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上背がない男・宮城リョータが見出した「ハンデを逆手に取る」ことの重要性

第一弾の三井寿、そして第二弾の流川楓に続き、第三弾は誰にしようか迷ったが、ちょうど中間ということもあり、2年のポイントガード・宮城リョータを語ろう。
宮城リョータという男は三井・桜木と並んで読者の共感を誘う男であり、上背がないながらに勇猛果敢に切り込んで行く様にどれだけの読者が勇気付けられただろうか?
スポーツにおいてガタイがないのは損であり、生まれ持った身体能力の差というものは本人の努力だけでは変えられない部分があるものだ。
しかし、そんな背丈の差をこの宮城リョータという男は物ともせず乗り越え、湘北一の切れ者としてその名をほしいままにしている。

もちろん宮城リョータ以前に以後にもスポーツ漫画やジャンプ漫画で背丈は低いが、主人公に負けず劣らずの活躍を見せたキャラクターはいる。
「リングにかけろ」の香取石松や「ドラゴンボール」のクリリンがそうだし、それこそ「テニスの王子様」の越前リョーマや遠山金太郎もチビキャラだ。
そんなチビキャラの系譜である宮城リョータはどのような活躍を劇中で見せ、どんな印象を読者に与えてくれたのであろうか?
三井や流川たち他の湘北バスケ部との関係性も絡めていきながら、彼の人となりについて改めて見ていこう。

スポーツにおいて身体能力に恵まれない辛さ

バスケットに限らないが、スポーツにおいて身体能力に恵まれないというのは相当に辛く、それだけで大きなディスアドバンテージとなる。
上記で紹介した「リングにかけろ」の香取石松は実際ガタイに恵まれなかったが故に他の黄金の日本Jr.のメンバーような大立ち回りができない。
「ドラゴンボール」のクリリンもガタイに恵まれないからこそ気のコントロールや気円斬といった「技」に頼るしか生き残る道はなかった。
「テニスの王子様」越前リョーマや遠山金太郎もセンスや能力は高いが、やはり上背がある上級生に比べて決定打に欠けるところがある。

だが、あらゆるスポーツの中でも特に高いゴールポストにボールを入れなければならないバスケットにおいてガタイがないのは相当に辛い。
まずインサイドでのオフェンス並びにディフェンスは無理だし、当然華麗なダンクシュートを決めることもできないのだ。
実際それは宮城にも大きなディスアドバンテージとしてのし掛かるわけだが、中でもやはり特筆すべきは海南戦と山王戦である。
海南のポイントガード牧、そして山王のポイントガード深津はどちらも上背がある上で宮城以上のゲームメイクのセンスを持っていた。

特に海南の牧は宮城以上のスピードに三井並みの知性と流川並みのセンス、そして赤木と桜木の身体能力を全て兼ね備えた化け物である。
だからこそ安西先生は「4人がかりで食い止める程の価値がある、牧伸一というプレイヤーは」と評していたわけだ。
そして山王戦ではその牧以上のゲームメイクのセンスと冷静さ、身体能力を持った深津とまで対決することになる。
また、直接対決はなかったものの、陵南VS海南を見た後宮城は「仙道がポイントガードとして出てきたらどうすんべ?」と内心漏らしている。

そう、宮城リョータの辛いところは常々「身体能力に恵まれないハンデ」と戦わなければいけないことなのだ。
これは赤木・流川・桜木・三井にはない宮城ならではの悩みの種であり、あまり表面化はしなかったものの体格差に苦しむことはしばしばあった。
そしてその悩みを抱えていたのは宮城だけではなく陵南のデータマンである相田彦一も同じであり、彼もまた身体能力に恵まれない人間だった。
だが、彦一と宮城では同じような悩みを抱えていながらも決定的な差があり、それが大きな違いとなって現れている。

体が小さいからこそできる器用で華麗なプレースタイル

そんな宮城が出した答えは「ハンデを逆手に取る」ことであり、上背がないからこそできる戦い方を彼はポイントガードという形で確立したのだ。
確かに彼は体格に恵まれないが、だからこそ徹底的にパス回しとドリブル、そして俯瞰して全体を見渡し指示を出すゲームメイクのセンスを極めたのである。
山王戦の後半で宮城は深津と沢北に阻まれて苦しむ中で、自身のコンプレックスと向き合い1つの答えを出したのだ。

ドリブルに活路を見出す宮城

そう、確かに身体能力ではその2人に劣るかもしれないが、小刻みにできる器用なドリブルという基礎を徹底的に極めることで独自の技へと昇華したのである。
ドリブルはバスケットの基礎中の基礎だが、それを極めれば上背がある相手でも容易に出し抜くことが可能となるわけであり、それ自体が最強の戦術となるだろう。
宮城の好きな彩子姉さんは初心者・桜木に毎日鬼のようにドリブルを叩き込んでいるわけだが、理由の1つはそれを極めた宮城の例を見ているからだ。
身体能力に恵まれなくてもドリブルを極めるだけで相手選手を翻弄してゲームメイクを有利に行えるのであれば、これ程楽な手はないであろう。

上で「インサイドでのオフェンス並びにディフェンスは無理」と書いたが、実際は宮城もインサイドに切り込んでレイアップやジャンプを決めてもいる。
また、ディフェンスに関しても桜木や赤木、流川のような身体能力を活かした派手なブロック・リバウンドは無理でもパスカットやスティールができるのだ。
翔陽戦で藤間からボールをスティールしたり、海南戦でも桜木からリバウンドを奪った高砂相手にスティールをかましたりもしている。
山王戦に至っては「花道、1031だ」などとあえて謎の支持を出して沢北の頭を混乱させるなど小狡い策士の側面も見せるなど頭の回転も速い。

特に桜木にフェイクを教えたり、追試の勉強をするシーンでもサッと閃くと英語の問題をあっさり解いてしまったりするなど、地頭はとても良いのだろう。
どこまでも愚直なバカとして描かれていた桜木とはそこが対照的であり、そして三井や流川とも違ったセンスの持ち主として描かれていたのが宮城である。
宮城の偉いところは彦一と違って身体能力を言い訳にせず、ハンデを逆手に取った器用で華麗なプレースタイルを身につける形で活路を見出したことだ。
余談だが、この宮城のセンスに身体能力と得点力を持ち合わせているのが流川楓であり、そりゃあ湘北一のスター選手として神奈川トップ5に選ばれるわけである(笑)

好きな子に認められたいという承認欲求

そして宮城を語る上で外せないのは好きな子に認められたいという承認欲求であり、これは主人公・桜木花道と共通している宮城の愛嬌となるポイントだ。
宮城が初登場した時、彩子と桜木が一緒に歩いているのを見ただけで彩子が浮気をしたと勘違いし、とばっちりで桜木と喧嘩した程である。
しかも気絶している堀田番長まで巻き込んでいるのだから、ギャグじみているとはいえはた迷惑なことをしていることには間違いない。
まあ直後に晴子も駆けつけて桜木と宮城は「はーい」と喧嘩を辞めるのだが、好きな子には逆らえないところは桜木と宮城に共通している。

アホみたいに意気投合する桜木と宮城

桜木と宮城はこの後、「好きな子の笑顔が見たい」という部分で共感したことで意気投合し、部員たちを困惑させており、流川に至っては「どあほうが2人に」と呆れていた。
バスケットを始める動機としてはなんとも不純だが、このあたりはもしかすると思春期の男の子ならではのリアルとして入れたつもりだったのであろうか。
恋愛至上主義では無くなった今見てみると実に古い描写だが、彩子と宮城に関して言えば単なる「好きな子に片思いする可愛い男子高校生」という甘いものだけではない。
宮城が彩子に惚れ込んでいることは他ならぬ彩子自身が気づいており、だから宮城の思いが報われることはないだろうが、桜木と晴子とは違う信頼関係がある。

彩子との信頼関係をしっかり見せる宮城

特にわかりやすいのが翔陽戦の後半に「何が言いたいかわかる?」と聞いてきた彩子に対して宮城が「そいつを倒して俺がトップになる」と言い放つ場面だ。
ここで彩子は腕を組んで「Good」と笑うのだが、ここに単なる男女の情だけではない信頼関係のようなものが見て取れ、山王戦でも同じようなことをしていた。
彩子は今風にいう「アゲマン」であり、部全体を時に厳しく、時に優しく導きながら宮城に対するここぞという時の細かい叱咤激励も欠かさない。
逆に言えば、彩子はそれだけ宮城のポイントガードとしての腕を信頼しているわけであり、こういうクールでスマートな関係性が細かく入るのも本作の魅力である。

宮城という男はどちらかと言えば単品ではなく、他のメンバーとの絡み合いの中でそのキャラクター性が際立つのではないかと私は思う。
彩子姉さんだけではなく親分として「ダンナ」と呼び絶大の信頼を寄せている赤木、かつて喧嘩はしたもののよき先輩後輩の関係である三井、程よい距離感で信頼している流川、そして意気投合した桜木。
特に桜木に関しては「花道」「リョーちん」と呼び合うフレンドリーな関係性となっており、ツッコミを入れて弄りつつも花道をしっかり立てながら掌でうまく転がしている。
だから承認欲求を単なる拗らせで終わらせるのではなく、それをメンバーとの関係性にもしっかりと昇華しているのが宮城のとてもいいところだ。

湘北高校の次期キャプテンとして覚醒

そんな宮城は山王戦の中で湘北高校バスケ部の次期キャプテンとして頭角を現し、ポイントガードとして破格の成長を遂げる。
ゾーンプレスで20点もの圧倒的な点差をつけられ、前半の活躍が嘘のようにボロボロに疲弊しきった中で花道がリバウンド王としての輝きを見せた。
その花道に触発される形で宮城もまた「ウチにまた流れが来る」と信じ、パスカットをした後に赤木・三井・流川の3人を叱り飛ばす。

桜木以外を叱咤する宮城

この「流れは自分たちで持って来るものだ!」と言い切った瞬間に宮城は単なるポイントガードではなくなり、器を大きく成長させた
牧から「宮城はポイントガードとしてだいぶ成長したな」と評し、いざという時は自分が厳しく叱り飛ばす役割を担うようになる。
これは上記した彩子姉さんはもちろんのこと、キャプテンとして厳しくチームを率いてきた赤木の背中に学んできたことだ。
そして湘北側に流れが傾き出して山王がタイムアウトを取った時、赤木に変わってチーム全体の士気を上げる声かけを行う。

チームを盛り上げる宮城

これまでだったら赤木が行っていた声かけを今度は宮城が行うようになり、体が小さいとかポイントガードとか関係なしにチーム全体を盛り上げるようになった。
花道や流川という後輩の面倒を見、また先輩の赤木や三井・木暮の背中に学ぶという中間管理職のような立ち位置を経験し、宮城もまた山王戦で頭角を現わす。
だからこそ上記の「ドリブルこそ、チビの生きる道なんだよ」につながるわけであり、全国大会が終わった後正式に次期キャプテンに任命された。
単なるポイントガードとしての実力とセンスだけではない、人間関係のやり繰りのうまさなどを総合的に見て選ばれたのではないだろうか。

次期キャプテンに就任した宮城

そして三井を出し抜いて「俺の時代」と言い出す程に宮城もまた桜木や流川に劣らぬ覚醒を見せ、これからの期待を持たせて彼の物語は幕を閉じる。
宮城リョータという人物が我々に教えてくれたことは「本人の意思とやる気さえあればハンデを乗り越えることはできる」ということではないだろうか。
上背がないというバスケットマンとしてのディスアドバンテージに屈することなく、それを逆手に取って次期キャプテンの座にまで上り詰めたのだから。
その小さい背中にどれほどの読者が共感し勇気付けられたことか、宮城リョータはそんな「ハンデを抱えるもの」たちにとっての希望なのである。

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