見出し画像

パラメータと試合の描写から考える赤也と海堂だけが悪魔化した理由

以前の記事でデビル赤也のことを「無我の境地の暗黒進化版」、即ち「デジモンアドベンチャー」のスカルグレイモンや「Gガンダム」の怒りのスーパーモード・バーサーカーモードに似たモードと書きました。
「テニスの王子様」に無我の境地をはじめとして様々な能力アップの形態が描かれましたが、その中でも「悪魔化」を未だに己の形態として使っているのは切原赤也のみです。
全国大会決勝のD2ではデビル赤也に半ば煽られる形で海堂も悪魔化して満身創痍の乾に止められていましたが、なぜ悪魔化を赤也のみならず海堂までもがしなければならなかったのでしょうか?
40.5巻のファンブックの許斐先生はあの展開に関して「乾達が勝つ展開は最初からなく、無残にやられていく中でどう青学の強さや進化を描こうか考えた」と仰っていました。

確かに、良くも悪くもあの悪魔化の流れは私も驚きだったのですが、単に強さや進化を描くのであれば海堂が赤也とは逆に天使に目覚める展開にしても良かったはずです。
まあ天使な海堂なんて私は見たくありませんが(ファンの方すみません)、ここで敢えて赤也と海堂の2人に悪魔化をさせたということは何かしらの必然性があってのことでしょう。
そして「新テニスの王子様」では、赤也の悪魔化に関して柳の方から「生命を脅かす危険性があった」と説明があり、更に具体的なパラメータまでもが出てきました。
大元の赤也の数値とデビル赤也の数値を改めてレーダーチャートにしてまとめてみましたので見比べてみましょう。


数値は「新テニスの王子様」の10.5巻にあったデータを最大値10にしてそれぞれ倍にしたものですが、ノーマル赤也はスピード以外秀でた能力を持っていないことです。
強いて言えばスピード8ですが、これは越前リョーマと同じ片足のスプリットステップが使えるフットワークの軽さから来ているのでわかりますが、後は軒並み平均より少し上程度です。
その代わりメンタルが平均より下でかなり脆く、これは予想外の手で来られた時にどう対処していいかわからずあたふたしてしまうところからもわかるでしょう。
草試合の越前戦、関東決勝の不二戦、そして全国準決勝のクラウザー戦に決勝の乾・海堂戦と軒並み相手が自分よりも上の手で来られるとペースを崩されて動揺してしまう傾向が目立ちます。

数値を合計すると30/50で平均より5しか上回っていませんが、これがデビル赤也になるとスピードとメンタルがMAXの10、パワーが9と飛躍的に上がる反面、スタミナ4にテクニックが3と大幅に落ちるのです。
これは即ち守りを完全に捨てて攻めに特化した形態であり、数値合計も36/50とアップはしているものの、それでも思ったより大きく伸びていないように見えるため有用な形態とはいえません。
全身が真っ赤になるということは一時的に交感神経を極限まで興奮させており、まさにテニプリ版の「バーサク」「バーサーカー」といえる状態ではないでしょうか。
これとは逆に完全に副交感神経により完全に自分の心を冷静に保つようにコントロールするのが無我の境地やその奥にある3つの扉の形態なのです。

このことを前提において今度は海堂とデビル海堂を見てみたいのですが、デビル海堂はデータがないのでデビル赤也の法則に倣って私見で数値化してみました。


海堂と赤也で大きく異なる点は「スタミナ」ですが、まあこれに関しては「粘りの海堂」というだけあって、どんな試合も持久戦に持ち込んでジワジワいたぶる戦い方をするところに見て取れます。
またメンタルも赤也より高いのですが、その代わりスピードは赤也に分があるという感じで、ここだけを見るとそんなに大きな差があるようには思えませし、むしろ数値合計は33/50と赤也より若干上です。
そしてこれがデビル海堂になるとこのようになるわけですが、一番のデメリットは海堂の長所であるスタミナが低下してしまうことであり、海堂の良さを押し殺してしまうところにあります。
赤也と海堂のプレイスタイルの違いは短期決戦か持久戦かであり、あのまま赤也が悪魔化せずに戦っていたら間違いなく柳・赤也ペアは追いつかれた上でスタミナ切れを起こして逆転負けしていたでしょう。

実際に海堂は自分以上のスタミナを持つ「4つの肺を持つ男」であるジャッカル桑原に真っ向から持久戦を挑んでましたし、乾に関しても柳相手に粘りに粘って勝ちを収めました。
そして比嘉戦でも氷帝戦でもやはり乾・海堂ペアは前半でやられても粘って相手の体力を削り、その間に乾がデータを取って戦略を立てて倒すという戦い方をしています。
幸村も柳もそこを理解しているからこそ、試合を長引かせる前に赤也を悪魔化させて短期決戦で乾を集中的に狙うことで棄権負けを誘発し、不戦勝に持ち込むつもりでいたことが窺えます。
それがあのテニプリ史上類を見ない残虐ファイトであったD2の内実であり、極めて冷徹にして非情すぎる作戦だったわけで、そりゃあ後味が悪くなるわけです。

話を元に戻して、こうしてみると無我の境地やその派生形である天衣無縫の極みは開眼するのに一定の条件があるように、悪魔化にも一定の発動条件があるように思えます。
まず思いつくのは「狂気と見紛うほどの激しい怒り」ですが、普段の人間性がわかりやすくメンタルの浮き沈みが激しい赤也はともかくなぜ青学の海堂が悪魔化したのでしょうか?
劇中では乾と積み重ねてきた絆があり、それを理不尽な形で引き裂かれてしまったこと、そして自分ではなくパートナーの乾を狙うという赤也の卑劣さに対する憤りがありました。
前者は海堂のテニスの根幹にあったものであり後者は海堂自身の信念に引っかかるもので、この2種類の怒りが極限まで高まって悪魔化に至ったのであろうなと。

青学の中で感情を表に出すキャラというと桃城・海堂・菊丸・河村の4人が挙げられますが、この中でその「怒り」を表しなおかつ精神面がブレやすいのは海堂でしょう。
桃城は一見感情的なようでいて奥底は冷静で洞察力に優れていますし、菊丸は怒ってもそこまで根に持つタイプではなく、河村はラケットを持つと性格が豹変するタイプです。
一方で海堂は桃城とは対照的に一見冷静で礼儀正しいしストイックなようでいて、奥底はかなり激昂しやすい感情的で危険な側面が見られます。
実際に最初に越前に番狂わせを起こされて負けた時はラケットで自分の膝を傷つけてましたし、関東決勝の桃城とのダブルスでは一度心が折れかけました。

赤也も海堂も本質的に感情で動き強気に見えて意外とメンタルが脆く崩れやすい部分が共通しているのです。
しかし海堂は赤也と違い礼儀正しさやストイックさによってその激昂しやすい面を表面化させないように意識的に抑え込んでおり、冷静な乾やライバルの桃城が隣で支えてくれます。
だからこそ滅多なことでは怒りが表面化することはないのですが、全国決勝D2では頼みの綱だった手塚が惜敗し、さらに越前は記憶喪失と窮地に追い込まれていました。
その上でようやく見えてきた勝ち筋までもが無残な形で否定されるわけであり、海堂の精神も極限の状況の中でそれだけ追い詰められていたということでしょう。

ここまで深掘りしたことで、ようやく赤也だけではなく海堂までもが悪魔化した理由がわかりますし、青学で悪魔化しそうなのは確かに海堂以外にはいません。
しかし幸いだったのはそんな海堂の悪魔化を乾が体を張って止めてくれたことであり、闇の世界に引きずり込まれるのをギリギリで回避したといえます。
一方で赤也の悪魔化は誰も止めないどころかむしろ味方側が率先して悪魔化を煽って強制しているところにあり、立海のテニスの怖さが感じ取れるでしょう。
要するに「勝てば官軍負ければ賊軍」「負けてはならぬ必ず勝て」が掟ですから、たとえ相手を傷つけようが何しようが勝ちさえすればいいのです。

これが同時に青学と立海の最大の違いであり、青学は不二とタカさんが比嘉戦の時に歌っていた「テニスとは」という歌にその本質が隠されています。

僕たちアスリートにとって一番重要なこと
それは勝つということ
しかし一番重要なことより
もっと大切なことがある

そう、勝ち負け以前に青学が大事にしていることはあくまで自分の好きなテニススタイルを貫き卑劣なプレイをしないことが青学のテニスの根幹なのでしょう。
だからこそ立海大が全国決勝で見せてきた卑劣なプレイは青学にとって相容れないものですし、まさに青学が「光」で立海が「闇」の象徴なんですよね。
無我の境地に入るものが3人もいながら誰一人その先の扉を開けなかった立海に対し、無我の境地とその奥にある扉を全て開眼した天才が2人もいる青学という違いにもなっています。
そして赤也と海堂がハマった悪魔化はもしかすると亜久津や越前も同じように落ちていたかもしれないと考えると色々考えさせられる次第です。

しかし、赤也がせっかく悪魔と天使を飼い慣らしたのですから、海堂も思い切ってマムシを本当に具現化してヤマタノオロチ海堂なんてやってみたらいかがでしょうか?


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?