どうぶつの森で部屋のテレビつけた時みたいな

引っ越してきて1年以上が過ぎたけど、自分の家の周りに知らんかった道を発見したりする。発見するのは昼よりも夜の方が多く、少し酔っぱらっている時の方がよく見つける気がする。

五反田駅で終電をなくし、タクシーをつかまえるのも少し忍びない。GoogleMapで調べると、20分程歩けば家に着くとのこと。酔いでボーっとする頭を醒ましながら、マップ上の点線に沿って歩く。しばらく歩くとだいたい方向がつかめて来たので、スマホをポケットにしまい歩く。再生している音楽も何だかつまらなく感じて、耳からイヤホンを外す。気づけば、知らない住宅街に入り込んでいる。右手には真っ青なアパートがあって、すべての窓が太い鉄柵に覆われている。柵に干されたパーカーが、吊り下げられた人間が揺れているように見えてギョッとする。再度マップを開くと、この道をまっすぐ歩けばすぐに家に着くらしい。全然ピンと来ない。人も車も通らず、生あたたかい空気が鼓膜をぎゅうぎゅうと押し付ける。半信半疑で歩いていると、突然自分の家が目の前に現れて思わず声をあげる。

これまで何度もこのような経験をしている。夜中に近所をふらついた帰り、銭湯からの帰り、少し遠くの駅で降りてみた日の帰り、ナビは知らない道を僕に示し、半信半疑で言われたままに歩いていると、突然知っている景色が飛び込んでくる。近くに行くまで、僕のアパートは大きな黒い幕に覆われていて、急にアンベールされたかのような感覚がある。

こんなことがあった日は、なぜか自分の家が自分の家じゃないような気がして、シャワーを浴びてもテレビをつけても、まるでゲームの背景のように思えてしまってしっくり来ない。ひとりソファに座っていると、なんだかとても遠いところまで来てしまった気がして、ベランダに出てみても薄暗い空があるだけだし、あの真っ青なアパートも一向に見えそうにない。


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