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REI, Patagoniaのリセール事業成功を支える影の立役者「Trove」とは?

Patagonia、REI、Arc'teryx、The North Face、・・・。今、アウトドア業界の大手ブランド・リテーラーが次々とリセール事業に参入し、売上を伸ばしている。新しい商品を開発・販売することで収益を得てきた企業が、今なぜ、これまでの事業を自ら破壊するようなリセール事業にテコ入れし始めたのか。前回noteでは、この米国リテール業界でトレンドになっている「リセール3.0:Branded reCommerce」について概観をまとめた。

ブランド・リテーラーがリセール事業を始めるには、大きく分けて二つの方法がある。

❶ 自社で企画・開発・運用まで全て行う
❷ リセール事業の立ち上げから運営まで全てを担ってくれる企業と協業する

アウトドア業界のブランド・リテーラーで、リセール事業に参入している全ての企業が二つ目の方法をとっている(例外あったら教えてください👍)。本記事では、この二つ目の方法を提供する企業、つまりリセール・プラットフォームを提供し、ロジスティクスから洗浄、修理、カスタマーサポートまでを一挙に引き受けるホワイトレーベル企業を紹介する。そして、その中でも頭一つ飛び抜けているTroveという会社について深掘りする。この企業の活躍なくして、PatagoniaやREIのリセール事業の急成長は語れない。

Key takeaways
- Branded reCommerce(ブランド・リテーラーの自社リセール事業)の成長を支える影の立役者には、TroveやThe Renewal Workshop、Recurate、Reflaunt、Achiveなどがいる。
- リセール・プラットフォームの領域には、2018年頃からVCや投資家からのお金がガンガン入っている。
- Troveは、ブランド・リテーラーがリセール事業を始めるためのプラットフォームを提供するホワイトレーベル企業。これまでの資金調達合計は$122.5M。
- Troveは、商品検査、クリーニング、修理・修繕、写真撮影、値付け、Webサイト掲載、保管、郵送、カスタマーサポートまでの一連の作業をパートナー企業の代わりにやってくれる。

Branded reCommerceの成長を支える縁の下の力持ち

各社Webサイト、Crunchbaseをもとに筆者作成(情報は記事作成時のもの)

Branded reCommerce(リセール3.0:ブランド・リテーラーの自社リセール事業)の成長を支える企業をざっくり調べてみると、Troveの他にも、The Renewal WorkshopやRecurate、Reflaunt、Archiveといった企業が勢力を伸ばしている。各社のビジネスモデルはさほど変わらないが、呼称は色々とあるようで、「White label platform」や「Resale-as-a-Service」などと呼ばれている。興味深いのが、Recurate、Reflaunt、Archiveの3社はそれぞれ2020年、2018年、2021年に創設されたアーリーステージのスタートアップであり、VCや個人投資家からのお金がガンガン入っている点。近年のリセール事業への注目度の表れと言える。

The Renewal Workshop

出典:The Renewal Workshop

米国内ではThe North FaceOspreyprAnaPearl iZUMiなど多くのアウトドアブランドと協業する。リセール・プラットフォームの提供企業としては、おそらく業界のパイオニア的存在で、2015年から事業開始(後で紹介するTroveは会社設立こそ2012年であるが当時は別事業を展開)。リセール・プラットフォームの実装だけでなく、自社工場でロジスティクスや仕分け、洗浄、修理までも手がける。2016年に第一号工場を米国オレゴンのCascade Locksに設立。2019年にはアムステルダムに第二号工場を設立し、欧州でも活動の幅を広げている(例:ドイツのThe North Face

Archive

出典:Archive

Archiveは、ブランドの顧客間でリセールを自由に行えるプラットフォームを提供する。パートナー企業には、M.M. LafleurThe North Face(カナダ)などがいる(The North Faceは米国内ではThe Renewal Workshop、カナダではArchiveとパートナー提携をしており、なぜそうしているのか背景が気になる。大人の事情か?)。
データ連携に力を入れており、売り手の過去の購買情報から商品の写真を入手できるため、手軽に商品掲載が可能。買い手にとっては、新品購入と同様の手軽さで中古品を購入できる(出典)。この「新品購入と同様の手軽さの購入体験」は地味に超重要で、TroveのCEO Andy Rubenもこちらのビデオでその重要性に触れている。スマホでワンクリックで服を買うことに慣れている現代人にとって、中古品の購入体験も同じように簡単でなければならない、と説いている。

Recurate

出典:Recurate

Archiveと同様の事業を展開する。パートナー企業にはOUTERKNOWNMARA HOFFMANpeak designなどが名を連ねる。既存のブランドオンラインストアにそのままリセールストアの機能を付加できる。そのため顧客に対して、新品・中古品の区別なく一貫したブランド体験を提供できる。また、過去購入データをもとに中古品をそのまま売れる利便性もある。

Reflaunt

出典:Reflaunt

ロンドン発。このリストの中では唯一の米国外の企業。パートナー企業には、Balenciaga and Cosなどが含まれる。エンドユーザーは各ブランドサイトで購入したアイテムを同じサイトから売ることができる。本物であるかの査定を通った中古品は、Reflauntが持ついくつかのマーケットプレイスに同時公開される。ポテンシャル購買客は3,000万人とも言われており(出典)、買い手がすぐにつく仕掛けになっている。

Troveとは?

Circular Shoppingの図(写真出典

Troveは、ブランド・リテーラーがリセール事業を行うためのプラットフォームを提供するホワイトレーベル企業。今リセール業界で最もノリに乗っている企業と言っても過言ではない。上図に示すような"Circular Shopping"を提唱し、サステナビリティや環境問題に課題認識を持つブランド・リテーラーをパートナーとして二人三脚でリセール事業を展開する。パートナーには、PatagoniaREILululemonEileen FisherLevi’sArc’teryxNEMOCotopaxiNordstromTaylor Stitchなど名だたるブランド・リテーラーが名を連ね、各々がリセール事業において急成長を続けている。Patagoniaは、事業立ち上げからこれまでに130,000点以上の中古品を新たなリセールアイテムとして追加し、REIは2019年だけで100万点以上の中古品を販売している(出典)。現在はアウトドア業界、アスレチック業界、コンテンポラリーファッション業界との連携が多いが、今後はラグジュアリーブランドにも力を入れる予定だ。

Troveは2019年にSeries CとしてUS$25Mを資金調達後、2021年8月にはSeries Dとして$77.5Mを調達しており(出典)、これまでの合計額はUS$122.5M(約140億円)に達する。2012年の創業だが、当初は別ビジネスをやっていたため、調達額の80%以上は現在のリセール・プラットフォームにピボットしてからになる。バリュエーションは$200M〜$300M(出典)。様々な企業とパートナーシップ契約を結ぶTroveだが、商品取扱点数は2020年で100万点以上(出典)。その数は今なお増え続けている。

Troveの歴史

今でこそリセール業界を牽引し、従業員数は300名を超えるTroveも創業からの数年間は苦労が絶えなかった。創業時は、Yerdleという社名兼サービス名で、個人間で中古品の貸し借りのマッチングを行うPtoPプラットフォームサービスを展開。4年やったが、貸し借りのマッチングや個人間の信用を構築することが課題となり、事業の成長が大きく見込めなかった。何度か売却話もあったがどれもうまくいかず、会社の経営状況を知った社員たちが次々と離脱。60名いたチームが最終的には5名になった。そんな逆境の最中、取締役数名で会社再建のために出しあったピボットアイデアの一つに、今のTrove事業の原石があった。

CEO Andy Ruben@Trove自社倉庫(写真出典

Yerdleで利用していたスペースを貸し出しつつ、顧客がついていない中、Troveの第二章がスタート。CEO Andy Rubenは顧客獲得のために毎日奔走した。Eileen Fisherのオフィス前でキーマンを待ち伏せしたり、Patagoniaの役員がUtahで行われるトレードショーに行くことを耳にし、荷物も何も持たずにその足で直行、Troveの価値を力説した。その後、彼の想いが実り、Eileen Fisher、Patagonia*、REI3社と契約を結び正式に事業をスタート。最初の3年間はこの3社とのみ協業した。
※ Patagoniaは2014年にTroveに投資開始し、3年後にWorn Wearプログラムをスタート。2020年にはWorn Wearの売上が300%増になり、目覚ましい成長を遂げている(出典)。

Troveの名前に込められた想い

会社名でありサービス名であるTroveは、2020年2月にYerdleから改名された。当時、CEO AndyがLinkedInに投稿した記事には、その名前に込められた想いが以下のように綴られている。

If you ask Merriam-Webster (オンライン英語辞典), a Trove is defined as “discovery, find; a valuable collection.” And that’s always been our mission: to transform the resale space and enable customers to uncover exciting new fashions from the brands they trust and already frequent.

出典:2020, Meet Trove. Is There Ever a Good Time to Change Your Name? (LinkedIn)

ちなみに、Troveは日本語では掘り出し物の意。蚤の市や古着屋で唯一無二の掘り出し物を見つけた時のような体験の提供、また大量生産される新品へのアンチテーゼが含まれた名称は、チームの想いがストレートに伝わってきて好感を持てる。

How It Works

Troveのビジネス図解(筆者作成)

Circular Shopping(循環型ショッピング)を提唱するTroveのビジネスを図解してみた。消費者のクローゼットに眠っている衣服やギアが新しい消費者の手に届くまでのプロセスは、ざっくり次のようなステップを踏む。

Step 1. 中古品の受取

REIはレジで返却可能(写真出典

Troveとパートナーシップを組んでいるブランド・リテーラーの衣服やギアを持つ消費者は、店舗に直接持ち込み、売却できる。持ち込み/売却時の報酬は各ブランドによって異なるが、現金もしくは店舗・オンラインで使えるストアクレジットであることが多い。受け取ったアイテムは、まとめてTroveの倉庫に送られる。
僕が勤めているREIのSoHoストアのように、Garage Saleコーナーがある店舗では、返却品を検査後に同じ店舗内で再販する。Garage Saleアイテムは、REIメンバーであれば購入可能。(Troveの倉庫に中古品が送られるケースがどんなときなのかは不明)

Step 2. Trove倉庫での商品検査プロセス

写真出典(TroveGear Patrol

ブランド・リテーラーの各店舗から届いた商品は、一度倉庫内の返却ステーションに集約される。各商品のタグをスキャンし、システム内のデータと照合。その後、ボタンやジッパーの機能、穴が空いていないかなど、商品の状態をチェックする。商品の状態は、「A:New」から「F:Very well loved」のようにグレーディングされており、顧客がリセールサイトで見る「Like New」や「Excellent」「Great」「Good」などの表記は、この時の結果が反映されている。

Step 3. クリーニング、修理・修繕、写真

写真出典(TroveGear Patrol

検査が終わった商品は、必要であればクリーニングや修理・修繕が行われる。その後、商品はWebサイト掲載用に一点ずつ撮影され、保管箱にストックされる。Troveは保管方法に、"Flexible Binning"を採用。商品そのものと商品が入っている箱のタグが連動されており、どこに何があるかがシステム上ですぐに把握できる(出典)。また、商品を入れる箱が満杯かそうでないかを視認できるように、写真のような赤タグ(満杯)、緑タグ(空きあり)も活用している。

Step 4. 値付け、Webサイト掲載、発送

写真出典(TroveREI good & used

値付けがされた商品は、各ブランドのリセールサイトに掲載される。オーダーが入ったあとは、保管箱から該当商品が取り出され、専用の箱で購入者に届けられる。

なぜTroveはうまくいっているのか?

今回はブランド・リテーラーのリセール事業の成長を支えるホワイトレーベル企業をいくつか紹介した。中でもTroveはアウトドア業界のジャイアントREIやPatagoniaと協業し、大きな成長を遂げている。ではなぜTroveはここまで事業成長できたのか?理由は複合的だろうが、ざっと考えるとこんなところかなと思う。

・低リスク・低コストでリセール事業を始められる
・Z世代やミレニアル世代の消費行動の変化をいち早く察知
・パートナー企業を選ぶ戦略のうまさ
・CEO AndyのWalmart Global eCommerceでの豊富な経験と人脈
・Yerdleで利用していた倉庫やロジなどの既存リソースの再活用

一つ目の理由に関する参考情報

Troveを使うブランドがリセール事業を始めるまでにかかる期間は3-5ヶ月。元REIのreCommerce部署のディレクターで、その後TroveでVP of Growth and Partnershipsを歴任した経験のあるPeter Whitcomb曰く、REIでインハウスでやる場合は、8桁ドル・数年かかるそうだ。

FUSION Associates: Q&A with Peter Whitcomb, Trove