増山朝陽という男。

1.増山朝陽の2019年以前

その青年は、高校生の頃からサッカーファンに知られていた。
「ヒガシのクリロナ」という愛称で。
東福岡高校で抜群の活躍をみせ、クリスティアーノ・ロナウドのような身体の強さと走る姿勢、スピードをいかしたドリブルから付いた名であった。

そして卒業と共にヴィッセル神戸に入団。今度は「神戸のクリロナ」として、その名を轟かす、はずだった。
実際には、高卒1年目から出場機会を掴んだものの、2年目も出場機会は増えず。リーグ戦での出場試合数は一桁に留まった。

さらに苦しい時期は続く。3年目、成長すべく横浜FCへレンタル移籍するもJ2で9試合、無得点。翌年、神戸へ復帰し得点も記録するも、8月に右膝前十字靭帯損傷の大怪我を負い8ヶ月近くも離脱。

2019年に復帰するも、この年の出場は4試合のみとプロ入り後最少であった。きっとここまで、ほとんどの時期でプロ入り前に描いていたプランに沿っていなかったはずだ。

しかも、膝の怪我によって微妙に感覚が狂い、怪我以前のパフォーマンスに戻らない選手は、意外と多い。

2.2020年、アビスパに所属して


そんな増山がプロ5年目に選んだ新天地は、生まれ育った福岡。慣れ親しんだ環境への帰還に際しては、多少の喜びと共に相当な覚悟を引き連れていたはずだ。

とはいえ今期のアビスパは大型補強を行っており、特にSHは福満、菊池、石津、北島らライバルは非常に多い。実際に、北九州との開幕戦では先発メンバーどころかベンチにさえ、その名はなかった。

それでも、増山は腐らなかった。神戸でなかなか出場機会を得られなくても、大怪我を負ってしまっても、そしてアビスパで開幕スタメンを逃し、さらにその後第3節まで出場機会を得られなくても、増山は決して努力を怠らなかった。それは本家クリロナにも引けを取らない、鍛え抜かれた鋼の腹筋が証明している。

元々の持ち味であったドリブルだけでなく豊富な運動量をいかした守備でも貢献することで少しずつ出場機会を増やし、今では右SHの1stチョイスの座を掴むだけでなく攻撃の急先鋒として欠かせない存在になりつつある。

そして今期ここまでで最高の輝きを放ったのがホーム・群馬戦とアウェー・新潟戦。どちらも攻守に渡って圧倒的な存在感を示した。群馬戦では特に、スピードをいかした力強いドリブルで対面する群馬の選手を何度もちぎっている。
さらに素早い帰陣、タイトな守備でも貢献し続けた。
その姿は大怪我を負う前並、どころか凌駕するものであった。
ピッチをところ狭しと駆け回って迎えた76分。
普通であれば疲労感が漂う時間帯である。
が、増山はMF前がボールを持った瞬間、ロングパスが出ると信じて裏へ飛び出し、その通りにパスが出た。しかし群馬のDFのほうがボールに近い。疲労が溜まったなかでこの状況になるとスプリントを緩める選手も多い。
しかしボールに向かって増山は、信じて走る。DFが先に触ったが増山のプレッシャーを気にしたのか中途半端にトラップし、しかも足元から離れた。
そのボールを増山がトップスピードのままかっさらい、ワンタッチ目で内側へ持ち出してゴールへの角度を作る。GKが懸命に飛び出すが、増山は冷静に、身体を倒しながらファーサイドへシュート。コースを突いたシュートが、サイドネットを揺らした。
そしてこれが、この試合唯一のゴール、かつ連勝を6に伸ばすものとなった。

また、新潟戦でも勝負所でのスプリントで勝敗を分ける活躍を見せた。同点に追いつかれ新潟の攻撃を必死にしのいでいた終盤の71分。

新潟のCKの場面でGK村上がパンチングで弾くと、こぼれ球をFW遠野が競る。これに対していち早く反応したのが増山。頭で前のスペースにボールを運ぶと一気に加速。60mほどのドリブルで追いすがる新潟の選手達を引き離すと、味方の動きを冷静に確認しギリギリまで溜めたうえでフリーのMF福満にパス。福満が決めて、これがこの試合の決勝点となった。

3.今後期待すること

最近の活躍もあり増山は「博多のクリロナ」と呼ばれている。
だが、この活躍を続けることができればその枠を突き破るのではないか。

テクニックに優れた選手。攻守に貢献できる選手。スピードに恵まれた選手。1つの特徴を持つ選手は多い。
しかし、その全てに加え不屈のメンタルを持つ選手となると極めて稀。
そんな増山がピッチを、それも楽しそうに駆け回る姿を観ているとこちらまでワクワクしてくる。そして、信じてみたくなってくるのだ。彼が、「○○のクリロナ」でなく、「増山朝陽」として日本のサッカーシーンに強いインパクトを残す日が来ることを。

#アビスパ福岡 #j2 #jリーグ #アマチュアサッカーライター #サッカー #増山朝陽 #応援したいスポーツ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?