見出し画像

小説『汝、星のごとく』|感想

ドラマ熱が下がったり(よくある)、体調を崩したりしていたので、久しぶりのnoteです。
ドラマ熱と反比例するように本が読みたいという気持ちが高まって、先日書店をふらふらしてみました。

一番目を引いたのが、やはり本屋大賞に輝いた『汝、星のごとく』。
美しいけれど内容が掴めない題名に興味をそそられました。
でも帯に「わたしは愛する男のために人生を誤りたい。」と書いてあって、陳腐で独りよがりな恋愛話か?そういうのは苦手なんだよな……と思ってしまい(ごめんなさい)。
一度は買うのをやめましたが、でも本屋大賞だし!きっと面白いはず!と思い切って購入しました。



ネタバレなし感想


小説を読む習慣がなくなってから7年ほど経ってしまい、集中できるか不安だったのですが、杞憂でした。
読み始めた途端にぐいぐい引き込まれました。

会話がリズミカルで心地よく、瀬戸内の島の情景描写の美しいこと。

生きていくなかで誰しもがほんのり感じたであろう、でもそれが何か掴めないままいつの間にか忘れてしまったであろう、そんな気持ちをとことん言語化して、突き詰めて、形を与えていく文章力のすさまじいこと。

容赦なく鋭い心情描写に私の心までズッタズタにされ、何度も何度も涙を堪えながらもページをめくる手が止まらず、最終的にはボロボロ泣いて本を閉じました。

超えぐられた。

辛くて苦しい話なので、読み切るのにかなり体力・精神力が必要な気はします。
でも、おすすめです。



ほんのり内容に言及した感想
(ネタバレはなし)


話としては、決して私の好みの系統(ピュアで真面目な話)ではなかったです。もしこれがドラマなどの映像作品だったら、絶対キツくなって途中で見るのをやめていたレベルだと思います。

主人公の暁海(あきみ)と櫂(かい)を取り巻く大人たちの倫理観が終わってて、自分勝手で幼稚でどうしようもない人が多いんです。人間味があるね〜では済まされないほどの。見るに堪えなかった。
しかも、暁海や櫂の行動も、行動だけ見れば私には理解できないものが多くて(浮気とか酒浸りとか)、これがドラマだったらなかなか共感できずに苦労しただろうなと想像します。

でも小説って心情をじっくり描いてくれるので、なんと言うか、読み手(私)の価値観からかけ離れた、想像力が及ぶ範囲外の話でも、小説ならちゃんと説明してくれるからついていけるんだなと思いました。
(映画だとモノローグのような心情説明は逆に場を白けさせるし、芸がない印象を受けます。興味深い違いです。)


***


小説だからどうこうの話はさておき。
暁海と櫂が何をどう考えて生きているのかということが超しっかり、えげつない鋭さで書かれていて、ふたりの心の傷の深さと多さを思い、その辛さと苦しさを思い、私の心は引き裂かれました。。涙

主人公の暁海と櫂はいわゆる「毒親」に振り回されて育ち、「誠実で頼れる大人らしい大人」という人生の道しるべとなる存在を知らないがために、人生という迷路で迷い続けます。

暁海の父は不倫をして家を出て行き、母はそのために精神を病む。暁海は母を支えるために自分の恋と夢を諦める。
櫂の母は恋人が絶えないシングルマザー。いわゆるネグレクトの環境で育った櫂は、夢と成功を掴みながらも、それを持て余し、自堕落な生活を送る。
ふたりはやり場のない怒りと孤独を分かち合い、恋に落ち、そしてすれ違う。

それでもお互いを心から必要としていて、暁海にとっては櫂が、櫂にとっては暁海が道しるべで、つまりお互いがお互いの「星」だったのだと思います。泣く。


***


ところで、凪良ゆうさん、すごい作家さんですね!?
なにを今更って感じですが。

『汝、星のごとく』は暁海の現在から話が始まりますが、これが伏線ありありだったし。。暁海の父親の不倫相手や、櫂の担当編集者までもが話に深く関わる重要人物で、モブがいなかったし。。櫂が関西弁で繰り広げる会話が軽やかで面白過ぎるし。。一方で重くて鋭いセリフがそこかしこに登場するし。。
話の展開も、それが、そこから、そうつながって、最終的にそうなるんか!!!クーーー!!!という驚きと感動にあふれていました。
ラストは、救われてはいないのだけど、でも暁海と櫂は自分たちなりに救われたんだ......これはふたりがもがいて選んだ人生なんだ......とズシンときます。涙々。


***


余談ですが、本の帯に抜き出された

「わたしは愛する男のために人生を誤りたい。」

というセリフは、暁海が人生における最大の決断をしたときのものでした。
それ単体だとありふれたクリシェに聞こえますが、これが文脈に落とし込まれると猛烈な質量になって迫ってきたので、すごいなーと感心してしまいました。

これ、著者の凪良さんご自身も、

あの「決断」に説得力を持たせるために、ジリジリと文章で匍匐前進をし続けていた感じだったんです。たぶん、あの場面だけ抜き出して読んだら「勝手な人たちだな」としか思わない(笑)。ずっと積み重ねていった先であの選択だったら、読者さんがなるほどと思ってくれるんじゃないかなと願いながら書いたんです。

出典:凪良ゆう『汝、星のごとく』ロングインタビュー(前編)

とおっしゃっていました。

これは本当にそうなんです。
暁海と櫂の気持ち、考え方、価値観が丁寧に描かれ続けた小説だったので、「わたしは愛する男のために人生を誤りたい。」というセリフはとても頷けるものになっていました。
クー!最高!


なんとなく帯のセリフに惹かれなくて買わない、ということは自分は割とあって、現に『汝、星のごとく』も読まず仕舞いになるところでした。。
そうやって見逃してきた名作も意外と多いのかもしれないですね。
これからはもっとフラットな視点で本を選びたい!笑


久々に読んだ本が『汝、星のごとく』で良かったです。また本読もう!と思える読書体験になりました。

これからは映画やドラマだけでなく、小説の感想もアップしていこうかな。

この記事が参加している募集

#読書感想文

190,642件