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スーパー戦隊シリーズ第30作目『轟轟戦隊ボウケンジャー』(2006)

スーパー戦隊シリーズ第30作目『轟轟戦隊ボウケンジャー』はスーパー戦隊シリーズ30作目の作品として初めて「記念(アニバーサリー)」作品として作られました。
アバレンジャー」以来3年ぶりとなる日笠Pに加え、「仮面ライダー剣ブレイド)」の後半でメインライターを務めた會川昇先生の唯一のメインライター戦隊でもあります。
そんな會川先生の作風がかなり強く出ているだけあって、放送当時からかなり賛否両論、好みも両極端に別れていて私は正直最初にリアルタイムで見たときは苦手でした。
というのも、過剰にロジックを押し出してくる感じとチーフのイケイケドンドンな俺様具合がどうにも肌に合わなくて、今でもチーフのことは好きかと問われたら好きではありません。

そんな本作ですが、当時は「仮面ライダーカブト」「ふたりはプリキュアSplash☆Star」と一緒に見ていて、思えば戦隊・ライダー・プリキュアを全話通しで見たのはこれが最初で最後です。
で、その3作の中で本作が最も風変わりで、言ってしまえば広義の意味での「正義の味方」ではないヒーローは本作が最初で、これが後の「ゴーカイジャー」「ルパパト」のルパンレンジャーにも繋がっているのかと思います。
ただし、決して適当にふざけて作った作品ではなく、きちん初期1クールから物語設計を行い、2クール目以降はのびのびと自由に遊べるようにできていて、本作も言ってみれば金太郎飴方式の物語です。
また、DVDには収録されていませんが、毎週必ず歴代スーパー戦隊について紹介するコーナーがあったり、VSシリーズも「ボウケンジャーVSスーパー戦隊」という「ガオレンジャーVSスーパー戦隊」の第2段をやっています。

そんな本作ですが、年間のアベレージは高く今見直してもクオリティが高いと思うものの、意外にも玩具売上は良くなかったらしく、また視聴率も裏番組の「ポケモンサンデー」の影響からか大幅に下がりました
昨年の「マジレンジャー」がとても好調だったことと比べると、これはかなりの痛手なのですが、結局のところ原因は何かというとやはり「子供を置き去りにした内容」だからなのかもしれません。
とはいえ、「タイムレンジャー」程極端なわけではなく、ある程度子供でも見られるような明るい空気とわかりやすさは醸成しているのですけど、どちらかといえば旧来ファンにオマージュを捧げた印象です。
それでは具体的に本作の魅力を語っていきますが、本作に関しては評価こそ高いもののややネガティブなコメントが入りますのでご注意ください。


(1)歴代初の「正義の味方」ではないピカレスクヒーロー

導入文でも触れていますが、設定上で見たところの本作最大の特徴は歴代初の「正義の味方」ではないピカレスクヒーローであり、本作のボウケンジャーは決して「地球の平和を守る」ことを目的としていません。
あくまでも彼らは「冒険者」であって「ヒーロー」ではなく、子供人気が今ひとつ得られなかった理由はそもそも憧れの正統派ヒーローとは真逆のところにいるという設定のせいではないでしょうか。
前作「マジレンジャー」はとても理想的な正義のヒーローであり子供人気はとても高く、その辺の反動もあったでしょうし、ただあそこまで完成したヒーローの後で中途半端なものは作れません。
それは前例があって、「ギンガマン」の後に同じ正義のヒーロー路線をやった「ゴーゴーファイブ」はクオリティこそ高かったものの、どうしても子供人気で「ギンガマン」に勝てませんでした。

日笠Pとしても「ゴーゴーファイブ」でそういう苦い経験がある以上「普通の正義のヒーローをやっても難しい」と判断し、あえて時計の針を正反対に回して「冒険者」の物語を考えたのでしょう。
しかし、だからといって単なる冒険活劇を描いても工夫がないと取られてしまうから、それをスーパー戦隊シリーズのフォーマットと掛け合わせて物語を成立できる人が必要となります。
そこで本作は「メタフィクション」を下敷きにしたヒーロー物を得意とするメインライターの會川昇先生や浦沢門下生の大和屋暁氏を中心に、更に小林靖子女史や荒川稔久氏も集めているのです。
このアニバーサリーに合わせて2000年代のスーパー戦隊シリーズを支えてきて、実績を出している脚本家たちをしっかりと呼び寄せているおかげで安定した作風になりました。

本作のボウケンジャーはサージェス財団という民間企業に属している従業員たちという設定であり、実はこの「民間企業所属」という設定の戦隊は歴代探してもなかなかありません。
いわゆる警察や軍人のような公権力ヒーローでもなければ、ファンタジー戦隊がよく用いている「伝説の戦士」でもない、更には自発的に結成した個人事業主の戦隊でもないという設定です。
そして冒険の内容も「プレシャス回収」という名の、実質は「商品の納入」であり、だからQuest(冒険)ではなくTask(仕事)というサブタイ名になっています。
だから本作で描かれているのは「デカレンジャー」と同じで「民間企業で働くサラリーマンの日常」であって、言ってみればこれは「サザエさん」「ドラえもん」と似たようなものです。

もちろん追加戦士の加入はありますしメンバー同士の関係性も少しずつは変化しているものの、いわゆる「団結」「成長」というところに重きを置いたシリーズではありません。
しかもデカレンジャーは警察という世の大半が「正義の味方」と認識するヒーローですが、本作のボウケンジャーは決して誰も「正義の味方」とは認識しない人たちなのです。
そういう人たちをスーパー戦隊シリーズのフォーマットに合わせて作るのは大変な作業であり、だからこそ初期1クールでは丁寧にその下地を作って物語を展開していました。
私の好みには残念ながら今ひとつ合わないのですが、ただここまで設定した上で最後までその冒険者路線を徹底させた労力は評価に値していて、私はそこに敬意を表しています。

(2)完璧超人のリーダーと見せかけた冒険バカのチーフ

そんな本作の最大の特徴がファンの間でも劇中の人物からも「冒険バカ」の相性で親しまれているチーフこと明石悟であり、彼の存在はとてもユニークではないでしょうか。
彼はいわゆる「オーレンジャー」のオーレッド・星野吾郎以来のカリスマ性を持った完璧超人型の頼れるリーダー像と見せかけておきながら、その実ただの冒険バカなのです。
その我儘ぶりは半端ではなく、特に初期は他のメンバー4人を差し置いて独断専行で行動するようになり、しかもヒントだけを残して最後に美味しいとこを掻っ攫っています。
まあ「不滅の牙」の名は伊達じゃないのですが、後半になるにつれて彼はどんどんいじられるようになっていき、そのバカさ加減はTask32で頂点に達するのです。

どうしてこのようなレッドにしたのかというと、會川昇氏が意図していたのは「バカレッドの否定」という高度な皮肉であり、それをチーフを通して描いていたのではないでしょうか。
実際「ガオレンジャー」あたりから戦隊レッド=暑苦しい熱血単細胞のイメージが強くなっており、それこそが戦隊レッドなのだという認識がファンの間で定着していました。
もちろんシリーズにはいろんなタイプのレッドが居ていいとは思うので、私個人の好みからは外れていても、そういう少年漫画タイプの戦隊レッドがいてもいいとは思います。
ただ、ここで問題なのは「結局バカが許される」ことにあり、それを容認してしまうとゆくゆくは「正義感がありさえすればバカでもいい」という認識を植えつけかねません。

しかし、世の中バカでいいことなんて何一つないし、そもそも「バカ」という単語自体がどんなにいい意味で使ったとしてもその人の存在価値や人格を否定してしまう単語です。
チーフはそういう意味で、80年代戦隊シリーズのレッド像と00年代戦隊シリーズのレッド像を掛け合わせることで「冒険以外は何も考えてないバカ」となっています。
ただ、こうでもしなければ当時の子供達にチーフみたいなレッドは受け入れづらかったでしょうし、こういうバカっぽさが完璧さとセットになることで逆に親近感を持たせているのです。
そして何より、この高度な冒険バカを見事に演じきった高橋光臣氏の絶妙な演技力があってのもので、いわゆる「イケメン」とはまた違う絶妙な胡散臭さがいい味を出しています。

そしてそんなチーフの濃さに埋もれがちですが、ほかに真墨を演じた齋藤ヤスカや子役時代から演技力達者な末永遥、またアクションも演技も一流の出合正幸氏など豪華キャスト勢ぞろいです。
ボウケンジャーはそれこそ歴代の中でも単純なキャラ立ちや面白さで言えば00年代戦隊の中でも上位に入るものであり、これを超える戦隊となるとそれこそ2009年の「シンケンジャー」くらいしかありません。
前作「マジレンジャー」でかなりの数字を叩き出したことで予算も贅沢にあり、オーディションにしっかりお金と時間をかけて選んだことがわかる作りになっています。
私は正直チーフのキャラ自体は苦手で好きではないのですが、作品の世界観やストーリーを象徴するには確かにこれくらいインパクのあるやつを持ってこないと成立しないだろうと納得はしました。

(3)「ゴーゴーファイブ」以来の秀逸なメカニック描写

そして本作最大の美点は「ゴーゴーファイブ」以来となる秀逸なメカニック描写であり、「デカレンジャー」ではイマイチ生かし切れていなかったロボットの活躍が描かれています。
ビクトリーロボ以来の戦いとは別の冒険探査用の目的を持ったダイボウケンやサイレンビルダー、さらにダイボイジャーなど各マシンがしっかり魅力的に描かれているのです。
それから大剣人ズバーンもまた武器に変形したり巨大化したりと八面六臂の大活躍を見せていますが、こういうところもまた本作ならではの特徴と言えるでしょう。
その上でロボットが10体合体をするなど、ついに「そっち方向に振り切ったか」というのもまた伺えるので大変面白い試みです。

なぜこのようになっているのかというと、前作「マジレンジャー」のマジキングやマジレジェンドがいわゆる「マジレンジャー自身の巨大化」だったからでした。
つまりファンタジー戦隊の合体としては行き着くところまで行ったわけであり、そうなるとメカニックで差別化を図るには逆にリアル路線を打ち出すしかありません。
そこで役に立ったのが「ゴーゴーファイブ」の救急メカの方法論であり、「ゴーゴーファイブ」は作品のトータルバランスや子供人気でこそ「ギンガマン」に勝てなかったのですが、唯一勝っていたのがメカニックでした。
救急メカを用途に応じて使い分けという手法を本作なりに再利用し、その経験から出てきたのがダイボウケンをはじめとするゴーゴービークルの数々なのでしょう。

ただ、最終的にはメカがかなりごちゃごちゃと出てきてしまうので、個人的にはかなりバランスの悪いことになってしまったかなあと思います。
アルティメットダイボウケンの時点でもうお腹いっぱいなのに、その上でサイレンビルダーダイボイジャー、ズバーンですからね。
一応物語上でそのビークルが登場する意味づけはなされているとはいえ、2000年代のスーパー戦隊シリーズである「玩具販促のためにひたすら玩具を出す」が裏目に出てしまいました。
それから、個人的には10体もゴテゴテと合体するのは好きではなく、せめて1号ロボ+2号ロボのスーパー合体程度にとどめておいて欲しいものです。
カニック描写自体は間違いなく歴代トップクラスのクオリティではあるものの、後半では数が多すぎて持て余している印象を受けます。

(4)スーパー戦隊シリーズの縮図を明らかにした終盤の展開

さて、そんな本作ですが、後半に入るとメインライターの會川昇氏が終盤まで戻ってこないため、どうしても作風にメリハリがなく物語がのんべんだらりとしてしまっています。
しかし、終盤ではしっかり山場が用意されており、チーフとリュウオーンの因縁とか真墨の心の闇とか、いろいろしっかり描かれてそれが美しく結実していくのは見事です。
また、最終回では久々の生身名乗りを見せて、最終回限定の連携技を見せるので、かなり見応えのある展開にはなっていますが、同時によくよく読み解いて行くととんでもない事実が見えます。
というのも、ボウケンジャーとサージェス、そして敵組織であるネガティブシンジケートの関係性を終盤の展開が明らかにしてしまったからです。

サージェスは歴代で見てもかなりのブラック企業で信用ならないのですが、自分たちの機密事項を守るためなら平気でボウケンジャーを切り捨てる様はまさにスポンサーの財団Bのカリカチュアとなっています。
そんなサージェスに雇われ、文句を言いながらも渋々プレシャス回収に当たっているボウケンジャー財団Bに依存する形でしか作品を作れない東映そのものであると言えるでしょう。
そしてボウケンジャーとプレシャス争奪戦を繰り広げているネガティブシンジケートは円谷プロポケモンを作っているところなどの他のヒーロー番組を作っている競合他社のカリカチュアです。
會川昇氏が本作で年間を通して描いているのはそんなクソみたいな癒着の中でしか動けないボウケンジャーたちのしみったれたサラリーマン体質だったのではないでしょうか。

普通なら終盤でそんなサージェスすらも振り切って自分たちで自分たちの冒険を行うということをしてもいいというか、私は正直「ボウケンジャー」の終盤にはそんな野心的展開を期待していました。
しかし、彼らは結局サージェスの呪縛から逃れることはできず、自分たちの冒険というものをできずにいるのですが、それはなぜかというと「タイムレンジャー」の教訓があるからでしょう。
タイムレンジャー」ではまさにその第三のルートを選び、ラストはもう公権力ヒーローとか歴史修正がどうとか関係なく、自分たちの力で大消滅を防ぐという選択をしたのです。
そのおかげで「タイムレンジャー」の終盤は歴代でも類を見ない展開となって高い視聴率を記録したのですが、その反面玩具売上は歴代最低という代償を支払うことになりました。

だから「ボウケンジャー」ではそのような第三のルートを選ぶなどということはできず、かといって子供向けに王道の展開にするということもできなかったのではないでしょうか。
その辺の鬩ぎ合いがあったせいで、結局最終回も表向き綺麗にまとめたつもりのようでいて、最終的に「俺たち東映は所詮財団Bのもとでしかものを作れないんだ」ということを白状してしまったのです。
しかし、そんな事情を理解している大人の戦隊ファンならともかく子供にそんな大人のケチくさいエゴなんて見せたところで伝わるメッセージになるのかというと答えは「No」でしょう。
だから結局のところ子供人気その他は「ポケモンサンデー」に取られる形になってしまい、大人向けのドラマとしても、子供向けのエンタメとしても中途半端な結果に終わってしまいました。
この終盤のまとめ方さえもっと振り切ってやってくれたら傑作になり得たでしょうに、そこで画竜点睛を欠いてしまった感じがあります。

(5)「ボウケンジャー」の好きな回TOP5

それでは最後にボウケンジャーの好きな回TOP5を選出いたします。1話完結型なので、純粋に好きなエピソードから選出しました。

  • 第5位…Task12「ハーメルンの笛」

  • 第4位…Task11「孤島の決戦」

  • 第3位…Task28「伝説の鎧」

  • 第2位…Task32「ボウケン学校の秘密」

  • 第1位…Task7「火竜(サラマンダー)のウロコ」

まず5位はさくら姉さんのプロフェッショナルな感じをしっかり描いた回であり、小林靖子女史の熟練の腕が光ります。
次に4位は1クールの締めにして完成と言える回であり、チーフの冒険バカっぷりとそれにふさわしいオチも含めてよく描けていました。
3位は真墨メイン回の中で一番好きな回であり、チーフと違って独断専行に走らない彼のクレバーさが光っています。
2位はそんな冒険バカのチーフをひたすらにいじり倒すギャグ回であり、「チーフから冒険を取ったら何も残らない」は名言です。
そして堂々の1位はそんなチーフのバックボーンが描かれた序盤の傑作回であり、ここでやっとチーフというキャラクターがつかめました。

こうしてみると本作はチーフ、真墨、さくら姉さんの3TOPがしっかりと作品を支えていた名キャラだったのだなと思います。

(6)まとめ

スーパー戦隊シリーズ第30作目として作られた本作ですが、確かにそれにふさわしい内容ではあるものの、やや中途半端な印象は拭えません
それは子供人気と大人人気の最大公約数を取れなかったことにありますが、それ以上に終盤でのまとめ方が今ひとつだったことにあります。
確かにメタフィクションとしては良くできていますし、キャラもメカニックも好きなのですが、東映の情けない縮図なんか子供たちに見せて何になるのでしょうか?
そのため、もう一歩突き抜けきれなかったので総合評価はA(名作)、異色作と評するにはもう1つであったなと思います。

  • ストーリー:B(良作)100点満点中70点

  • キャラクター:A(名作)100点満点中85点

  • アクション:A(名作)100点満点中85点

  • カニック:S(傑作)100点満点中100点

  • 演出:A(名作)100点満点中80点

  • 音楽:A(名作)100点満点中85点

  • 総合評価:A(名作)100点満点中84点

評価基準=SS(殿堂入り)S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)X(判定不能)


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