨と言われればそれまでだ。
ただ、なんというか、あからさまにバンドが世間に消費されていくさまを見ているのは、ちょっとしんどいものがあった。
おそらくそれは、本人たちが一番感じていたと思う。


冒頭のラジオの話に戻る。

井口さんが2月27日の番組内で吐露したのは、短期間で爆発的に売れたバンドマンの等身大の苦悩だった。

「去年、King Gnuは駆け抜けて、バンドもそうだし自分もそうなんだけど、何か擦り減らしてきた部分がものすごくあって。
一人喋りでラジオをやったのも初めてで、拙いラジオもしてきたという気持ちがかなりあって。それが原因ではないんだけどね。みんながたくさん助けてくれたし、スタッフも笑ってくれたり、リスナーやハガキ職人が面白いメールを送ってくれて、楽しくやることができたし。最初は本当にしんどかったけど、途中から、『なんか楽しめている自分もいるな』と思えて。

いま、自分の活動というか、もう一度見直したいな、という時期になっていて。

去年は何も考える暇もなくずっとやってきて、King Gnuが売れるために何をすればいいかとか、それだけでずっと突っ走ったから、このタイミングでもう一度原点に立ち返るというか、自分が本当にやりたいことや、自分が伸ばしたいところを伸ばす一年に、今年はしたいなという気持ちもあって。

このラジオで本心も言えていたんだけど、『面白くしなきゃ』って強迫観念に駆られているときも凄くあって。そういうときにポンと出た言葉が、誰かを傷つけるんじゃないかとか、そういうのが自分の中でしんどかったりもして。
ここ半年ぐらいずっと葛藤して、楽しい反面、そういう気持ちもありました。
『どうしよう、どうしよう』って悩んでいたんだけど、はっきりさせたいなと思って、そっちを選びました」


井口さんは特に、King Gnuが大衆に消費されている現実を真正面から受け止めてきた人だと思う。
バンドのフロントマンであり、いじられキャラ的ポジションも担っている。タレントでもアイドルでもないのに、ビジュアルをいじられ、言動をいじられる。
大してバンドや音楽に詳しくない知り合いでも、井口さんのことは認知していて、「あの人なんかおもしろいよね」と言う。
Twitterでのリプライを中心とした大衆からの期待(煽り)に応えてMステで奇行に走ったりもする。さながら芸人のようだと思った。
バンドマンってここまですり減らさないといけないんだっけ…と。

音楽が本業なのに、音楽に関係ないところで消耗している姿が、ちょっとだけしんどそうだった。


だから、こうして自分の意思で番組に幕を下ろしてくれて、本当に良かった。
色々なファンがいるだろうが、少なくとも私は本人たちがやりたくない仕事はやってほしくない。
メディア露出が少なくたって、SNSをやっていなくたって、不定期でもいいから新しい音楽を世に送り出してくれて、たまにライブでファンと時間を共有してくれればもう十分だ。
別に大勢から愛される人気者が好きなわけじゃない。私はどうしようもなくかっこいいKing Gnuというバンドが好きなのだ。


井口さん、1年間お疲れ様でした。
本当は真っ当な人なのに、多少無理をしながらもファンを楽しませようとする姿勢、素敵でした(傷口に塩塗るようですが本心です)。
2020年は、どうか無責任な大衆や業界の大人の言うことに振り回されず、やりたいようにやってください。
あなたは2年前、LIQUIDROOMでのライブのMCでは「こんばんVAGINA」しか言ってませんでした。それで良いんです。
言葉よりも音楽で伝える、パフォーマンスで熱を爆散させるKing Gnuを愛しています。



最後に。
私の人生のテーマソングは『Flash!!!』です。

誰もが矛盾を抱えてんだ 翻弄され踊り踊らされ
それでも何度でも立ち上がれ
いつだって主役はお前だろ
輝けるんだ 変わらない思いのままで

歯止めは最早効かねえんだ

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