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「メモリーガール」お薦めレビュー ゲームの世界で「彼」を求める、レビューを書くのに一か月かかった衝撃作

 ゲームをプレイして「電撃が走る」ような感覚を(ブレスオブザワイルド、あるいはNEEDY GIRL OVERDOSE以来)味わった「メモリーガール」を紹介します!!


本編より注意書きです。

・始めにお詫び

 まず、今作のレビューを10月中にあげたいと言っていたのにこの時期になってしまったことをお詫びいたします
 理由としては、今作は私にとってとてもそのすばらしさが言語化しづらく、またネタバレも最小限にしたいものであったので、「あの感じはどう言えばいいんだ…?」「これを言ったらもうネタバレだぞ…」「先行作品と言える作品もあるけどそっちのネタバレになるぞ…」と、周回プレイしながら悩んでいたということにあります。正直何度か「言葉じゃ説明できないのでいますぐやれ!!!」とだけ書いて公開しようかとさえ思いました。
 なのでこの先はなんとか絞り出した言葉となりますのでご了承ください。

・あらすじ

放置されたゲームのセーブデータの中で、
自我をもったヒロイン・めもりは ”彼” を探す。
行方不明になった彼を探す、
せつない恋のアドベンチャーゲーム

・ゲーム内容

 主人公のめもりが親友のメシアと共にロケーションを移動しながら探索をし、一癖ある人物と交流してフラグを回収して移動範囲を広げ「彼」を探すという、スタンダードな探索型アドベンチャーゲームとなっています。総当たりで進むことができるので難易度的な問題はないでしょう。
 あらすじに「ゲームのセーブデータの中で」とある通り、ゲームの世界であることを意識したような演出が各所で見られます

映像の美しさは言うまでもないでしょう

・おすすめポイント①「ゲームの中」という世界観を徹底的に生かした画面構成と演出

 まずは、こちらの2枚の画面を見てください。

ところでこの絵を見て惹かれたらいますぐプレイしてください!

 前者はタイトル画面、後者は注意・説明文のあと最初に出るシーンなのですが、この二つの映像に今作の最大の特徴である「ゲームの中という世界観」が現れています
 ドット調のフォント、シンプルなUI、美しくありつつもコンピューター的というか人工感が儚さを想起させる背景、そしてさらに不安定に輝くエフェクト、軽やかながら何か寂しさを覚えるBGM…、感動と不安を同時に与えてくれるこのシーンを再序盤だけが公開されたVer1で初めて見た時「これはやばい作品だ…!」と本当に物理的に震えたのを覚えています。
  また、登場人物がセリフを全て話す箇所と「はいはーい」や「へへへ」みたいに相槌や印象的な言葉だけを話す箇所があって、この分かれ方がいかにも「ノベルゲーム」を感じさせてくれます。
 「世界自体がゲームの中であることを意識させる作品」というのは珍しいとまでは言い切れません。ただ、多くの作品はゲームの世界であること自体に登場人物は気づいていない、あるいはそれに気づいて愕然とするという展開が多いのですが、今作は主人公がゲームの中の世界であると当初から認識しているというのが特徴です。一方他の登場人物はあくまでゲームのNPCであるとされます。それによっていかにもゲーム的な、あるいは人工的と言っていい映像や(midjourneyも使用しているようです)、作中無数にあるゲームであることを活かした演出に対して、こちらの受け止め方が変わったのがとても印象的でした。どんな演出が来てもこちらに受け入れる準備ができていましたし、「次はどんなことしてくれるんだろう」とワクワクするような気持ちで展開を待っていました

地デジ前のテレビ画面のような演出です
この映像に切り替わる時スイッチがつき、電気が流れるようなSEが流れるのもとてもよいです


 一般的にメタ演出というのは恐怖演出かコメディな演出に使われることが多いです。プレイヤーとゲームの間の距離を急速に詰めることでプレイヤーが本来持っている「画面越しで見ている」という安全性を揺るがして恐怖を与えたり、創作物であり現実ではないことを意識させて緩和と笑いを生むというような手法が使われています。
 もちろん今作においてもゲームであることを意識させる演出で驚かされたり怖さを感じるところもあります。ただそれ以上にむしろプレイヤーとゲームの登場人物、とりわけ主人公のめもりとの間に明確に埋まらない距離があることを意識させてくれると感じました。さらに、めもりだけは自分がループの中にいると感じているが、他の登場人物とはそのことを共有することができていないということもあり、めもりだけがゲームの登場人物ともプレイヤーとも圧倒的な孤独に囚われてしまったようで、その存在のよるべなさと不安定さが強調されています。それでも、むしろそれだからこそ「彼」を求める姿のいじましさに強烈に心を動かさせる効果を持っていて、まさにあらすじにある「せつない恋のアドベンチャーゲーム」にぴったりの演出としてこの世界観や演出が使われているのです。私はもともとメタ演出が大好きなのですが、今作のメタ表現のこのような使い方は非常にフレッシュに感じましたし、非常に心を動かされました。

 なお、もちろん実際にどんな演出があるのかはぜひプレイして味わっていただければと思います!

・おすすめポイント②予想外に転がりつつも的確な文章力と演出で読ませるストーリー、そして最高な各エンディング

 めもりは「彼」を探すために様々な場所を巡り、様々な人物と交流をします。なおそこで出てくるロケーションは実際の東京がモチーフになっています

この絵本当に大好き

 そこにはマジックリアリズム(魔法や幻想的な要素がまるでそれが現実であるかのように精緻に書き込まれている)的な描写と、非常に一癖では足りないような特徴豊かな登場人物との出会いがあります

親友であるメシアは行動を共にしてくれます

 その人物像は現実離れしている(これもぜひプレイして見て欲しいです)ことも多いのですが、前述のゲームの中であることを強く意識させる描写によってストーリーの中にすんなり受け入れることができます。それによって一人ひとりのキャラが完全に立っていて、一度見たら忘れられないでしょう。
 イベントの中にはシンプルなお使い的なものや、急に飛躍するような展開もあります。お使いイベントなどは「彼」を求めるというメインの物語が止まるので作業的になりかねないところもあるのですが、そこを適切な文章力や演出の力でしっかりノベルゲームとして楽しめるようになっています。文章もいい意味でノベルゲームぽさを出すのに的確な表現が多く、よりゲーム的な世界観を深めてくれます。

「言葉」と書いてのろい、まさにノベルゲームの一側面

 そして、このゲームの世界観、ストーリーの最大の見せ場と言えるのが各エンディングです。この作品には複数のエンディングがあるのですが、その全てがとにかく美しく、演出がすさまじく、徹底して芸術的で、またストーリー的な意味も持っているという最高のエンディングなのです。もちろんここでは一文も言及はできませんが、この作品をプレイする際にはエンディングを必ず全回収してほしいです。

これはオープニングに近いシーンですが、あらゆるシーンがこのように美しいです

・おすすめポイント③実は大切なことはまだ言っていない


 実は今作についてここでは語っていない、というか語れない本質的なところがあります!

 僕はそれにとても感銘を受けましたし、それによって優しい希望のようなものをいただくことができました。これこそが今作の一番素晴らしい所であると思っていますし、本来ならこの部分こそ語りたいのですが、ネタバレに触れるところなのでそこは避けさせていただきます。また、受け取り方によっていろんな意見が出るであろう部分だと思いますので、ここはぜひ皆様の目で確かめていただきたいです。

・こんな人にお薦め!

①メタ演出が好きな人
②映像、BGM,、セリフ、演出、あらゆる方向から物語を味わいたい人
③小さな希望が欲しい人

プレイ時間:1時間前後
プレイ環境:WindowsPC・ブラウザ起動

・あとがき

 今作は僕の中での衝撃がすごくて、初めて触れた時はちょっと変なテンションになっていたことを覚えています。いわゆる「アガる」と「シビれる」と「沁みる」が同時に来るような感じでした。この感覚を共有できる方はきっとまだいると思いますし、そういう方とネタバレ全開でゆっくり語ってみたいものです! 


 あのクリア後に読むおまけのあれとかさぁ…!!!だってあれってさぁ……!!!

 また、今作のテーマソングがyoutubeにあげられていて、本作が収録されているCDもboothで販売されています。今作をプレイすれば必ず印象に残るであろうこの曲もぜひチェックしていただければと思います。好きなタイプの曲調に、声とメロディーが合っていて、歌詞のリズムも心地よく、本当に単体としてもいい曲だと感じます。



・おまけ

 私が完全版公開日に緊急実況した配信を貼っておきます!ぜひプレイした後、反応を見ていただければありがたいです。この段階から「言語化しづらいすばらしさ」と言っていたことを改めて思い出しました。


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